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『劇場版おっさんずラブ』沢村一樹が語る「吉田鋼太郎と林遣都はクレイジーにもほどがある」

渥美志保映画ライター
「はるたんを見る目が違う!」と沢村さん大絶賛の林遣都さん

連続ドラマ放映中はご覧になっていたんですか?

連続ドラマの放映中に、妻から「すごい面白いドラマ!」と聞かされて観たんです。吉田鋼太郎さんが演じる黒澤部長が、春田の腕を取った時に、指で、ちょっとこう、「かりかり」と触るというのがあって。え?このドラマはいったいどういう……?と思ったのを覚えています(笑)。あまたの経験をされてきた鋼太郎さんじゃないとできない表現ですよね。

同時に、うちのスタッフが部長のインスタグラムにハマっていて、「~だお!」っていう口調を真似したり、部長がアップしたお弁当の写真を見せられたりして、若い世代に波及しているなあと思いましたね。

オファーが来たときは、どんな気持ちでしたか?

ちょうど連続ドラマが放映されていた時に、同じテレビ朝日の『未解決の女』というドラマに出ていて、スタッフとは顔を合わせていたから、「面白いね」とずっと話をしていたんです。僕の中に自分でも気づかない腹黒い計算があり、アピールしていたのかもしれません(笑)。

創造の斜め上を行く新キャラクター、狸穴迅を演じる沢村一樹さん
創造の斜め上を行く新キャラクター、狸穴迅を演じる沢村一樹さん

沢村さんが演じた狸穴迅(まみあなじん)は、林遣都さん演じる牧凌太の上司として新たに登場する役ですね。いろんな意味で、絶妙な役、というか……。

ディレクターからは「時代劇で例えると徳川家康です」と言われました。そのうえ、名前が「狸穴」ですから(笑)。ネタバレになるので詳しくは言えないのですが、とにかくちょっと胡散臭く見えることを意識しながら演じました。お客さんが映画を見ている間ずーっと、「この人、いったい何者?」と思うような、いろんなことを匂わせたり、匂わせなかったりで……。正直、難しい役でしたね(笑)。

実際の現場で感じたことは?

主役の春田を演じる田中圭くんは、自然体だし、どちらかというと「ウケ」の芝居だったんですが、鋼太郎さんと、牧凌太役を演じる林遣都くんには、観ていてちょっと圧倒されました。僕は林くんと絡む芝居が多かったのですが、僕とのシーンと春田とのシーンでは林くんの目つきが、明らかに違うんです。春田といる時は、その目に愛情とか嫉妬とか意地とか、絡み合った複雑な感情がある。田中くんも合わせた3人のアンサンブルだからできるんでしょうけれど、圧倒されっぱなしでした。見せ場のひとつ、サウナで5人が鉢合わせる場面で、春田を巡ってやりあう鋼太郎さんと林くんのやりとりなんて、クレイジーにもほどがあるんですよ。最終日に撮ったんですが、あれはすごかった。

もう少し詳しく教えていただけますか?

台本でも長い場面なんですが、最初に頭から最後まで通しで、カットをしない長回しで撮ったんです。カット入れないので当然テンションは上がっていくんですが、中でも鋼太郎さんと林くんの熱量は、なんていったらいいか、野生動物みたいなんですよ。

サウナの場面なんですけどね、メイクをしてるので、最初に「顔から上は水をかけないようにしよう」ってことで始まったんですが、カメラ回った途端に、林くんが鋼太郎さんの顔面にばーーーっっ!!!と水をかけたんですよ、手桶で。そりゃあ「牧」だったら、水くらいかけますよね。「武蔵」は春田を奪おうと狙ってる、憎ったらしい相手なんですから。鋼太郎さんは素の反応としてそりゃあ驚きますよね。でもそれを演技の中に引っ張って持っていく。みんなが役を演じてるんじゃなくて、役になってるんです。1クールのドラマでここまでチームとして固まるんだ、と。

気遣いの人、でも「たぶん台本のまんまは絶対にやりたくないタイプ」(沢村さん談)の、黒沢武蔵こと吉田鋼太郎さんww
気遣いの人、でも「たぶん台本のまんまは絶対にやりたくないタイプ」(沢村さん談)の、黒沢武蔵こと吉田鋼太郎さんww

そういう中に新たに入っていく、そのプレッシャーはありませんでしたか?

