Yahoo!ニュース

お医者さんと話が通じない?医療におけるコミュニケーション・エラーの原因と対策 後半

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:ペイレスイメージズ/アフロイメージマート)

医療コミュニケーションに関して積極的に情報発信をしている2人の医師(山本健人先生、堀向健太先生)との鼎談。医療の現場でのコミュニケーション・エラーはどうやって解決すればいいのでしょうか?近年、増えてきた医療系一般公開講座について3人の医師が語り合いました。

大塚:医療の中でのコミュニケーション・エラーは私たち医療従事者が解決すべき問題ですが、患者さん側はどう対応すればいいでしょうか?

山本:やはり医師がどんなことを考えて診療しているのかを、患者さんに知ってもらうという活動が大切で、これが「SNS医療のカタチ」の目的の一つだと思っています。

昔は医療や病院というのは、ある意味ブラックボックスというか、中で何が行われているのかについて、そこまで透明性を保たないというのが当たり前だった。それで医師も身を守ることができたという側面もあるのかもしれないですけれど、今はむしろ透明性を意識して、医師がどんなことを考えて診療しているのかということをオープンにしていったほうがいいなと。

その方が、誤解が減ることにつながるし、医療に対する敷居も低くなるだろうと思います。われわれはSNSやヤフーのような大きなプラットフォームで発信していますし、オフラインで一般市民公開講座もやっています。こういったことが一つの解決策に繋がると思います。

大塚:堀向先生はどうですか。

堀向:僕自身、3年前まではTwitterなりSNSというものにいいイメージは持っていなかったんですよね。だから、SNSに関して、もしくはTwitterなどに関して、必ずしもいいイメージばかり持っている人ばかりではないというのは理解できます。

ですから、リアルワールドにも出ていって話をしていくことと、継続して出典のある情報を置いていくというのは重要かなと思っています。

バーチャルな医師じゃない、それぞれ人間がやっているんだということは伝えていったほうがいいんじゃないかなあ。そういった意味では「SNS医療のカタチ」という活動は続けていくことは大事なんじゃないかなと思います。

大塚:山本先生の話とつながるんですけれど、一昔前は、病院で白衣を着て医者が喋れば100パーセント近い確率で患者さんが信じてくれました。

「言われたとおりにやります」「全てお任せします」という患者さんがほとんどでした。

ただ、医療事故の報道が増えたり、民間療法がマスコミで紹介されたりなどで、「このお医者さんは信用できるのか」ということを意識する患者さんが増えてきたんじゃないかなと僕は思っています。

そうなったときに、今まで通り医者が診察室にどっしり座って、言われたことを全部やりなさいという医療のスタイルは、もうすでに限界にきていると思っています。

僕ら医療従事者が一般の方たちに、実際やっていることをオープンに話して、その中で問題点は一緒に考える。また僕らの状況を知ってもらうことによって患者さんも変わっていく。そういうステージに入っているんじゃないかなと思っています。

ここ最近、私たちが開催している「SNS医療のカタチ」以外にも医療系イベントは増えましたよね。私が把握している限り、一般公開講座が12月は4つか5つあります。あれはすごくいいことじゃないかなと思います。

これまで医療系のイベントをやられていたのは、どちらかというと「根拠のない」治療法の紹介が多かったという印象です。それが今は普通に病院で働いている普通の医者が自主的に開催している。それがイベントとして成立するというのは大きく変わってきたんじゃないかなと思います。

山本:他にも医療系イベントは、以前から市町村とか企業から頼まれてやる市民公開講座はありましたよね。そういうものは、医師が自主的ではなく受け身的な、義務感のようなものでされていたというケースが多いと思うんです。でも、普段ものすごく忙しい先生が土日をつぶして、それほど講演料ももらえるわけでもないところを無理に行く中で、そのクオリティーを期待するのは難しいのではないかと。

われわれの場合は、われわれがやりたくてやっている、というところが大前提です。そして、やりたいと思っている医師が今増えている、ということが望ましい姿なんだと思うんです。

大塚:そうですね。学会主導だったりとか市町村主導のたくさんの講座は確かに毎年どこもあるので。

堀向:というのはありましたよね。

大塚:ありました。ただ、やっぱり学会などから頼まれた公開講座だと、講演する医者は「雑用が回ってきた」という意識みたいなものがあったんじゃないかと思います。

山本:これは、全然その人が悪いという意味ではなくて、その人の人生で医者としてどういうことをやりたいか、ということの中の優先順位によるものです。われわれは、こういった活動の優先順位を高めにセッティングしていますよね。単純にその差ではないかなと思うんです。

大塚:一般公開講座が増えてきた今、一般の方はどうやって怪しいものかどうか判別したらいいのでしょうか?

判別がついていないまま、一般公開講座に行っている人もいると思うんです。

山本:われわれが行っているのは、Twitterでの集客のみ、というすごく狭いイベントなんですね。例えば僕は昨日、東京で講演をしましたけれど、これまでに参加してくださった方が4分の1ぐらいはいます。われわれの話が好きでリピーターとして通ってくださる。Twitter内での集客をメインにする限り、そういう方々にしか声は届いていないんですよね。

でもたとえば大塚先生は、今度の12月のトークイベントはTwitterだけでなく、薬局とかにポスターを貼りに行って集客されましたよね。これからはそんな風に、集客のチャンネルを広げていく必要があるというふうに考えています。

堀向:多くの医療関係者による、こういった活動がでてきています。いいことだと思います。例えばスマートフォンが出たばかりのときにだんだん機能が集約されてきて、もしくは機能がよくなってきてというふうな、その一番最初のときを見ているような感じだと思ってもらったらいいんじゃないかなと思うんです。

色んなイベントに参加していただいて、そしてそのイベントを判断していただいて、一緒に作り上げていくような感じでもいいのではないでしょうか。

大塚:医療系の一般公開講座は、「根拠のある治療法」を啓発する医者にとって、やっとスタートラインに立てたものだと思っています。標準治療を行う医者が公開講座を行うことで、「根拠のない治療法」を推奨する公開講座にまずは数の上で上回る必要があります。数が多くなることで、患者さんが「根拠のある医療情報」に出会う確率があがるものと考えています。

(3人の鼎談は以上です。最後までお読みくださりありがとうございました。)

注:SNS医療のカタチとは、大塚、堀向、山本が行っている公開市民講座。各都市に3人が出向き無料の公開講座を行っている。毎回の参加者は100名以上にのぼる。

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとしてAERA dot./BuzzFeed Japan/京都新聞「現代のことば」などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

大塚篤司の最近の記事