【今月の激押し】目的のためなら恋にも落ちる、彼女は人間か、AIか、それともただの女か。

今回は【今月の激押し】作品『エクスマキナ』をご紹介したいと思います。

低予算ながらオスカーで視覚効果賞を獲得した本作、伝説のSF『ブレードランナー』にちょっと似たところのある作品です。「SFはあんまり……」という女性にも見てほしいのは、この物語が基本的に「閉じ込められた女の子」の話で、女子の共感満点だからです。

主演は『リリーのすべて』で今年のオスカー助演女優賞を獲得したアリシア・ヴィキャンデル。共演の二人の男子は、出演作目白押しのドーナル・グリーソン(『レヴェナント 蘇りし者』『ブルックリン』)と演技派オスカー・アイザックという『スターウォーズ フォースの覚醒』コンビ。それだけでもう必見の作品です!ということで、いってみましょう。

こんな格好になっても可愛いアリシア・ヴィキャンデル
こんな格好になっても可愛いアリシア・ヴィキャンデル

まずは物語。世界最大のネット検索企業でプログラマーとして働くケイレブが社内コンペで勝ち取ったのは、社長所有の豪華別荘に滞在する1週間の休暇。そこはヘリコプターですら途中までしか行けないような人里離れた大自然の中なのですが、やっとのことでたどり着いたら、待っていたのは社長ネイサンが開発中の最新の人工知能(AI)をテストする仕事でした。なんのことはない、ケイレブはその適任者として意図的に選ばれていたんですね。

守秘義務の書類にサインさせられて、翌日から始まったのはそのAIを搭載したアンドロイド、エヴァとの面談です。ところがあまりに美しくあまりにリアルなエヴァに、ケイレブは恋愛に似た感情を抱き始めます。そんな折も折、エヴァは「ネイサンを信用しないで」と謎の警告を発するのです……。

マシンなのに生々しく色っぽいですから
マシンなのに生々しく色っぽいですから

人工知能(AI)とかアンドロイドを巡るSF作品って本当にたくさんあるのですが、そうした作品における最大の問いは「究極的に人間に近づいたアンドロイドと、人間との違いは何か」。ザックリ言うと、ネイサンはそれを「恋をするかどうか」で測ろうとしています。

ケイレブはもちろん能力のある青年なのですが、ハゲで髭面で超上から目線な天才オッサンであるネイサンしか見たことがなかったエヴァにとって、初めて見る優しくて若いイケメンなわけで、人間の女の子であれば恋に落ちるに違いない展開です。ところがそれをきっかけに、外の世界をシャットアウトすることで保たれてきたネイサンとエヴァの均衡が少しずつ崩れていきます。

エヴァに恋してるみたいだけど、あいつの心はコレだから。とケイレブに喝を入れるネイサン。
エヴァに恋してるみたいだけど、あいつの心はコレだから。とケイレブに喝を入れるネイサン。

そうした状況の中で三人の思惑や嘘が絡み合い、ゾクゾクするサスペンスを作り上げてゆきます。

まずは天才プログラマー、ネイサン。彼は人間とソックリのAIを作ろうとしていますが、エヴァで完成とは思っておらず、テストの結果を得て解体し、改良しようと思っています。彼が見極めたいのは、エヴァに「意識」があるかどうか。でもって試験者のケイレブに、「無意識のアート」と呼ばれるジャクソン・ポロックの(キャンバスに刷毛で滴を垂らしただけに見える)絵を見せてこうアドバイスします。

「ポロックは”なぜやっているか”が正確にわかっていなければ、何も描けない”と言っている。それは故意と無作為の中間のどこかで、無意識では決してない」。

ネイサン曰く、一見無意識に見えて、何をするにも(もちろん恋も)どこか意識的なのが人間だというわけです。

でも理屈ではこう言いながら、完全に引きこもりの億万長者は、おそらく実際には恋愛をしない、しようとも思ってないんですね。施設には自分の世話をするためのキョウコという女性型アンドロイドがいるのですが、これ、ほぼ家事とセックスのみに特化したもので、AIから“邪魔臭いもの(言葉の能力さえ!)”を取り除いてるんです。つまりこの人には恋愛を理屈でわかっているだけ、恋愛した人間がどうなっちゃうか、の本当のところは分かっていないわけです。

一方のケイレブは、エヴァに人間とロボットの違いを説明するために、哲学のある思考実験について語ります。それが「白黒の部屋のマリー」です。

「科学者のマリーは色を専門とし、それについてすべてのことを知っている。でも彼女は白黒の部屋で産まれ育ち、外の世界については白黒のモニターで触れてきただけ。彼女の知識は間接的なものでしかない。

ところがある日、何者かがその部屋のドアを開け、マリーは生まれて初めて空の青を目にする。その瞬間、それまでの知識では学べなかったこと――色を見た時に沸き上がる感情をマリーは学ぶ。経験は理屈では学べず、何にも替えがたい」

つまり人間は「部屋から出たマリー」で、AIは「部屋の中のマリー」だとケイレブは言うわけです。

エヴァはそんなケイレブとの面談を通じて外の世界への思いをリアルにしてゆくと同時に、ケイレブの自分に対する反応を「意識」するようになります。エヴァは「人間のあらゆる微細な表情による感情表現」を知識として知り尽くしているので、彼の反応が自分への恋心であることはもはやお見通し。エヴァのケイレブに対するやりとりは恋の駆け引きそのもので、ただでさえおぼこい理系男子が「彼女も自分と恋に落ちている」と思うのは至極当然です。

ところがこれをモニターしていた天才ネイサンが、恋に陶酔したことがないが故に出てくる“第三のオプション”を提示します。曰く「エヴァは君を好きなフリをしているのかも」。不安になりますね~。だって考えてみたらエヴァもネイサンと同じ、恋に陶酔したことはないんですから。

さて、エヴァは人間と同じ感情を持つ存在なのか、それとも計算によって行動する機械でしかないのか。サスペンスは高まってゆくのですが――これ、なんのことはない、生身の女子でも普通にやってることですよね。「エヴァは人間かAIか」を描いてきた物語は「女を理解できない男」の普遍的な物語みたいに見えてくるんですね~。面白いです~。

原作・監督のアレックス・ガーランドは、レオナルド・ディカプリオ主演の『ビーチ』の原作者として知られる人。見せかけの均衡を保った世界のカタストロフという意味ではこの作品と似たところがあるかもしれません。

すべて計算の上でネイサンが仕組んだ計画が、彼が本当のところを知らない「恋心」によって崩壊してゆく、そのラストをどう感じるか。社会状況とのリンクのリアルさに戦慄しつつも、個人的には痛快に見終わったのですが、「怖い!」と感じる人のほうが多いのかな~。コメント欄に感想でもいただけると面白いかも。どちらにしろすごく面白い作品です。ぜひお楽しみくださいませ!

『エクスマキナ』

6月10日(金)より全国順次

公式サイト

(C)Universal Pictures