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【自民党総裁選】 選挙終盤で石破氏が健闘しているワケ

安積明子政治ジャーナリスト
石破氏の「桃太郎」に同行する“支持者”

銀座に人が集まった!

 9月17日午後1時。銀座4丁目交差点に集まった人々の数は、国政選挙の時とほぼ変わらなかった。三越銀座店の側に横付けされた街宣車に自民党東京都連会長の鴨下一郎元環境相、尾辻秀久元厚労相、中谷元元防衛相、石井準一参議院自民党筆頭副幹事長が次々と登壇し、マイクを握った。

「アベノミクスをこのまま続けていいのだろうか」

「社会保障はこのままの延長線でいいのだろうか」

「今回の総裁選は国家の品格を示す機会だと考えている」

 現政権への厳しい批判を織り交ぜての演説が繰り返される。そしていよいよ石破茂元幹事長が登場した。

「この戦いはなんとしても、みなさまのご支持を得て勝ち抜きたい。それは何のためなのか。私はひとりひとりが幸せを実感できる国を作ります」

 それに聞き入る群衆の中には、安倍政権への批判を記したプラカードを掲げた人もちらほら。そもそもこの群衆、国政選挙でよく見かける面々とは外見も行動もあまりにも違いすぎた。どうやら総裁選に投票権を持つ自民党員の数は少なそうだ。

 しかし石破氏の人気は意外にもたいしたもの。街宣車を降りて京橋方向へ中央通りを歩こうとすると、何人もの人が石破氏を取り囲み、写真撮影をねだった。その中で取材陣が注目したのが、石破氏の後ろを歩く小柄な女性、佳子夫人だった。

“秘密兵器”の佳子夫人

「佳子夫人は秘密兵器だ。“あちら”は足を引っ張るが、こちらは有力な応援団。佳子夫人は選挙区で石破さんよりも人気がある」

 石破選対のひとりはそう言って胸を張った。佳子夫人は2012年の総裁選では表に出ることはなかったが、今回の総裁選では後半に入って前面に押し出され、石破氏のイメージ戦略に一役かっている。

 そうしたことが原因だろうか。終盤になって石破氏の支持率が伸び始めた。日本テレビが党員・党友を対象に行った調査によると、「次の総裁」について「安倍氏」と答えた人は51%で、石破氏が41%。石破氏がかなり追い付いてきたようだ。

石破虐めが逆効果

 判官贔屓ということもあるだろう。石破陣営の斎藤健農水相が安倍陣営から大臣辞任を求められたと明かした事実や、西村康稔官房副長官が石破氏を応援しようとした兵庫県の地方議員に圧力をかけたという疑惑は、安倍陣営による石破陣営の「弱いもの虐め」という印象を強めている。

 さらにネットでの石破氏へのバッシングにもひどいものがある。あるインフルエンサーはまるで石破氏に「自民党から出ていけ」とばかりに呟き、これには数百もの同意するぶら下がりが付いていた。

 しかし石破氏が自民党から出ていったら、最も困るのは安倍首相ではないか。2020年までの憲法改正を目論む安倍首相は、秋の臨時国会で改正案を提出したいと明言。憲法改正の発議には国会議員の3分の2以上の同意が必要だが、もし石破氏ら水月会が離反したら発議すら不可能になってしまうからだ。

「勝利ライン」は……

 一方でこのような流れに対して石破陣営は、勝利の可能性が小さいながらも楽観的だ。国会議員票405票のうち、石破氏へ流れるのは50票前後と分析されているが、ある水月会幹部は「100票を目指す」と宣言した。

「我々はそれぞれ、(議員票を)複数票近く持っているが、それを公表しない。“血判状”などにして名簿にしてしまうと、相手陣営に片っ端から剥がされてしまうからだ」

 実際にその幹部自身、「私は10票余り持っている」と打ち明けた。勢いに乗っての積み増しに、大いに期待しているようだ。

 国会議員票と同じく405票の地方党員票については、石破陣営の期待はさらに大きい。地方党員票は国会議員票よりも国民の意思に近いとされるが、もし過半数を制したら、「国民は石破総理を望んでいる」ということになってしまうからだ。

 ただし党員票の締め切りは9月19日。たとえ流れを作ったとしても、期日を過ぎてしまえば無効となる。

 本日(9月18日)を含めて総裁選投開票日まであと2日。おそらくは自民党史上でもっとも熾烈な一騎打ちの総裁選は、その最終盤でどんなドラマを展開するのか。

 

政治ジャーナリスト

兵庫県出身。姫路西高校、慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格後、政策担当秘書として勤務。テレビやラジオに出演の他、「野党共闘(泣)。」「“小池”にはまって、さあ大変!ー希望の党の凋落と突然の代表辞任」(ワニブックスPLUS新書)を執筆。「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない人々」(青林堂)に続き、「『新聞記者』という欺瞞ー『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)が咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を連続受賞。2021年に「新聞・テレビではわからない永田町のリアル」(青林堂)と「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)を刊行。姫路ふるさと大使。

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