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ロンドン市長「移民を受け入れないと日本のように経済停滞する」

ブレイディみかこ在英保育士、ライター
ロンドン市長ボリス・ジョンソンと舛添都知事(写真:Motoo Naka/アフロ)

ユネスコへの拠出見直し問題にどんな読者コメントがついているのだろうなあと英紙ガーディアンのサイトに行ってみると、当該記事にはコメントがついていなかった。が、全く関係のない日本関連記事に3百以上もコメントがついていた。

訪日して日本の小学生とラグビーでタッチダウン。などというほのぼのとした話題を提供していたロンドン市長ボリス・ジョンソンが、その裏側で「移民を入れない国は日本みたいに経済が停滞する」と警告を発していたという。

「日本は長期の経済停滞を経験していて、なんとかそこから抜け出そうとしている。彼らは人口学的な問題を抱えている。英国の人々が考えねばならない問題の一つは、彼らが受け入れている移民の数はとても、非常に少ないということで、人口の伸びも非常に低いというか、実際にはマイナスだということだ。つまり、彼らの人口は減少している。そのことが彼らが経験している長期における経済停滞の原因になっているのは言うまでもない。しかしそれは状況に応じて捉えられるべきだ。彼らは驚くほどダイナミックで、活気に満ち、素晴らしくリッチな、世界第三位の経済国だからね。我々はそこにいるべきだ」

出典:The Guardian "Boris Johnson says low immigration could lead to economic stagnation”

この記事についているコメントのほとんどは日本に関するものではなかったが(どこの国の人も他国の例から自分の国について考えてしまうもののようだ)、しかし以下のようなものも見られた。

「じゃあボリス・ジョンソンはEU懐疑派ではないということだな?英国がEUを離脱したら、日本より遥かにひどい状況になる」

「日本は信じられないほど犯罪率が低いし、人種間や宗教による衝突やヘイト犯罪の問題もない。それは部分的には単一民族の社会だからだと思う。そして、強い価値観を持っているという理由もある。英国が今後も移民を増やすつもりなら、少なくとも後者の、何が良くて何が悪いことなのかという価値観は日本から学ぶべき」

「”人種間や宗教による衝突やヘイト犯罪の問題もない”・・・・・。それは皮肉?」

「日本の移民の少なさは行き過ぎ。彼らもコントロールされた移民政策の恩恵を受けるべきだ。それはこの国も同じこと」

「日本は絶対に英国のようなオープンな移民政策を取ったりすることはしない。彼らは自分たちの国を外国人だらけにするより、停滞することを選ぶだろう。日本の人々と話して、それが彼らの考え方なんだと学んだ」

出典:The Guardian:Comments for "Boris Johnson says low immigration could lead to economic stagnation”

保守党では、キャメロン首相の次の党首をめぐるリーダーたちの争いが始まっており、テレーザ・メイ内務相などは党大会でほとんど排外的と言ってもいいスピーチを行って「あれは右すぎ」と党内のリベラル派にドン引きされている。が、難民・移民問題を受けて、UKIPや、それ以上に過激な右翼政党が活気づいている英国では、「よく言った」の声を飛ばしている人々も少なくない。

保守党の次の党首の大本命はオズボーン財務相と言われているが、ボリス・ジョンソンも候補の一人と言われており、保守派テレグラフに執筆した記事の中で保守党内の右傾化する陣営を批判している。

「コミュニティーが何らかのストレス(戦争や経済における苦境)を経験している時、歴史的に人々はわかりやすいスケープゴートを見つけて攻撃する。彼らをこうした行為に向かわせるのは『不安』だ。ユダヤ人、外国人、ホモセクシュアル、ジプシー。こうした偏見による被害者たちは何世紀も前から同じことで苦しめられてきた。彼らがそんなパワーを持っているはずがないことまで、彼らのせいにされてきた。あなたの子供は家が買えないんですか?移民のせいです。仕事がない?移民のせいです。緊急病棟で医者が足りない?移民のせいです。M4号線で交通渋滞?移民のせいです。

当然だが、こうした問題にはいくつもの複数の原因があるのだ。だが人々は、怒りを特定の一つのグループに向けようとする。そして政治家の中にも、それを助長する人々がいる」

出典:Boris Johnson: The Telegragh "Labour directs its impotent fury at all but those responsible ... itself”

ボリス・ジョンソンは、オックスフォード大学の悪名高きブリンドン・クラブ(超一流の上流階級の子弟が集う社交クラブ)のリーダーだった人で、同期のキャメロン首相のほうが実は隅っこにいる目立たないメンバーだったという。キャメロンは他のメンバーたちと外で大暴れするより自室でザ・スミスなどのレコードを聴くのが好きなオタクだったというドラマを見たことがある。現在の英国は、こうした超トップエリートたちによって運営されている。だからこそ労働党の新党首ジェレミー・コービンは、「地べたの現実を知らない一部のエスタブリッシュメントだけが国民の運命を決める社会はおかしい」と主張して人々の心を掴んだのだ。が、いくらコービンが出て来たって社会が夢のように一晩で変わるわけはない。保守党の党大会の会場周辺でデモを行った左派の人々が保守党員に生卵をぶつけたりしている映像を見ていると、これもまた「あまりに単純な怒りの矛先の一本化」と指摘されてもしかたのない材料を提供していると思う。

「彼らは、部分的には保守党が過半数を得て選挙に勝ったことに対して激怒しているのだ。しかし、そんなことは言えない。彼らは、部分的には労働党に対して激怒しているのだ。前任のミリバンドから新党首のジェレミー・コービンまで、自分たちの理念を実現させてくれない党のふがいなさに対して怒っているのだ。だが、そんなことはとても認められない。彼らの真の怒りは自分たちの内側に対するもので、労働党が一貫性のある野党でなくなったことに対するものだ。だがその問題はあまりに大きすぎて、正直に取り組むのが難しすぎるイシューだから彼らは卵を投げ、「人間の屑」と叫ぶ」

出典:Boris Johnson: The Telegragh"Labour directs its impotent fury at all but those responsible ... itself”

「きちんと機能してくれる一貫性のある野党」

が切実に、世の中が殺伐とするほど求められている。

それはたぶん英国だけの話ではないだろう。

在英保育士、ライター

1965年、福岡県福岡市生まれ。1996年から英国ブライトン在住。保育士、ライター。著書に『子どもたちの階級闘争』(みすず書房)、『いまモリッシーを聴くということ』(Pヴァイン)、『THIS IS JAPAN 英国保育士が見た日本』(太田出版)、『ヨーロッパ・コーリング 地べたからのポリティカル・レポート』(岩波書店)、『アナキズム・イン・ザ・UK - 壊れた英国とパンク保育士奮闘記』、『ザ・レフト─UK左翼セレブ列伝 』(ともにPヴァイン)。The Brady Blogの筆者。

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