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内閣支持率がまたまた低下!菅政権は“無のスパイラル”から抜け出せない

安積明子政治ジャーナリスト
広島平和記念式典に挑む菅首相(写真:REX/アフロ)

内閣支持率30%を切ったNHK

 8月10日に解禁されたNHKの世論調査で、内閣支持率が4ポイント下落して29%となり、ついに30%を切った。2012年12月に自民党が政権復帰して以来の低水準とのこと。しかも不支持率は52%と、前月比で6ポイントも上昇し、こちらも同じく政権復帰後の最高値となっている。菅政権はいよいよ断末魔の様相だ。

 8月7日と8日に実施された朝日新聞の調査でも、内閣支持率は28%と30%を切っていた。朝日新聞の調査は与党に厳しく出る傾向にあると言われているが、とりわけNHKの数字が衝撃的だったのは、菅首相がもっとも信頼している調査と言われるからだ。

 「貧すれば鈍する」との言葉の通り、最近の菅首相はツイていない。8月6日に広島市で行われた平和式典では、事前に準備された挨拶文を一部読み飛ばした。9日に長崎市での平和祈念式典では1分遅刻した。いずれも原爆被害者を追悼し、世界に向かって平和祈念をアピールする重要な式典だ。菅首相に限らずその周辺にも、緊張感を欠いていると批判されても仕方ない。

横浜市長選に出馬した小此木氏との関係

 8月8日に告示された横浜市長選もその一連といえるだろう。そもそも焦点となっているカジノを含むIR整備計画については、菅首相の三男が勤務する大成建設がマカオに本拠地を置く中国系のメルコリゾーツ&エンターテインメントと組んで参加している。ところが菅政権で国家公安委員長を務めていた小此木八郎氏がIR反対を表明して市長選出馬を表明。菅首相は小此木氏の父の故・彦三郎氏に秘書として仕えた関係だ。

 小此木氏が出馬を決意したのは5月24日で、6月頃から菅首相に相談していた節がある。しかし菅首相はすんなりと承知せず、むしろ逡巡していたようだ。

 「家族同然」と言われる両者の関係だが、実のところはそれほど穏やかではないようだ。小此木氏にすれば、自分の衆議院初当選は1993年で国政進出は菅首相より3年早いが、政治的手腕で菅首相を凌駕することはできない。

 一方で菅首相にしても、自分の意のままになった林文子市長はともかく、「本家筋の小此木市長」ではやりにくさも出てくるだろう。人間関係が権力関係を複雑化しているのだ。

藤木氏の本心は?

 それは、立憲民主党が推薦する山中竹春元横浜市立大学教授を応援しているといわれる藤木幸夫横浜港ハーバーリゾート協会会長にもあてはまる。「ハマのドン」とも言われる藤木氏は7月17日の山中氏の事務所開きで挨拶した時、「おととい菅から電話がかかってきた。内容は言えないが」と菅首相との関係を匂わせた。また8月10日に外国特派員協会で講演した時には、藤木氏は「当選するのは八郎」とあっさりと言い切った。そもそも藤木氏は山下ふ頭でのカジノ建設に反対で、その他については反対ではないとされている。

 いずれにも明らかなのは、自分のメンツを失いたくないことだ。菅首相にとって小此木氏を抑えている限り、横浜市議時代から築き上げた「影の市長」の地位はゆるぎない。だからあえて地元のタウン紙でIR反対を表明する小此木氏の支持を明らかにし、小此木氏支持を渋っていた6人に寝返るように指示もした。8月18日に91歳を迎える藤木氏は、横浜港湾協会会長を退いているが、菅首相は政治生命がかかっている。昨年8月に安倍普三前首相が体調を悪化させたため、運よく転がり込んできた権力を、やすやすと手放したくはないはずだ。

「無のスパイラル」から抜け出せない

 しかしながら“単なる幸運”は長くは続かない。権力のトップに君臨し続けるには、それなりの素養が必要だ。歴代の宰相は安岡正篤といった東洋哲学の大家などをブレーンとし、中曽根康弘は全生庵で毎週座禅を組んだという。国家の指導者としての魂を磨くためには、食事を共にして意見を聞くだけでは足りないのだ。

 現在の菅政権はまさに「無のスパイラル」に陥っている。素養のなさが自信のなさを生み出し、それが支持率低下の原因となり、ますます自信を失っていく。もはや国政には踏ん張る場所もないが、最後の砦が政治家としてスタートを切った横浜市という次第。だからまずは自分が応援する候補が勝たねばならず、IRについての賛否はその次になっている。

 だがそれが内閣支持率の低下を止める保証はない。立憲民主党の福山哲郎幹事長は8月10日の会見で、「底が割れた」と表現した。たとえ横浜市長選で小此木氏が勝利しても、菅政権の延命には繋がらないという意味だろう。いったい菅政権は、どこまで落ちていくのだろうか。

政治ジャーナリスト

兵庫県出身。姫路西高校、慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格後、政策担当秘書として勤務。テレビやラジオに出演の他、「野党共闘(泣)。」「“小池”にはまって、さあ大変!ー希望の党の凋落と突然の代表辞任」(ワニブックスPLUS新書)を執筆。「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない人々」(青林堂)に続き、「『新聞記者』という欺瞞ー『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)が咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を連続受賞。2021年に「新聞・テレビではわからない永田町のリアル」(青林堂)と「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)を刊行。姫路ふるさと大使。

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