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乙武・太郎も参戦!参議院東京選挙区はどうなるか

安積明子政治ジャーナリスト
出馬会見する山本太郎氏(写真:つのだよしお/アフロ)

女性候補乱立の東京選挙区に2人が挑戦

 7月10日に投開票が予定される参議院選で、東京選挙区は当初、「女性の戦い」になるはずだった。自民党、立憲民主党、公明党、日本維新の会、ファーストの会、れいわ新選組がそれぞれ女性候補を擁立し、改選される6議席の過半数を占めそうな勢いだった。

 ところが5月19日に作家でYouTuberの乙武洋匡氏が動画で無所属で出馬することを表明し、れいわ新選組の山本太郎代表も5月20日の“不定期会見”で「東京です、東京から出ます」と出馬を宣言。有名な2人が参戦することで、同選挙区での戦いはこれまでにもまして熱く、かつその結果について予想がつかなくなりそうだ。

 1149万1692名(2022年3月現在)の有権者を擁する東京選挙区は、2016年から定数12議席(改選6議席)となっている。2016年には民進党(当時)の蓮舫氏、自民党の中川雅治氏、公明党の竹谷とし子氏、日本共産党の山添拓氏、自民党の朝日健太郎氏、そして民進党(当時)の小川敏夫氏が当選し、2019年には、自民党の丸川珠代氏、公明党の山口那津男氏、日本共産党の吉良佳子氏、立憲民主党の塩村文夏氏、日本維新の会の音喜多駿氏、そして自由民主党の武見敬三氏が議席を得た。2016年の最下位当選の小川氏の得票数が50万8131票であることや、2019年の最下位当選の武見氏の獲得票数が52万5302票であることから、当選ラインは50万票強と思われる。

知名度と実績

 さて2人の出馬表明は、70万票以上の盤石な公明票を持つ竹谷氏や、圧倒的知名度で過去2回の参議院選でトップ当選を果たしている蓮舫氏は別として、他の候補に大きな激震となったはずだ。

 というのも、乙武氏は大学時代に執筆した「五体不満足」という600万部を超す大ベストセラーを持ち、卒業後はスポーツライターとしてメディアで活躍するなど、その知名度は圧倒的。過去に都知事選候補として名前が出たこともある上、2016年の参議院選では複数の政党からオファーを受け、自民党から東京選挙区で出馬の予定だった。

義足で117メートル歩行を達成した乙武氏
義足で117メートル歩行を達成した乙武氏写真:つのだよしお/アフロ

 だが週刊誌が乙武氏の女性スキャンダルを報じたためにそれを断念。以来、乙武氏は政治のユーチューブチャンネルなどで発信を続けていた。

 一方でれいわ新選組の代表である山本氏は2013年の参議院選で東京選挙区に出馬し、66万6684票を獲得して定数5議席中4位で当選。2019年の参議院選では「れいわ新選組」を立ち上げて比例区に出馬し、山本氏自身は落選したものの99万2267票の個人票を獲得して特定枠の2名を当選させた。そして2021年の衆議院選では東京ブロックにノミネートし、れいわ新選組が36万387票を獲得したために山本氏自身が議席を得た。なおこの時の衆議院選で、れいわ新選組は比例区で3名を当選させ、参議院の2名を加えると、5名の政党となっている。

 もっともれいわ新選組は参議院東京選挙区で新宿区議だった(5月20日に辞職)よだかれん氏を擁立していたが、それを急遽差し替えての山本氏の出馬となった。5月20日午後に開かれた“不定期会見”で、山本氏は「いちかばちかの戦いをする状況ではない。3000サンプルを超える調査を行った結果、東京選挙区に立つことになった」と述べている。

山本太郎氏が抱く危機感

 山本氏は今年4月、次期参議院選に出馬するために衆議院議員を辞職した。その根幹にあるのは、与党政治を打破すべきという思いに他ならない。「次期参議院選では与党は負けない。そうなれば後3年間は、大きな選挙がない」と危機感を滲ませる。

 その思いに至った大きなきっかけは、岸田文雄首相が出席し、NHKのテレビ中継も入る2月18日の衆議院予算委員会で、れいわ新選組の質問の機会を与えられなかった問題だ。そもそも少数会派のれいわ新選組は、予算委員会での委員の割り当てがないが、立憲民主党が持ち時間の一部を譲り、これには他の野党は反対しなかった。しかし与党は「前例がない」という理由でこれを拒否したため、予算委員会での質問は実現しなかった。これに激怒した山本氏が参議院選でのリベンジを決意したという次第だ。

 参議院選では選挙区での出馬を宣言していた山本氏だが、その中でなぜ東京選挙区を選んだのか。東京選挙区以外で有力視されたのは、山本氏の出身地である兵庫選挙区と母校がある大阪選挙区、そして補選を含めて改選5議席の神奈川選挙区だった。これについて山本氏は会見で、「大事なのは当選ラインに乗ること」と述べている。

 兵庫選挙区と大阪選挙区は日本維新の会と自民党、公明党でガチガチの戦いになっており、そこに参入するのはリスクがある。また神奈川選挙区も元県知事の松沢成文氏をはじめ、自民党2名と公明党、立憲民主党の2名などが乱立して難しい。そもそも日本共産党の公認候補のあさか由香氏とは3年前の参議院選でタッグを組み、「選挙区はあさか由香、比例区は山本太郎」と共闘した相手だ。それが3年後には「山本太郎に1票を」とはいくらなんでも叫びにくい。

 その点、改選議席6の東京選挙区なら、れいわ新選組のような小さな政党でも1議席獲得の可能性があった。だからよだかれん氏を擁立していたのだろうが、知名度抜群の乙武氏の出馬で危機感が高まった。保守系の乙武氏とれいわ新選組とでは票田が異なるが、無党派層が多い東京選挙区では恐るべきライバルだ。乙武氏に打ち勝つには山本氏しかいない―。山本氏が東京選挙区での出馬を決意したのは、そうした計算が働いた結果ではないか。

東京選挙区はいっそうの注目区に

 そして乙武氏や山本氏の参戦により、東京選挙区はこれまでにない注目の激戦区になるに違いない。乙武氏が自民党やファーストの会、さらに立憲民主党の一部の票をどのように侵食するのか。前回の参議院選で議席を獲り、2021年の衆議院選で大阪以外にも議席数を伸ばした日本維新の会が議席を獲得できるのか。またファーストの会が国政進出を果たすのか。果ては2名を擁立する自民党と立憲民主党が、全員当選を果たせるのか―。

 さらにれいわ新選組は日本維新の会の松井一郎代表からスラップ訴訟をかけられた水道橋博士こと小野正芳氏を擁立する予定で、政党間の激突も予想できる。7月10日に投開票が予定される参議院選は政権選択の選挙ではないが、国運を分かつ選挙になるかもしれない。

政治ジャーナリスト

兵庫県出身。姫路西高校、慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格後、政策担当秘書として勤務。テレビやラジオに出演の他、「野党共闘(泣)。」「“小池”にはまって、さあ大変!ー希望の党の凋落と突然の代表辞任」(ワニブックスPLUS新書)を執筆。「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない人々」(青林堂)に続き、「『新聞記者』という欺瞞ー『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)が咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を連続受賞。2021年に「新聞・テレビではわからない永田町のリアル」(青林堂)と「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)を刊行。姫路ふるさと大使。

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