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『オーバー・フェンス』のオダギリジョー 。女を病ませるのは、こういう男。

渥美志保映画ライター

『オーバー・フェンス』は、離婚し会社も辞めて無為な日々を送る中年男・白岩と、エキセントリックなキャバクラ嬢、聡(さとし)という、どこか行き詰まった二人の、だからこそややこしい恋愛を描いた物語。人間って、他人が見たら大したことないような理由で「行き詰まった感」にさいなまれることがあり、それでいて特別何が変わったわけでもないのに、ポン、とそれを乗り越えられることがありますよね。『オーバー・フェンス』はまさにそんな話です。

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そんなわけで映画の中で何かすごい事件が起こるわけではないのですが、全然退屈しないのは、キャラクターが面白く、「それ、わかるなあ」という瞬間がたくさんあり、演じる俳優さんがすごく上手いから。特に蒼井優演じる聡が「“他人目を気にする”って言葉を知らないんだろうか?」と思うほど感情のまんまで、ゆえに非常に困った人ではあるものの、「わかるわかる、こういう状況だと女は叫びだしたくなるもんなんだよね」と、妙に共感したりもします。でもって彼女の感情をかきむしるのが、オダギリジョー演じる白岩です。

可愛いけど寂しがりでメンヘラ気味。関わるとちょっとヤバい女
可愛いけど寂しがりでメンヘラ気味。関わるとちょっとヤバい女

失業中の白岩は職業訓練校に通っていて、そこがあまりにヘンテコな人ばっかりなので一見「穏やかな常識人」に見えるのですが、その優しさは実のところ「無関心」とか「諦め」の産物だったりします。要するに深く関わる気がないから誰にでも優しくできるわけで、さらにそのことに本人が無自覚なのでちょっと始末に負えません。

女が求めていることとは全く別の部分で「俺はけっこう優しいつもり」的なとんちんかんな優しさは、女を中途半端に喜ばせ期待させてしまう分だけ、最初から最後まで冷たい男よりもより深く女を傷つけ病ませてしまいます。こういう男マジで厄介――と思いながら見るのですが、この映画のオダギリジョーがここ数年で最高、惚れ直すほどのステキさ。つまり何よりも厄介なのは、こういう男ってほんとに、素敵に見えちゃうことなんですよねえ。オダギリジョーだから、かもしんないけども。

『オーバー・フェンス』公開中

(C)2016「オーバー・フェンス」製作委員会

映画ライター

TVドラマ脚本家を経てライターへ。映画、ドラマ、書籍を中心にカルチャー、社会全般のインタビュー、ライティング、コラムなどを手がける。mi-molle、ELLE Japon、Ginger、コスモポリタン日本版、現代ビジネス、デイリー新潮、女性の広場など、紙媒体、web媒体に幅広く執筆。特に韓国の映画、ドラマに多く取材し、釜山国際映画祭には20年以上足を運ぶ。韓国ドラマのポッドキャスト『ハマる韓ドラ』、著書に『大人もハマる韓国ドラマ 推しの50本』。お仕事の依頼は、フェイスブックまでご連絡下さい。

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