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【公職選挙法違反か】茂木大臣の“線香疑惑”から見える与野党の忖度政治

安積明子政治ジャーナリスト
予算委員会で顔をふく茂木大臣。有権者にあわせる顔がない?(写真:つのだよしお/アフロ)

茂木大臣の“線香疑惑”

 茂木敏充経済再生担当大臣(62)といえば、政策通で有名だ。日本新党からの“途中入社組”にもかかわらず、沖縄・北方担当大臣や金融担当大臣などを務めてきた。安倍晋三首相とも近いとされ、選挙対策委員長や政調会長など党内で要職も歴任。総理が不在の場合の臨時代理の順位は、麻生太郎副総理兼財務相、菅義偉官房長官に続く第3位と高い。

 その茂木氏にいま持ちあがっているのが「線香疑惑」だ。茂木氏や秘書が選挙区内の有権者に線香を配り、後援会関係者の通夜や葬儀に出席した秘書が香典を渡したと1月25日発売の週刊新潮が報じた。公職選挙法は政治家が選挙区内で金銭や品物を配る行為を禁止している。

1月29日の衆議院予算委員会で立憲民主党の逢坂誠二氏から追及を受けた茂木氏は、配布した香典に自分の名前を記載していなかったため、「公職選挙法の規定に乗っとって行った」と違法ではないことを主張した。同法は「氏名を表示し、これを類推されるような方法で寄付をしてはならない」としており、茂木氏の秘書が選挙区内の有権者に線香を配った行為がこれに該当するかどうかが大きな焦点となっている。

調査権のない総務省がなぜか出した文書

これについて野田聖子総務大臣は同委員会で、「具体の事例が寄付に該当するか否かは、個別の事案ごと具体の事実に沿って判断されるべきもの」とし、「総務省には個別の事案について実質的調査権を有していない」と述べるにとどまった。

しかし総務省は翌30日の衆議院予算委員会理事会で、「政党の職員や秘書が、氏名の表示のない政党支部からの寄付を持参することは、ただちに氏名が類推される方法によるものとはいえない」とする文書をわざわざ提出した。これについて野党から一斉に、「調査権のない総務省の逸脱行為だ」との批判が続出。さらに茂木氏に対して議員辞職を求める声も出ている。

立憲民主党は及び腰か

ところが衆議院予算委員会で逢坂氏が茂木氏を鋭く追及したにも関わらず、立憲民主党の枝野幸男代表は31日の会見で消極的な姿勢を見せた。総務省が出した文書について「これは官邸への忖度だと思わないか」との質問に、「私が予断を与えるべきではない」と回答を自粛。さらに「これから追及していく手のうちをなぜ曝さなければならないのか」と記者に反論した。

おそらくこの時の枝野氏の胸中にあったのは、同党の山尾志桜里氏の問題だろう。山尾氏は民進党政調会長だった2016年、自らが支部長を務める政党支部から2013年11月から2014年5月にかけて選挙区内の有権者6名に合計4万4875円の花代や香典を出していたことが発覚している。山尾氏は「政党支部の支出は禁止されていないということが民進党の統一見解だ」と弁明したが、この“論理”に従うと、茂木氏への追及が不可能になりかねない。

もともと公職選挙法は「ザル法」と言われているが、常識から離れた結果を生みやすいのも事実だ。そもそも「氏名の表示のない政党支部からの寄付」が「ただちに氏名が類推される方法によるものとはいえない」のなら、氏名を表示しない金銭はどうなのか。公職選挙法は金銭と品物を区別していないが、一般常識から見れば、差出人の氏名が書かれていない金銭の贈与はいくら少額でも違法になる。

仲間内で庇い合う“忖度政治”はただちにやめるべきだ。政治への不信を生みかねない。

政治ジャーナリスト

兵庫県出身。姫路西高校、慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格後、政策担当秘書として勤務。テレビやラジオに出演の他、「野党共闘(泣)。」「“小池”にはまって、さあ大変!ー希望の党の凋落と突然の代表辞任」(ワニブックスPLUS新書)を執筆。「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない人々」(青林堂)に続き、「『新聞記者』という欺瞞ー『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)が咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を連続受賞。2021年に「新聞・テレビではわからない永田町のリアル」(青林堂)と「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)を刊行。姫路ふるさと大使。

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