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アントニオ猪木の会派入りで改めてわかった 小沢一郎のしたたかさ

安積明子政治ジャーナリスト
国民・自由会派入りの会見をする猪木氏と玉木・小沢両代表(写真:つのだよしお/アフロ)

「我々には知らされていない」

 ホテル・ニューオータニで2番目に大きな芙蓉の間。その一部を仕切って、アントニオ猪木参議院議員の会派入り会見が開かれた。会場ではあらかじめ照明は落とされ、3つの席が準備されたひな壇だけが浮かび上がっている。国民民主党の玉木雄一郎代表と自由党の小沢一郎共同代表が中央の席を空けて着席した。「炎のファイター INOKI-BOM-BA-Y」が流されると、いよいよトレードマークの赤いマフラーに赤いネクタイを付けたアントニオ猪木参議院議員の登場だ。

 さて猪木氏の国民・自由の会派入りについては、1か月ほど前から噂になっていた。会見前日の2月20日には、玉木氏が記者団に発表している。

「藤田幸久さんの除籍の決定については、連絡をもらった。しかし猪木さんの件は我々はまだ正式に知らされていない。驚いている」

 国民民主党のある議員がこう述べたのももっともだ。今年1月に国民民主党と自由党が統一会派を結成して以来、主導権をとるのは自由党に比べてはるかに大所帯の国民民主党ではなく、久々に表舞台に復帰した小沢氏だ。小沢氏は「政策協議」と称して、国民民主党の平野博文幹事長を自室に呼びつけている。その内容は「協議」ではなく、平野氏の事実上の「お伺い」といえるものだ。

小沢主導で猪木氏が表舞台へ

「基本政策しか持っていないから、戯言を言っても仕方ない」

 2月19日の「協議」の後に平野氏が記者団に述べたこの言葉は、両者の間で実質的な「政策の議論」が行われなかったことが伺える。この1時間ちょっとの「協議」で交わされたのは、おそらくは猪木氏の会派入りなど政局マターではなかったか。

 2月21日の会見で猪木氏が放った言葉からも、小沢主導が読み取れる。

「今のところ何も考えておりません。小沢先生の口説きが上手なんですよ」

「小沢先生に大連合を決めてもらって、もしその時が来たら私も決断します」

 この事実上の出馬宣言ととらえることができる発言に、実は猪木氏の周囲が驚いている。猪木氏が「次は出ない」と打ち明けていたからだ。

 理由は健康上の問題だろう。猪木氏は腰痛のため、昨年9月に訪朝した際には車椅子を使用した。2月21日の会見でも、ひな壇に上がる際にホテルのスタッフの介助を受けている。しかも猪木氏は会見の前日に76歳の誕生日を迎えた。参議院議員としてもう1期務めるとなると、80歳を超えることになる。

 しかし猪木氏の集票力はまだ健在だ。2013年の参院選で日本維新の会から比例区で出馬した時、35万6605票を獲得している。これはJAを支援団体に持つ自民党の山田俊夫氏の得票数よりも多かった。

 参議院では国民民主党が次期参院選で立憲民主党に流れがちの候補を引き止めるため、民進党から受け継いだ潤沢な資金を使うだろうと言われている。実際に野田国義参議院議員が立憲民主党の会派に入った時、「1億円を出してもいいから、もっと強い候補を探せ」と国民民主党の幹部から地元の福岡県連に指令が出た。30万票以上を持つ猪木氏なら、それ以上出しても惜しくはない。

「支払いはこちらになるのでしょう」

 そして両者をつなぐ構図は、この記者会見そのものといえる。全てを決めたのは自由党側で、国民民主党の事務局から会見の連絡が発せられたのは、開始2時間前だった。

「全ては自由党さんが決めて、会場費などの支払いはこちらになるのでしょう」

 国民民主党関係者がため息まじりに吐いたこの自虐めいた言葉こそ、真実を突くものだと言えるだろう。

政治ジャーナリスト

兵庫県出身。姫路西高校、慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格後、政策担当秘書として勤務。テレビやラジオに出演の他、「野党共闘(泣)。」「“小池”にはまって、さあ大変!ー希望の党の凋落と突然の代表辞任」(ワニブックスPLUS新書)を執筆。「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない人々」(青林堂)に続き、「『新聞記者』という欺瞞ー『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)が咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を連続受賞。2021年に「新聞・テレビではわからない永田町のリアル」(青林堂)と「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)を刊行。姫路ふるさと大使。

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