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たとえ相手が福山雅治でも、働く女は四六時中一緒に仕事する男とは、決して寝ない

渥美志保映画ライター

今回は、福山雅治主演の最新作『スクープ』をご紹介します。

写真週刊誌の編集部を舞台に、福山演じる百戦錬磨のフリーカメラマン・都城静と、二階堂ふみ演じる新人記者・行川野火の凸凹コンビの活躍を描いた物語で、まあ報道の正義は!みたいな話も出てくるものの、そこは『モテキ』『バクマン。』の大根仁監督作品。キャラ立ちした登場人物と、リアルでテンポ抜群の会話、スピーディーな展開まで、「エンタメど真ん中」の作品です~。ということで、まずはこちらをどうぞ!

映画の魅力はいわずもがな、なんといっても福山雅治の存在感ですよね。

福山さんと言えば白衣姿で常にピシーッとした「ガリレオ」のイメージが強いせいか、ボサボサ頭に無精ひげ、アロハに革ジャン姿(もっといえば借金まみれ!)の中年パパラッチである都城静が、驚くほど汚れ役に見えてしまう人もいるかもしれません。

でも、トークは自身のラジオ番組での「下ネタ満載」とほぼ同じ感じだし、長年趣味として写真を撮り続けている人でもあるので、個人的にはこれまで演じた中でもっともハマり役、最も生き生きと演じているんじゃないかなーと感じました。言うことやることは荒っぽいけど、どこかロマンティストというキャラクターも、男っぽさと甘さの絶妙なバランスを地で行く福山さんにぴったり。福山ファンにはたまらないと思います。

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物語は、そんな彼が演じる静が、二階堂ふみ演じる新人記者を仕込んでゆく過程を描いてゆきます。かたやけもの道を切り開きワイルドにスクープをかっさらってきた百戦錬磨のパパラッチ、かたやファッション誌から全くの畑違いで異動してきた“完全な役立たず”、これが人気絶頂アイドルのキス写真やら、細野豪志と山本モナか!って感じのイケメン政治家不倫現場やらのスクープまで次々とすっぱぬいてゆく、まさかの快進撃が痛快です。

手段を選ばずスクープをモノにするあの手この手、撮れるか撮れないかのぎりぎりでせめぎ合い、特ダネを奪い合って始まるカーチェイス――そんなエキサイティングな毎日の中で、当初は「ゴキブリかドブネズミ以下」と蔑んでいた野火が、この仕事に夢中になってゆく。野火は映画を見る観客の気持ちを完全に体現してくれるわけです。

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さらに二人を取り巻く人間たちのキャラクターも抜群。次期編集長の座を奪い合う二人の副編集長、ゴシップ&芸能を仕切る吉田羊と、グラビアを仕切る滝藤賢一、この顔合わせは既視感バリバリではあるのですが、やっぱり面白いんですね。特に最初は敵役かと思いきや、どんどん別の顔が見えてくる滝藤賢一なんて、終わって見れば「こんなにおいしい役はない」といういい役です。

そしてそして大根作品に、もはや欠かせないリリー・フランキー。静の親友で過去を知る男で最大の弱点でもある旧知の情報屋「チャラ源」は、最高にユニークで最高に悲劇的で、リリー・フランキー史上最高の怪演です。ある意味、この映画の最高の見せ場はこの人が作ってる、と言っても過言ではありません。

この人が主役と言っても過言ではありません!
この人が主役と言っても過言ではありません!

最後にひとつだけ。

何しろ娯楽作としてすごーく面白いこの作品で、「どうなんだろう」と思うところがひとつだけ。野火と静の関係がやがて……な方向に向かうこと。野火が別のタイプだったり、今のタイプでも「はずみ」の関係ならわかるけど。本気で働く女は仕事で四六時中一緒にいなきゃいけない男とは、そう簡単には関係を持たないんじゃないかなあ。なんぼ福山雅治だったとしても。

ここだけ無理やり「男のファンタジー」になってる感じで、女子的に、というと言いすぎかもしれませんが、個人的には、ないほうがよかったのに……と思いました。二人の関係は「恋愛」でなく(その可能性は残しつつも、この時点では)「同志愛」や「師弟愛」で終わる方が、静がカッコよく見えるし、野火のキャラーにもあってるし、お話も素敵だったと思うんだけどなあ。例えていうなら『マッド・マックス 怒りのデス・ロード』の、マックスとフュリオサのような。

ま、それはそれとして、想定外のラストまで一気見必至。ぜひぜひお楽しみくださいませ!

『スクープ』公開中

(C)2016「SCOOP!」製作委員会

映画ライター

TVドラマ脚本家を経てライターへ。映画、ドラマ、書籍を中心にカルチャー、社会全般のインタビュー、ライティング、コラムなどを手がける。mi-molle、ELLE Japon、Ginger、コスモポリタン日本版、現代ビジネス、デイリー新潮、女性の広場など、紙媒体、web媒体に幅広く執筆。特に韓国の映画、ドラマに多く取材し、釜山国際映画祭には20年以上足を運ぶ。韓国ドラマのポッドキャスト『ハマる韓ドラ』、著書に『大人もハマる韓国ドラマ 推しの50本』。お仕事の依頼は、フェイスブックまでご連絡下さい。

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