Yahoo!ニュース

「桜を見る会」に反社会勢力参加 永田町に広まる疑惑隠しの解散・総選挙

安積明子政治ジャーナリスト
桜を見る会でハイタッチする安倍首相(写真:Shutterstock/アフロ)

芸能人なら芸人生命を奪われるが……

「芸能人の方々は闇営業に行っただけでもう、芸人生命を奪われかねないような事態にまで追い込まれているのに、(政界では)誰も責任を取らないですむ問題ではない」

 立憲民主党の安住淳国対委員長は11月27日、自民党の森山裕国対委員長と面談した後、記者団にこのように語った。安住委員長は森山委員長にシュレッダーにかけられた「桜を見る会」の名簿を一緒に復元しようと持ち掛けている。

 野党は25日に「総理主催『桜を見る会』追及チーム」を「総理主催『桜を見る会』追及本部」に格上げし、「山口・下関ルート」「ホテルルート」「『桜を見る会』調査(招待者・予算・セキュリティー)」「昭恵夫人ルート」「名簿調査(名簿作成・破棄過程)」「ネット調査」「リアルメディア調査」「法務」の8班を結成。“疑惑追及”にボルテージを上げている。同日には名簿を粉砕したシュレッダーを見学すべく、内閣府に押し掛けた。

 もっとも内閣府がこれを拒否したため、翌日の見学になったが、野党は1万5000人分の名簿に相当する800枚の用紙をシュレッダーにかけて時間を計測。処理に34秒かかったことを確認した。

菅長官のクビを狙う

 また27日には「『桜を見る会』調査」班が警察庁や内閣府からヒアリングを行った。菅義偉官房長官が26日の会見で「出席は把握していなかったが、結果的に入ったのだろう」と述べた反社会勢力の参加についての追及するのが目的だ。しかし本当の目的は別にある。菅長官のクビをとることに他ならない。

 政権の要であり、内閣を束ねる役割を担うのが官房長官だ。「桜を見る会」でも責任者を務める。その菅長官と反社会勢力と思われる人物の写真がSNSから見つかった。野党はこれで揺さぶりをかけるつもりだ。

 これには菅長官も否定しようがなく、既述したような反社会勢力の「桜を見る会」の参加を認める発言になったのだろう。しかしたとえ菅長官のクビをとったとしても、問題の解決になるのだろうか。

「桜を見る会」の私物化

 そもそもなぜ招待客数が膨れ上がったのか。それは「総理大臣主催」を「安倍首相主催」と取り違えたことが原因ではないか。

 その証拠に安倍晋三後援会は、後援会メンバーとその配偶者だけではなく、その知人や友人も参加申し込みができた。申込用紙はコピーで足りたが、紹介者の名前を記載することを必要とされた。その結果、後援会枠の参加者だけでも800名を超えた。その数は民主党の鳩山政権時の数十名と比較しても、大きく膨らんでいる。「総理の公的催事」として捉えていたのなら、政権が替わったとしてもこれほど膨らむはずがない。

 そうした緩みは開催要領の「招待範囲」を形骸化させた。「桜を見る会」の招待範囲は、「皇族、元皇族」「各国大公使等」「衆・参両院議長及び副議長」「最高裁判所長官」「国務大臣」「副大臣及び大臣政務官」「国会議員」「認証官」「事務次官等及び局長等の一部」「都道府県の知事及び議会の議長等の一部」「その他各界の代表者等」の11分野に及ぶが、厳格に解するなら、ほとんどの一般の参加者はこれのいずれにも該当しない。無理やり「その他各界の代表者等」に入れ込むなら、もはや基準などないのも同然だ。

 そのような無秩序が、反社会勢力の入り込む隙を生んだのではないか。なお会場設営費はテロ対策などを理由に、2014年時の929万円と比較して2019年には2167万円と233%も増加している。しかし参加者の身元すらチェックできないで、十分なテロ対策ができるはずがない。いったい何のために会場設営費は増額されたのか。

自民党内ですら批判の声が

「最近の『桜を見る会』は変容した。そもそも各界を代表する名士が首相とハイタッチするはずがない。そんなことをさせたら失礼だろ」

 ある自民党関係者が苦笑した。実際に「桜を見る会」問題については、むしろ政権の足元から辛辣な批判が出ているようだ。

 そのような雰囲気を反映してか、永田町では解散の噂がじわじわと出始めている。自民党の森山国対委員長が27日に「会期延長は考えていない」と述べたのは野党の執拗な追及を避けるためだが、党内外を引き締めるために安倍首相が解散を打って出る可能性はゼロではない。もっとも「桜を見る会」問題で内閣支持率は下がり気味だが、日韓GSOMIAの件で外交では安倍政権はポイントを獲得している。

 だがそれが責任をとることに繋がるのか。1952年に故・吉田茂首相によって始められた「桜を見る会」は来年の開催は中止される。招待基準や規模の見直しのためだというが、これまで震災や北朝鮮のミサイル発射騒動でとりやめになったことはあるが、不祥事で中止となるのは初めてのこと。「桜を見る会」の中止自体が大きな問題であり、安倍政権の汚点となることを忘れてはならない。

 

政治ジャーナリスト

兵庫県出身。姫路西高校、慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格後、政策担当秘書として勤務。テレビやラジオに出演の他、「野党共闘(泣)。」「“小池”にはまって、さあ大変!ー希望の党の凋落と突然の代表辞任」(ワニブックスPLUS新書)を執筆。「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない人々」(青林堂)に続き、「『新聞記者』という欺瞞ー『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)が咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を連続受賞。2021年に「新聞・テレビではわからない永田町のリアル」(青林堂)と「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)を刊行。姫路ふるさと大使。

安積明子の最近の記事