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フェミニズムとIS問題

ブレイディみかこ在英保育士、ライター

『ザ・レフト』という本でジュリー・バーチルというライターのことを書いた。この人はUKパンク世代ライター(要するに50+)の女王的存在である。で、彼女が昨年11月22日にSpectator誌に発表した記事を最近ずっと思い出していた。以下は抄訳。

ISISのメンバーたちが仮設奴隷市場でクリスチャンの女性たちの値段交渉をしている動画を見た。一人は緑色の瞳をした15歳の少女を欲しがり、もう一人は銃と物々交換で少女を売れと言っていた。ISISは、少なくともその憎悪に満ちた世界観と行動とに一貫性があるということを思い知らされた。ある意味、他に類を見ないほど正直だ。IRAのような卑劣なテロ集団でも、その腐った組織の中で行われていたレイプや小児性愛を隠し続けようとしたのである。9月にアムネスティ・インターナショナルが「数千人ではないにしろ、少なくとも数百人のヤジーディの女性や子供たちがISISによって奴隷にされ、暴行を受けている」と主張した時、ISISはその数週間後にはネット・マガジンDabiqにまさにそうした行為を行っている自分たちの動画を高らかに投稿した。

だが、多くの左翼たちはまだ彼らのために言い訳を続けている。ISISがこれだけ自分たちの悪行に対してあからさまなのに、それでも一部の奇妙な左翼たちが彼らに同情的でいられるのは、「彼らの女性たちへの仕打ちにも関わらず」ではなく、少なくとも部分的には、それがあるからだと思うようになった。

出典:The Spectator

ジュリー・バーチルは、ミリタリー系フェミニストを自称するコテコテの男女同権主義者だ。が、わたしの周囲でも英国の女性(&同性愛者)はたとえアナキスト系の人でもISIS側に寄り添うようなことは言わない。というのも、やはり「ISISは拉致してきた少女たちを倉庫に押し込め、3人ずつ呼び出してはレイプしている」だの「同性愛者たちをビルの上から突き落として『処刑』している」だのいうニュースを読むと、「彼らの気持ちもわかるわあ」という方向には行かないからだ。

もちろん、他の理由もあろう。(中略)昔の左翼が使った「カラー・チャート」式ポリティクスもある。彼らの信条体系がどのように人間を扱うものかということとは関係なく、原則として、肌の色が濃い方を選べという考え方だ。(中略)だが、もちろん、ダルフールでは左翼はくせ玉を投げられた。アラブ系ムスリムの民兵が、黒人キリスト教徒を恐怖に陥れたからだ。うーむ。ムスリムはGOOD。キリスト教徒がBAD。の図式の筈なんだが、待てよ、ここではキリスト教徒の方が黒人ではないか。(中略)左翼の男性たちにISISのシンパが多いのは、人種というより、性別の問題があるのではないか。フェミニズムの行進への抑圧された嫌悪感である。もちろん彼らは死んでもそれを認めることはできないだろうが。

出典:The Spectator

ここまで来ると、いかにもジュリー・バーチルらしいコントラヴァーシャルなアマゾネスの筆致になってきた。

過去30年間、「白人のワーキングクラスは愚かで遅れていて、セクシストでホモフォビックで排他的だ」と言い続けてきた都会の左翼たちが、セクシストでホモフォビックで排他的な思想にシンパシーを抱いている。(中略)多くの男性たちが、「ブラザーフッドの世界」での大義検査に合格する相手であれば、彼らが女性に対しどれほどひどいことをしていてもいいと思うようなのである。このゾッとするようなカルチャーは、部分的には「自分は白人の西洋人だ」というバカバカしい罪悪感もあろう。このビクついた男たちは、たとえ自分たちの愛しい白髪の母親が、一方でISISに、また他方ではアルカイダに凌辱されていたとしても、「いったい彼女のどのような行為が、罪もない若者たちにあんなことをさせてしまったのだろう」と問うているのだろう。私に言わせれば、多くの場合、彼らは単に性的欲求を満たしているだけだ。

出典:The Spectator

UKでもここまではっきりと書く女性ライターは珍しい(半隠居の身のバーチルがこういう記事を書いたということは、よほど怒っているのだろう。実際、彼女はにわかに復活モードに入りつつあり、ISISと女性に関する火炎ビンのような記事を書き始めている)。

バーチルは男性たちに噛みついているが、実は女性だってそれほど違わないと思う。左派の女性ライターたちは、だいたい「ISISの理念とイスラム教は別物だからムスリム差別はやめましょう」みたいなことを書いてそこで停止する。ISISへのアンチ感情をストレートに表現するのは左翼としていかがなものか。みたいな空気があるからだろう。

が、ISISが組織文書で兵士たちに9歳以上の女子と性交することを公然と許可し(捕捉されたらレイプされる前に自殺する少女たちが続出しているという報道もある)、バス停で赤ん坊に授乳していた女性の乳房に拷問具が突き立てられ、同性愛者の次は高学歴の女性たちを『処刑』対象にするとISISが宣言している時に、同じ女たちが目を瞑り、耳を塞ぐのはなぜだろう。彼女たちは自国民ではないのでスルーすると言うのなら、フェミニストとはまたずいぶんとナショナリストだ。

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怒った女性は米国にもいた。エリーズ・コリンズ・シールズとジル・コヤマが米版ハフィントン・ポスト2014年9月19日付『ISIS, Torture and World Silence About Women』で嘆いている。昨年の9月と言えば、2人の米国人と1人の英国人がISISに殺害された後で、この問題への関心が高まっていたときだった。

彼女たちは同記事の第一パラグラフで、人質が斬首されたことに人々が激怒し国内外で様々なリアクションが起きている様を淡々と書き綴る。そして言うのである。

だが、そこにはISISが継続的に行っている女性に対する凶暴な残虐行為に対する言及はほとんどない。・・・・気付かれていないし、めったに触れられていない。

出典:The World Post by The Huffington Post

自国の人質問題には堂々と怒りを表明できても、異国の女性たちの想像を絶する受難には同性の人間ですらあまり怒りを示さないということだろう。シスターフッドは国境も民族も超えるのかと思っていたが、わりと限定的なものらしい(そういえば、それはなかなか階級も超えられない)。

女はまあ闇雲に(外に向かっても内に向かっても)竹槍を突き上げる衝動的な生物ではない(と信じたい)が、そういう攻撃的ヒステリアではない方向で、「彼女たちを難民として我が国に『積極的に』受け入れましょう」というどっしりとした合唱が、シスターズの間から突き上がって来てもいい頃だ。

在英保育士、ライター

1965年、福岡県福岡市生まれ。1996年から英国ブライトン在住。保育士、ライター。著書に『子どもたちの階級闘争』(みすず書房)、『いまモリッシーを聴くということ』(Pヴァイン)、『THIS IS JAPAN 英国保育士が見た日本』(太田出版)、『ヨーロッパ・コーリング 地べたからのポリティカル・レポート』(岩波書店)、『アナキズム・イン・ザ・UK - 壊れた英国とパンク保育士奮闘記』、『ザ・レフト─UK左翼セレブ列伝 』(ともにPヴァイン)。The Brady Blogの筆者。

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