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誰も彼も「子育て」「雇用」を主張 横並びの主張では参議院選挙は戦えない

安積明子政治ジャーナリスト
初街宣で市井紗耶香が主張したのは……

ガーベラの花言葉は「希望」

 7月4日の公示を前にして、参議院選の火ぶたはすでに切って落とされた。各陣営がマイクを握り、有権者へのアピールに余念がない。では何が訴えられているのか。それを確認すべく、都内で行われた街宣に行ってみた。

 第198回通常国会が閉じられた翌6月27日、日本共産党は「暮らしの声を聞け参議院選挙2019キックオフJCPサポーター街頭宣伝」として新宿東南口で開催した。

「私は中学時代に友達と、『私たちは年金をもらえるかしら』と話していました」

 前座を務めるサポーターの女性が、街宣車の前で年金不安を訴える。その側で見守るように立っているのが、小池晃書記局長と東京都選挙区から出馬予定の吉良よし子参議院議員だ。小雨が大降りになり始めると、小池氏が吉良氏に傘をさしかけた。

「ガーベラの花言葉は希望です」

 演説のために街宣車の前に進んだ吉良氏に、薄いピンクのガーベラの花1輪が差し出された。それを持って吉良氏は、子育て問題や雇用の問題を訴えた。

 中でも雇用問題はいわば吉良氏のライフワークともいうべきもので、6年前に初出馬した時から取り上げている。1982年生まれの吉良氏はまさに就職氷河期体験世代で、早大時代に60社以上を受けてもなかなか内定を得られず、親に報告ができないため下宿先で電話を押し入れにしまい込み、ひとり泣いていたという経験を持つ。

 当選後に結婚し、2015年に男児ひとりを授かったが、2016年には認可幼稚園に落ちている。日本共産党で小さな子供を持つ女性国会議員は吉良氏ひとりで、子育て世代へアピールする貴重な存在だ。

 確かに雇用も子育ても、重要な政策であることは間違いない。だが誰もかれもが主張することで、埋没してしまうこともある。

「宇宙かあさん」はもっと宇宙を語るべきだ

 その例が国民民主党の水野素子氏だ。「宇宙かあさん」を自称する通り、水野氏には小学生の一男一女がいる。またJAXA(国立研究開発法人「宇宙航空研究開発機構」)の職員(法務担当)で、宇宙政策も訴える。

「水野さんはやはり“持って”いるんですよ。演説し始めたら雨が止みましたから」

 国民民主党の玉木雄一郎代表は6月29日、新宿東口で水野氏とともに街宣車に上がってこう述べた。その演説を関係者も含めて100名ほどの人が聞き入ったが、多くの人は街宣車の前を横切りながら、ほとんど気に留める様子もない。

 無関心の原因は国民民主党の低支持率ばかりではないだろう。水野氏の主張が正統すぎてインパクトに欠けるのだ。むしろ宇宙政策について、「2番じゃいけないんです。日本は1番になるべきです」と述べるくらい強調して、他の政党との差別化を図ってほしい。

子供を連れてボランティア参加できない立憲民主党・塩村選対

 6月29日には立憲民主党から東京都選挙区に出馬する塩村文夏氏と山岸一生氏の事務所開きも行われた。塩村氏の選挙事務所は西麻布交差点すぐそばのビルだったが、いかんせん狭すぎる。そのせいだろう、「会場」は建物の中ではなく、交差点で行われた。

「もし当選したら、“万歳”も交差点でするのだろうか」

 取材の記者たちからこのような声が挙がったが、それよりも気になる点があった。もし小さな子供を連れた母親が選挙ボランティアを志願したらどうするのか。そもそも子供を遊ばせるスペースもないし、狭くて急な階段は小さな子供に危険でもある(なお2017年の千代田区長選では、五十嵐朝青氏がボランティアや来客のために選挙事務所内に託児スペースを設置した)。

 もっとも塩村氏が主に主張するのは雇用問題と動物愛護問題で、特に雇用問題は1978年生まれでリーマンショックの影響を直接に受けた塩村氏にとって体験に基づく切実問題だ。だがそれは前述した日本共産党の吉良氏と同じで、他党の候補との間でうまく差別化されていない。

手を振る練習よりもまず政策の勉強を

 その塩村氏が事務所開きの後に恵比寿駅前で街宣を行ったが、これに合流したのが比例区で出馬予定の市井紗耶香氏だ。元「モーニング娘。」の市井氏には2歳から14歳まで4人の子供がいるが、6月26日の出馬会見で「いまの日本が本当に子育て世代に優しい社会になっているのか、疑問に思うことがたくさんある」と主張するものの、記者から具体的な施策について質問されると言葉に詰まってしまった。

 街宣後のぶら下がりで「デビュー戦が始まるまでに、ちょっと手を振ってみたりして子供たちに見てもらって、『頑張ってね』という言葉をいただきました」と述べた市井氏だが、政治は歌の振り付けではない。各候補者が中身を吟味して主張してもらいたいが、それにしてもいくら重要な政策でも横並びになってしまっている現状は、なんとかならないものか。

政治ジャーナリスト

兵庫県出身。姫路西高校、慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格後、政策担当秘書として勤務。テレビやラジオに出演の他、「野党共闘(泣)。」「“小池”にはまって、さあ大変!ー希望の党の凋落と突然の代表辞任」(ワニブックスPLUS新書)を執筆。「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない人々」(青林堂)に続き、「『新聞記者』という欺瞞ー『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)が咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を連続受賞。2021年に「新聞・テレビではわからない永田町のリアル」(青林堂)と「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)を刊行。姫路ふるさと大使。

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