たぶん鋼太郎さんは、新しく入ってきた僕に気遣って下さって、芝居の入りとしてはやりやすかったです。不思議なんですが、初日はそういうものは感じていなかったんですが、撮影が進むにつれて、やっぱり田中くん、吉田さん、林くんの3人がチームなんだなっていうのをじわじわと感じるようになって。まあ僕の役が彼らと対峙する役だったというのもありますが、通常は時間がたてばなじんでいくところ、時間がたつほどに「アウェイかも…」と感じるようになった部分はありました。

誰がどんなアドリブをするかわからない緊張感はありました?

そうですね、後半……というか、ほんとに最終日ですね。ただ僕自身は、あんまり遊びの方には行っちゃいけないという思いもあって。特に鋼太郎さんなんかはセンシティブに、そこにある感情を大事にしながらアドリブをやっているのがわかったから、ただ「これやったらウケるだろう」と手を出せば、作品を壊してしまうなと。だから、現場にいろんな球が飛び交っていても、それを自分から無理にキャッチしようとはせず、当たりそうになったら受けるくらいの感じで。

田中さん、林さん、志尊さんを始め、若い世代から受けた刺激はありましたか?

ありましたね。特に田中くんは、ポッと言うセリフひとつひとつが、いちいち「“はるたん”だな」と思わせるんです。セリフじゃない、力みがない自然な彼自身の言葉になってる感じで、ちょっと焦りました。僕は頭の中に台本があったりするけど、彼の頭の中には多分台本はないなっていう感じで。

「はるたんがモテるのは理解できる」と、沢村さん
「はるたんがモテるのは理解できる」と、沢村さん

田中さんとの場面で、何か具体的に覚えていることはありますか?

後半で春田と2ショットで絡む場面があるんです。春田が「ちょっと来てほしいところがあります」と言いながら、狸穴の腕をつかんでぐっと引っ張る、その引っ張り方とかが「あれ、もしかしてここから……」と思わせる感じなんですよ(笑)。春田が生まれながらに持っている、「人をその気にさせるスキンシップ」というか。田中くん自身にもそういう雰囲気があるんですが、「ああ、はるたんがモテるのはコレだな」と思いました。

『おっさんずラブ』ならではの楽しさは、どんなところから生まれていると思いましたか?

監督の瑠東さんが、役者に自由にやってもらうことを大事にしているなと感じました。例えば役者が「このパターンとこののパターン、どっちでしょう?」って聞くと、「じゃあこっちで」とジャッジするのが監督ですが、瑠東さんは「どっちでしょうねえ」っておっしゃるんです(笑)。決めつけないし、役者を強く押さないんです。結果、みんなで話し合うことになるから、役者は考えてくるし、監督はそれを見て考える。役者とスタッフも仲が良くてみんなが本音を言い合っている。そういうことがすごくうまく回っている現場だなと感じました。

最後に、沢村さん的な的見どころを

コメディなので、みんなでワイワイ楽しく見てくれたらいいなと思います。そこで笑ってもらうことで、最終的にはこの作品のテーマである人間愛が効いてくると思う。笑って泣いて、最後はキュンとなってもらえれば。新しく参加した自分が、その中に新しい風を吹き込めていたらいいなと思います。

『劇場版おっさんずラブ LOVE or DEAD』 公開中

(C)2019「劇場版おっさんずラブ」製作委員会

映画ライター

TVドラマ脚本家を経てライターへ。映画、ドラマ、書籍を中心にカルチャー、社会全般のインタビュー、ライティング、コラムなどを手がける。mi-molle、ELLE Japon、Ginger、コスモポリタン日本版、現代ビジネス、デイリー新潮、女性の広場など、紙媒体、web媒体に幅広く執筆。特に韓国の映画、ドラマに多く取材し、釜山国際映画祭には20年以上足を運ぶ。韓国ドラマのポッドキャスト『ハマる韓ドラ』、著書に『大人もハマる韓国ドラマ 推しの50本』。お仕事の依頼は、フェイスブックまでご連絡下さい。

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