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“ポストコロナ社会”では、日本はますます脅威にさらされる

安積明子政治ジャーナリスト
日本を狙う中国に、安倍首相は対抗できるのか(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

コロナ禍で混乱する国際社会

 安倍晋三首相は5月14日、全国に発令していた緊急事態宣言の一部解除を表明した。東京都など8都道府県は依然として緊急事態宣言の指定を受けるが、茨城、愛知、石川、岐阜、福岡の特定警戒県を含む39県は指定を外された。これで新型コロナウイルス感染症対策は、新しいステージに進んだことになる。

 実際に諸外国は経済再開に踏み出している。5月6日に行動規制要請のステージを下げた韓国をはじめ、フランスやスペイン、トルコも5月11日に外出規制などを緩和。ドイツも規制緩和に踏み切った。

 しかしさっそく韓国ではナイトクラブでクラスターが発生。ドイツでも“3密”の労働環境である食肉工場などで集団感染が起こり、政府は対応に苦慮している。

 このように自粛と緩和のバランスで政府が悩む一方で、人々は自粛に飽き飽きしている。4月30日にはアメリカ・ミシガン州で武装した市民約100名が州議会を襲い、5月16日にはドイツ各地で自粛に反対するデモが勃発した。いずれも国民の不満は政情を不安定にしている例といえる。

中国がさらに台頭か

 これに乗じた動きもある。中国公船は4月2日、西沙諸島近海でベトナム漁船に体当たりして沈没させた。さらに18日には、西沙諸島と南沙諸島に新たな行政区を設置。勢力を確固たるものにしようとしている。

 そればかりではない。中国は日本にも脅威を与えている。4月には空母「遼寧」が宮古海峡を初めて往復し、太平洋への出口を確認した。5月8日には公船が尖閣近海の日本の領海に侵入。操業中の日本漁船を追い回してもいる。これは日本に挑戦しようとする行為に違いない。

 また中国は新型コロナウイルス感染症の発生源である可能性が高いにもかかわらず、世界に対してその責任をとろうとはしていない。それどころか、むしろコロナ禍に乗じて覇権を強めようとしている。

 その一例が、5月1日に始まった中韓の「ファストトラック制度」だ。事前に陰性が証明されれば、隔離措置を経ずしてビジネス目的で入国できるという制度である。中国は日本にも「ファストトラック制度」を求めており、日本政府も乗り気というが、果たしてそれでいいのだろうか。

 昨年10月の消費税増税に加え、コロナ禍という災難がふってわいたため、日本経済はこれまでにない落ち込みを経験しようとしている。昨年10月から12月のGDPは、年率計算でマイナス7.1%を記録し、5月18日に公表された今年1月から3月の速報値も、マイナスを記録した。

 一方で中国の第1・四半期のGDPはマイナス6.8%の減少だが、中国当局はそれは一時的な落ち込みで、第2四半期は回復すると見ている。

中国に虐められるオーストラリア

 5月14日朝(現地)のfoxTVで、トランプ大統領が中国と断交する可能性を示唆したのは、そうした懸念があるゆえだろうか。もちろん11月の大統領選を意識しての発言であるが、そればかりとはいえない。ポストコロナ社会での覇権争いが始まっている。

 その中で日本はどのように生き残るのか。米側に付くのか、それとも中国の傘下に入るのか。経済的にはかなり難しい決断だ。昨年の日本から中国への輸出額は14.7兆円で、中国からの輸入額は18.5兆円(財務省貿易統計)。輸出ではアメリカに次ぐが、輸入ではナンバーワンのビジネスパートナーになっている。

 中国に対する依存度がさらに高いのがオーストラリアだ。外務省貿易統計によれば、2017年度のオーストラリアの貿易のうち中国は24.4%を占め、2位の日本(9.7%)やアメリカ(8.8%)を引き離し、断トツでトップに位置している。

 そのオーストラリアが中国に新型コロナウイルスについての説明を求めた時、中国は激高し、対抗手段としてオーストラリアの牛肉の輸入を一時停止した。さらに生産量の半分を中国に輸出しているオーストラリア産の大麦について、大型関税をかけることを表明している。

狙われる日本

 中国と地理的に近い日本は、さらに危険が大きいといえるだろう。とりわけ前述したような東アジアで中国の活発な動きを見れば、日本は中国に生殺与奪の権利を握られ、領土すら奪われかねない危機感がある。

 かねてから中国資本による日本の不動産の買い占め問題が話題になっていたが、そこには巧妙に日本に付け込む中国の戦略が見てとれる。WTOは法制度について内国人待遇を求めているため、日本の強固な所有権制度は外国人にも適用される。かつて中国資本による水源地の買い占めで問題になった時、高市早苗衆議院議員はそれを防止すべく法規制を考えた。本来なら外国人所有権を制限すべきところだが、WTO違反に問われる危険性があったため、森林法改正にとどまらざるをえなかったという。

 そしていま、中国はコロナ禍で疲弊した日本を狙っている。アメリカが感染症対策に追われている間に、さらなる接近を図ろうとしているのだ。買うべきものは土地のほか、中小企業の技術などがある。少子高齢化の日本では、後継者不足のために黒字倒産を余儀なくされるケースは少なくない。そしてコロナ禍でそれが加速しようとしているのだ。

 新しいステージで政府が気をつけるべきは、ウイルスだけとは限らない。コロナ禍で混沌とする国際社会で生き残るには、外国の脅威以上にしたたかな戦略が必要になるだろう

政治ジャーナリスト

兵庫県出身。姫路西高校、慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格後、政策担当秘書として勤務。テレビやラジオに出演の他、「野党共闘(泣)。」「“小池”にはまって、さあ大変!ー希望の党の凋落と突然の代表辞任」(ワニブックスPLUS新書)を執筆。「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない人々」(青林堂)に続き、「『新聞記者』という欺瞞ー『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)が咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を連続受賞。2021年に「新聞・テレビではわからない永田町のリアル」(青林堂)と「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)を刊行。姫路ふるさと大使。

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