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8・31衝撃の解散報道の真相 菅首相の本音は果たしてどこに

安積明子政治ジャーナリスト
次期総理総裁は誰になるのか(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

毎日新聞による突然の解散報道

 大きな地殻変動を感じる。2009年8月に起こった政権交代も大きな変動だったが、それどころではない。あの時は「自民党にお灸をすえる」といった声を多数聞いたが、今回はそうした声すら出ていない。

 そのような静かな怒りは、政治に届いているのか。国民の目に映っているのは、あさましきまでに権力にしがみつこうとする政治家たちの姿ではないか。

 8月31日夜、永田町に「菅義偉首相が9月中旬に衆議院解散の意向」との一報が駆け巡った。毎日新聞のスクープで、一部のメディアもこれに続いたが、その様子がどうもおかしい。地方紙に配信しなければならない共同通信などは、“解散の観測”が広がったことについて「複数の関係者が明らかにした」と取材自体がなおざりだ。

国会開会拒否を伝えたその日に

 総理大臣の専権事項である「解散」についてこのように流されるのは極めて異例で、異常事態という他はない。本当は何が起こっているのか―そう考えているうちに「解散説は菅首相ではなく、反菅のサイドから流されたもの」との連絡が入ってきた。永田町には「ウソも一巡すれば事実になる」という奇妙な一面がある。そもそもこの日、臨時国会開会を求める立憲民主党の安住淳国対委員長に対し、森山裕国対委員長が「開会しない」と伝えていた。

 なお臨時国会開会について憲法第53条は「いずれかの議院の4分の1以上の要求があれば、内閣は召集を決定しなければならない」とし、岡山地裁は今年4月13日、同条項の国会召集義務について「単なる政治的義務ではなく、憲法上の法的義務」と判断。合理的期間内に召集しない場合は「違憲とされる余地がある」とした。それでも野党から追及されることを嫌がり、緊急事態宣言発令のための議院運営委員会さえ欠席する菅首相は、頑なに国会開会を拒否してきた。しかし衆議院を解散するためには国会を開かなくてはいけないのだ。

政治的空白は許されるのか

 さらに衆議院を解散すれば、このコロナ禍に国会には参議院しか存在せず、大きな政治的空白が生じてしまう。もし菅首相がそれを「是」とするなら国会軽視も甚だしいが、そのような政権を国民はどう思うのかについても総理大臣なら考えてしかるべきだ。

 にもかかわらず「9月中旬解散説」がまことしやかに流されたのは、9月17日告示・29日投開票の自民党総裁選で菅首相が劣勢とされているからに相違ない。その背景に、「告示日直前の解散によって事実上の選挙戦に突入させることで、菅首相は総裁選の日程を潰し、先延ばしを目論んでいる」という構図がある。いまや衆院選よりも総裁選の方が、菅首相にとって高いハードルになっているのは事実である。

20人の推薦人が集まらない?

 中でももっともショッキングだったのは、「菅首相は20名の推薦人を集められないかもしれない」という話が一部で囁かれていることだ。そうした危機に対応するためか、参議院の菅グループ約10名は8月31日、側近の阿達雅志首相補佐官の事務所に集まった。

 しかし菅首相の側近グループは有力な議員に欠き、結束力もさほど強くないため、現在の逆風の向きを変えられそうにない。そのような中で中谷元元防衛大臣が9月1日に開かれた谷垣グループの会合で菅再選に否定的な見解を示し、平井卓也デジタル担当大臣が同日夜のテレビ番組で「岸田支持」を表明したことのインパクトは大きい。とりわけ平井大臣は菅政権の現職の閣僚で、1年前の総裁選で岸田氏に1票を投じたとはいえ、“スガノミクス”の目玉ともいえるデジタル政策の担当者だ。

 またいち早く菅支持を表明した二階派と石原派からも、「総裁選では菅とは書かない」と明言している国会議員が数名いる。細田派も細田博之会長が菅首相支持を表明し、「個人的に菅首相を支持する」と表明した安倍晋三前首相が大きな影響力を持つが、総裁選では自由投票とされ、反菅票が入る可能性もある。

解散否定の裏で……

 こうした逆風を阻止すべく、菅首相は9月1日午前のぶら下がりで、「今の状況では(解散は)できない」「まず新型コロナ対策最優先」「総裁選の先送りは考えていない」と述べた。もっとも解散については総理大臣はウソをついても許されるのが通例であるため、言葉を鵜呑みにはできないが、ここで解散を打てば国民より保身を優先したことを意味し、国民の支持を失うことは必至だ。

 追い詰められる菅首相だが、反撃の秘策はあるのか。首相動静を見ると菅首相は8月30日午後5時57分から30分間、官邸近くのホテルの部屋で「秘書官と打ち合わせ」をしている。このホテルは小泉純一郎元首相がヘアサロンを利用して、極秘に人と会っていたところとして知られているが、菅首相が秘書官との打ち合わせのためにわざわざホテルを使った理由は何か―。

 また前夜の解散騒動を消すかのように、翌日の讀賣新聞は眞子内親王の年内結婚を報じている。皇嗣家に最も近いとされるNHKを讀賣新聞が出し抜いた理由は―。

 このように情勢はまだまだ流動的だ。だがそのような政治の現状を飽き飽きした目で見る国民がいることも、政治家は肝に銘じるべきだろう。

政治ジャーナリスト

兵庫県出身。姫路西高校、慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格後、政策担当秘書として勤務。テレビやラジオに出演の他、「野党共闘(泣)。」「“小池”にはまって、さあ大変!ー希望の党の凋落と突然の代表辞任」(ワニブックスPLUS新書)を執筆。「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない人々」(青林堂)に続き、「『新聞記者』という欺瞞ー『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)が咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を連続受賞。2021年に「新聞・テレビではわからない永田町のリアル」(青林堂)と「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)を刊行。姫路ふるさと大使。

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