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なぜ山本太郎は東京都知事選で“負けた”のか

安積明子政治ジャーナリスト
都知事選で3位に終わった山本太郎氏(写真:森田直樹/アフロ)

66万票の壁

「いやあ、強かった、百合子山。高かった、百合子山。という感想です」

 東京都知事選で小池百合子都知事のゼロ当確となった7月5日夜、れいわ新選組の山本太郎代表は記者会見で開口一番、こう述べた。山本氏が獲得したのは65万7277票で、小池百合子都知事の366万1371票の2割に満たなかった。ちなみに、2013年の参議院選で山本氏が獲得したのは66万6684票。「66万票の壁」を破ることはできなかったということになる。

 しかも立憲民主党や共産党、社民党が推薦する宇都宮健児氏にも及ばなかった。宇都宮氏は2012年の都知事選で96万8960票、2014年には98万2594票を獲得。だが野党統一候補となった今回の都知事選では84万4151票しか得ていない。

 一方で小池知事は、石原慎太郎元知事から事実上禅譲された猪瀬直樹元知事が2012年の都知事選で獲得した433万8936票に次ぐ大量得票を実現。2016年の都知事選より75万票も増やし、圧倒的な強さを示した。理由は自民党が独自候補を擁立せず、保守票の多くが流れたことと、公明党や連合東京、医師会などの組織票を確保したからだ。

無党派層に不人気

 もっともこれらの票は山本氏や宇都宮氏に入るはずもないが、無党派層の投票は注目に値する。NHKの出口調査によれば、全体の42%を占める無党派層のうち、小池知事は50%余りを得たのに対し、山本氏が得たのは宇都宮氏より少なく、日本維新の会が推薦した小野泰輔氏とほぼ同じだった。

 たとえ熊本県副知事を8年間務め、“くまモン”をプロデュースした実績があるとはいえ、小野氏は東京ではほとんど無名だったが、その小野氏は61万2530票を獲得。供託金没収ラインである有効総票数の10%を突破できなかったものの、2019年の参議院選で日本維新の会の音喜多駿参議院議員が得た52万6575票を8万6000票も上回り、タレント出身で知名度抜群の山本氏に迫る勢いだ。

 もちろん街頭演説では山本氏の方がはるかに多くの観衆を引きつけ、寄付する人も多かった。れいわ新撰組は6月15日から7月4日までに、8574件・1億2970万4391円の寄付を獲得している。しかしその街頭演説には実は“陰り”が見えていた。

昨年の参議院選の勢いは見えず

 山本氏の登場を知らせる大きなドラムの音で、れいわ新選組の街頭演説は始まる。コロナ禍のために告知を控えることが多かったが、一定数以上の人が山本氏の演説を聞きにやってきた。しかし昨年の参議院選に比べ、その数はかなり減っていたのだ。

 たとえば新宿駅小田急前だが、以前なら構内にも多数の聴衆が集まり、山本氏の演説に聞き入っていた。だが今回は違う。山本氏の前には人が集まるが、その輪が広がらなかった。

 6月26日の有楽町イトシア前で行われた演説会では、聴衆が広場の約半分を占めた。山本氏は2013年の参議院選で同じ場所で熱弁を振るっているが、当時と聴衆の数はさほど変わりないように見えた。「66万票を超えないのではないか」とこの時に感じた。

底が見えたバラマキ政策

 なぜ山本氏が伸びなかったのか。ひとつはバラマキ政策への疑問だろう。「東京都は20兆円の都債を発行しても大丈夫だと総務省は言った」と山本氏は主張するが、それは現時点での判断であり、少子化が急速に進む東京都が将来の償還に耐えられるのか。しかも新型コロナウイルス感染症との闘いはいつ終わるかわらないのに、都知事1期で15兆円もの都債を発行するのか。

 また山本氏は都知事選で「国がやらないから、都でやる」と主張していたが、国政政党であるれいわ新選組の代表である山本氏が、方策を持っていないはずがない。実際に山本氏は昨年の参議院選で比例で次点であり、れいわ新選組の現職議員2名のうち1名を辞職させて次期衆議院選にまわせば、山本氏は国政に復帰できる。通貨発行権を持たない東京都のトップを目指すよりも、野党とはいえ国会議員として活動する方が実効的ではないのか。なお山本氏は会見で「通貨発行権を使って、底上げしていかなければならない」と発言。国会議員でなければ本格的な対策ができないことを理解している。

女性が支持せず

 それゆえなのか、NHKの出口調査では山本氏に対する女性の支持は高くなかった。「コロナ禍で困窮している人を救いたい」という山本氏の主張は本気に違いないが、現実的ではない提案の裏にあるものを、女性は敏感に嗅ぎとるからだろう。山本氏が狙うのは国政で、都知事選はそのためのステップにすぎない。それを知る有権者が多かったことが、今回の結果に繋がっているといえる。

 

  

政治ジャーナリスト

兵庫県出身。姫路西高校、慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格後、政策担当秘書として勤務。テレビやラジオに出演の他、「野党共闘(泣)。」「“小池”にはまって、さあ大変!ー希望の党の凋落と突然の代表辞任」(ワニブックスPLUS新書)を執筆。「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない人々」(青林堂)に続き、「『新聞記者』という欺瞞ー『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)が咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を連続受賞。2021年に「新聞・テレビではわからない永田町のリアル」(青林堂)と「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)を刊行。姫路ふるさと大使。

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