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解散総選挙から韓国の孤立まで~トランプ大統領訪日の大きい「爪跡」

安積明子政治ジャーナリスト
迎賓館で共同会見に挑む日米首脳(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

ツイートで密約暴露?

 アメリカのドナルド・トランプ大統領が4日間の日程を終えて、5月28日に帰国した。令和初の国賓として今上陛下と皇后陛下の謁見や、大相撲での大統領杯の贈呈など話題に事欠かなかったが、さらに国内外に大きな政治的影響を与える来日となった。

 そのひとつが日米貿易交渉だ。

「日本との貿易交渉が大きく進展している。最重点は農業と牛肉だ。多くは日本で7月に行われる選挙まで待たなくてはならないが、大きな成果が期待できる」

 26日に千葉県茂原市で安倍晋三首相とゴルフを興じた後でトランプ大統領が発したツイートは、大きな話題となった。

「日米首脳間で密約ができたのではないか」

 このような疑念の声が上がるのはもっともだ。日米貿易交渉の焦点は自動車と農業だが、農産品の市場開放について日本は「TPPが限度」と主張してきた。ところがトランプ大統領は共同会見で「TPP水準にとらわれない」「全ての障壁を取り除くことが目標」と述べたのだ。それを隣で聞いていた安倍首相が、いささかげんなりした表情を見せた。にもかかわらずトランプ大統領は、「8月に発表できる」と断言したのである。

農業票への影響を恐れて衆参同日選か

 実際にはUSTRのライトハイザー代表と茂木敏充経済再生担当大臣との間で2か月連続で交渉が行われたものの、認識の隔たりは残っている。安倍首相も共同会見で、「ウィンウィンとなる形の早期の成果達成に向けて、信頼関係に基づいて議論を加速させることで一致した」と述べるにとどめた。共同会見後の西村康稔官房副長官の会見では、日米首脳間の認識に差があることが強調された。日本政府はトランプ発言の火消しに躍起となっている。

 というのも、7月に参議院選を控える自民党にとって、農業は重要な票田だからだ。3年前の参議院選では、TPPが原因で東北などで惨敗した。次期衆議院選にも影響が出ることは必至だ。それを最小限に抑えるためには、やはり7月内の衆参同日選か。

ホワイトハウスが作成した訪日動画が大ヒット

 貿易交渉では様々な思惑が交錯したものの、対外的に日米関係の緊密さを誇示できた意味は大きい。離日したトランプ大統領は“THANK YOU JAPAN!”とのメッセージとともにホワイトハウスが編集した46秒の動画をツイッターに上げた。それには今上陛下皇后陛下との謁見や日米共同会見、大相撲千秋楽での大統領杯授与シーンとともに、拉致被害家族と面談するシーンが含まれていた。

 その動画の再生回数は、瞬く間に325万回を突破した。アメリカと日本がいかに親密かを世界に向けて広くアピールした形だ。と同時に拉致問題について、「アメリカは日本とこ心をひとつにする」という大きなメッセージとなった。

日本が浮んで韓国が沈む

 これは韓国の文政権にとって大きな打撃に違いない。文在寅大統領は北朝鮮に対してあたかも代理人のようにふるまい、米朝関係の橋渡し役を任じてきた。一方で日本に対しては“徴用工”問題や事実上の慰安婦合意破棄問題、レーダー照射問題や旭日旗問題など次々と問題を生み出し、日本をアジアの中で孤立させようとしている。6月末のG20に合わせてトランプ大統領の訪韓を依頼した上に、5月の訪日後に韓国に立ち寄ることを打診したのも、ひとえに「日本に後れをとらない」ためだ。

だが米韓首脳間の関係はさほどうまく行っているわけではなさそうだ。文大統領が4月に訪米した時、首脳会談は2分で終わったとされているし、日本での国賓待遇にすっかり満足したトランプ大統領は、韓国に立ち寄らずに帰国している。

これを踏まえて日本政府は、“徴用工問題”を韓国政府が解決するまでG20での日韓首脳会談を開かないと改めて決意したはずだ。まさに窮地の文政権だが、追い打ちになりそうなのが来年4月の国会議員選挙だ。安定的な議会運営を行うには与党である「共に民主党」が全体の5分の3以上の議席を維持しなければならないが、文大統領の支持は低落する一方。韓国ギャラップ社による4月の世論調査では、文政権の支持率は41%で過去最低で、不支持率は49%で過去最高を記録した。4月30日に始まった大統領の弾劾を求める国民請願は、要回答基準の20万人を超えた。

アメリカも2020年11月の大統領選を控え、選挙を狙った各種キャンペーンが展開される。日本との貿易問題、とりわけ牛肉輸入問題もそのひとつ。トランプ大統領にとって引き下がることができない政策に違いない。

 ダイナミックに動く国際政治の裏には選挙がある。仁義なき国際政治はこれからも続いていく。

政治ジャーナリスト

兵庫県出身。姫路西高校、慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格後、政策担当秘書として勤務。テレビやラジオに出演の他、「野党共闘(泣)。」「“小池”にはまって、さあ大変!ー希望の党の凋落と突然の代表辞任」(ワニブックスPLUS新書)を執筆。「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない人々」(青林堂)に続き、「『新聞記者』という欺瞞ー『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)が咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を連続受賞。2021年に「新聞・テレビではわからない永田町のリアル」(青林堂)と「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)を刊行。姫路ふるさと大使。

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