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【大義はどこに行ったのか】東京比例単独1位に山尾氏をあてがう国民民主党の迷走ぶり

安積明子政治ジャーナリスト
最近の玉木代表の表情は硬い(写真:つのだよしお/アフロ)

なぜ東京比例単独1位なのか

 国民民主党の山尾志桜里衆議院議員は9月24日、次期衆議院選で2009年から地盤とした愛知県7区から立候補せず、比例東京ブロック単独1位で出馬することを表明した。2017年の衆議院選ではその直前に男性スキャンダルが報じられ、民進党離党を余儀なくされた。

 この時、山尾氏は無所属で選挙を勝ち抜き、立憲民主党に入党したものの、「立憲主義と民主主義という価値観で折り合えない」と今年3月に離党。7月に国民民主党に入党したが、同党の愛知県連から頑なに拒否されてきた。今回の選挙区替えも、それが影響しているようだ。

「本人が(選挙)基盤がある愛知県か、(出身地である)東京都から出たいと希望していた」

 同日夕方、同党の玉木雄一郎代表が筆者に語っている。ならば愛知県7区に留まってもいいはずだ。というのも県連がどう言おうと、小選挙区で勝った議員は強いからだ。

 たとえば民主党政権時に外務副大臣を務めた山口壮衆議院議員(兵庫県12区)は、自民党に入党後もしばらく自民党兵庫県連に入れずに和歌山県連に所属したが、選挙区替えの話など出たことがない。普段から地元の有権者から信頼を得て強い絆を作っていれば、外野からの雑音など気にする必要はない。

 それにしてもなぜ比例東京ブロック単独なのか。山尾氏の実家のある武蔵野市(東京都18区)は立憲民主党の菅直人元首相の強固な地盤で、いちどはチャレンジしてみたようだが、実際には山尾氏が入れる余地はない。しかし東京都24区や東京都25区のように、自民党の現職が強すぎて野党の候補が決まっていないところもある。そうした選挙区をなぜあてがわないのかと尋ねると、玉木代表は黙ったままだった。

東京ブロックで議席を獲れるのか

 だが山尾氏を比例単独1位に優遇すると、都内の選挙区で出馬する他の候補の士気にも影響しかねない。そもそも国民民主党は東京ブロックで議席を確保できるのか。

「昨年の参議院選で割り振れば、東京は1議席になる計算だ。いずれにしても、もっとも人口が集中している地域だから、その地域で国民民主党の知名度やあるいは考え方を広げていかないことには党勢拡大もできない。その意味では今回、山尾さんが東京ブロックで立ってくれるということは、首都東京で我が党の党勢拡大の大きな足掛かりになると思っている。ご本人の当選に止まらず、全国的なわが党の党勢拡大の起爆剤になるのではないかと期待しているので、党を挙げてしっかりと応援体制をとりたい」

 この日の午後に開かれた会見で、玉木代表はこのように発言した。山尾氏も笑顔で「1議席ではなくて2議席以上を目指したい」と述べている。では実際に国民民主党は東京ブロックで議席を獲れるのか。

 昨年の参議院選で東京都内での国民民主党の比例得票数は27万2990票。だが2017年の衆議院選挙の結果を見ると、当選者を出すには1議席当たり30万余票が必要で、3万票ほど足りない。

 衆議院選では投票数がもう少し増えるとしても、当時の国民民主党はまだ現職の国会議員を60名以上も擁し、地方組織も強かった。民主党・民進党から受け継いだ100億円以上の資金もあった。玉木代表が今年8月に言及した財政状態と比較すると、参議院選があった昨年で50億円以上が消費されたことになる。その散財振りは「出張した職員のマイレージポイントも取り上げて貯めたのに」と、民進党の岡田克也元代表を嘆かせたほどだ。

 現在の国民民主党の財政は、分党によって立憲民主党にかなりの“財産分与”が行われたこと、党所属の国会議員数が激減したことで政党助成金も少なくなるので、決して豊かとはいえないはずだ。だから山尾氏の「知名度」に頼ろうとしているのか。

「山尾さんには良い評判もあるし、悪い評判もあることは認める。でも悪名でも無名に勝るんですよ」

 国民民主党のある議員が筆者に語ったが、そもそも選挙区を追われた議員が、選挙で政党の顔になることができるのか。そうした選択こそ、迷走ではないのか。国民民主党が首班指名で「枝野幸男」と書いた件もそうだ。

大義はどこに行ったのか

 9月16日の首班指名では、共産党が22年ぶりに他党の党首の名前を書いている。立憲民主党の枝野幸男代表が共産党に頼み込んだ結果だ。一方で国民民主党には何の依頼もなかったという。

 しかも翌17日の会見で共産党の志位和夫委員長が、「自公政権に代わる連立政権の政権合意を、しっかり話し合って結ぶということが大事だ」と政権獲得への並々ならぬ意欲を見せている。これでは間接的に国民民主党が共産党と連携していることになりかねない。

 そもそも国民民主党は共産主義を排する「改革中道」という大義でもって立憲民主党との合流を拒否し、新党を結成したはずだ。いまだ解散風が吹かないのに、その大義はどこかに飛んでいってしまったのか。現在、国民民主党は最も理解不能な政党になり果てている。

 

 

政治ジャーナリスト

兵庫県出身。姫路西高校、慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格後、政策担当秘書として勤務。テレビやラジオに出演の他、「野党共闘(泣)。」「“小池”にはまって、さあ大変!ー希望の党の凋落と突然の代表辞任」(ワニブックスPLUS新書)を執筆。「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない人々」(青林堂)に続き、「『新聞記者』という欺瞞ー『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)が咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を連続受賞。2021年に「新聞・テレビではわからない永田町のリアル」(青林堂)と「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)を刊行。姫路ふるさと大使。

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