【自民党総裁選】 中央からの安倍VSローカル視点の石破

「72時間」を経て、ようやく討論会(写真:つのだよしお/アフロ)

安倍首相にとって次の任期は「集大成」

 9月6日未明に発生した「平成30年北海道胆振東部地震」の対応のために3日間の活動自粛となった自民党総裁選だが、9月10日に所見発表演説会と共同記者会見が行われた。演説会の会場となった自民党本部内のホールは所属議員や取材陣などであふれていたが、6年前の総裁選ほどの熱気はなく、やや冷静だと感じた。もっとも当時の自民党は野党で、あの総裁選は党の存亡をかけたものといえる。その中で最も優勢だったのが石破茂元防衛相だったが、非常時には「正統派」でない方が期待を集めるものだ。「出戻り組」の石破氏は「正統派」とは言えないが、一度政権を投げ出した安倍晋三首相もまた、この時は「正統派」ではなかった。

 しかしながら6年近く政権を担当してきた安倍首相は、いまや主流のど真ん中。悲願の憲法改正が課題として残っているものの、これからの課題は「いかに歴史に名を残すか」という点に尽きるだろう。その意識は所見発表演説会でも垣間見られた。

「今回の総裁選は私にとって最後の総裁選。尊敬する石破候補とともに品格ある希望にあふれた総裁選にしていきたい」

 こうした言葉が出るのは、「歴史に残る名宰相」を意識してのことに違いない。株価や企業業績の上昇、そして有効求人倍率や進学率の向上などは、アベノミクスが「成功」したという何よりの証拠。安倍首相の強い自信の根源となっている。

上からの安倍、下からの石破

 対抗馬の石破氏もそれは十分に意識している様子で、安倍首相との差異を強調することで存在感を示そうとした。確かにアベノミクスはマクロとしては成功しているが、ミクロとしてはどうなのか。石破氏が注目するところはそこだ。そして「アベノミクスの恩恵はいまだすみずみまで染み渡っていない」ということは、安倍首相も自覚しているところだ。

「アンダークラスという言葉がある。非正規雇用を中心とする年収186万円以下が930万人もいる。男性の66%が独身だ。そういうところに光を当てていくのが政治だ」

「ひとり暮らしの高齢者は600万人。そのうち300万人は生活保護以下の収入しかない。実際に生活保護を受けているのは70万人。政治が救済すべく会議体を作り、方向性を見出すべきだ」

 石破氏の見方は安倍首相と正反対だ。中央から政治を見る安倍首相に対し、石破氏はローカルな視点から攻め込む。

 防災省の創設について意見が分かれるのもそれゆえだ。防災省を作って専任大臣や専属スタッフを置くべしとする石破氏に対し、安倍首相は内閣全員が防災大臣になった気持ちで災害に取り組むべしとする。権力を分散させるのか、あるいは強いリーダーの下で権力を集中させるのか。リーダー論や意思決定論に繋がる差異がある。

 ただ憲法改正問題については主義主張というよりも、それぞれの立場の差の影響が強い。9条2項を存続させて3項で自衛隊を明記すべきとする安倍首相の考えは、現行憲法の精神を残したい公明党の思惑に合致するものだ。政権担当者として連立パートナーに配慮することはやむをえない。

 一方で石破氏は、「合区問題」などを優先。「来年の参議院選は間に合わなかったが、4年後の参議院選にもぐずぐずしていたら間に合わない」と、優先的に参議院の在り方について審議すべきとする。2016年の参議院選から島根県と合区にされた鳥取県を地元とする石破氏にとって、まさに自身の基盤に関わる問題だ。

「世界の中の日本」についても議論を

 演説会1時間と会見1時間の合計2時間で、さまざまな主張が2人の候補者によって展開された。だが希望をいえばもう少し、外交について語ってもらいたかった。「北方領土問題を解決する」とか「拉致問題を解決する」といった目標だけではなく、米朝接近・米中対立の現状をどのように分析し、これから情勢がどのように動くと見ているのかという点だ。

 ワシントンポストが8月28日付けの電子版でトランプ大統領の「真珠湾を忘れない」発言を報道し、9月6日にはウォールストリートジャーナルがトランプ大統領の対日強硬姿勢を報じた。また政府高官が匿名で大統領を批判するなど、トランプ政権内で大きな動きがありそうだ。これらが日本に与える影響はどうなるか。

 さて9月10日に始まった自民党総裁選は、同日午後に安倍首相が日ロ首脳会談と東方経済フォーラム出席のためにウラジオストクに出発したため、13日まで「休戦」となった。しかし自民党総裁選は事実上の首相を決める選挙。たとえ結果が見えている選挙であっても、国民に対して十分な議論を見せなければならないが、同時に政権与党としての自民党の責任が問われる選挙戦ともなるに違いない。