金融用語に振り回されない!どこよりも分かりやすい『マネー・ショート 華麗なる大逆転』解説

さて今週はアカデミー賞脚色賞をとった『マネー・ショート 華麗なる大逆転』をご紹介します。

この映画、要するにリーマンショックの裏側で勝ち逃げた人たちのお話で、物語の結末はみーんな知ってるんですね。面白さはその過程の描き方なんですが、そのためにも絶対にわかっておいたほうがいいのが「ザックリな金融知識」。どこよりも分かりやすく端折って(ここ大事)書けちゃった!と自負しておりますので、見る前に、見た後に、是非読んでみてくださいな。

クリスチャン・ベイルは変人を演じる時が一番嬉々としてますね。
クリスチャン・ベイルは変人を演じる時が一番嬉々としてますね。

物語の始まりは2005年。資産運用会社を経営する、義眼の天才変人トレーダー、マイケルは、これまでの金融の歴史とデータに基づいて「このバブルはハジける」と分析し、「ある作戦」で勝負に出ます。

この奇妙な動きを察知し、そのからくりに気づいたのは目敏い銀行家ジャレド。彼は一儲けを目論んで、大手銀行の強欲に怒りを募らせるユダヤ人のヘッジファンド・マネージャー、マークと手を組むことに。

さらにもう一組、こちらは田舎から出てきた若手投資家コンビ、ジェイミーとチャーリー。資金不足で門前払いにされた大手銀行のロビーで、アホ金融マンが「変人のたわごと」と捨て置いていったマークの資料を偶然目にしたふたりは、知人の伝説の投資家ベンを頼って、一世一代の勝負に乗り出します。

目敏い銀行家ジャレドが、行かれるヘッジファンド・マネージャー、マークを説得中
目敏い銀行家ジャレドが、行かれるヘッジファンド・マネージャー、マークを説得中

さて冒頭でも書きましたが、この映画を見る前に何よりも声を大にして言いたいのは、いくつかの金融用語をぜひ知っておいてほしいってことなんですね、実は。もちろん映画の中でもある程度は説明してくれてはいるんです。「サタデーナイト・ライブ」でおなじみの監督アダム・マッケイは、面倒な話を笑いで表現するのはお手の物で、セレーナ・ゴメスがカジノから唐突に「合成CDO」について説明したり、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』のマーゴット・ロビーが泡風呂の中から「サブプライム・ローン」について説明したりして、そりゃああの手この手で面白いんですが、いかんせん情報量が多すぎて、金融に明るくない人は「面白い!」までたどり着けません。ということで、まずは最低限の知識を、かるーく説明したいと思います。

まずはリーマン・ショックの元凶、サブプライム・ローンの大流行について。

これは信用度が「プライム(優良)」じゃない人のためのローン、つまり「担保も預金残高も、仕事すらなくても貸します」というローンです。2003年くらいに急拡大したのは、金融機関が「金利を段階的に上げるから、最初は金利0%でいいよ」という新型ローンを出したから。不動産価格の上昇を背景に、金融機関は本来なら貸すべきでない相手にじゃんじゃんお金を貸して、組んだ住宅ローンで買った不動産に抵当権をつけます。日本のバブル時代と同じで、不動産価格が上昇しているうちは、借り手は不動産を転売して儲けることができるし、金融機関も返せない債務者からは不動産を取り上げて転売すれば損はでません。

金融機関はこうしたローンなどの債権がたくさんたまってくると、いくつかの債権をひとつにまとめて「証券」として売り出します。こうれが「債務担保証券(CDO)」。ここには不動産価格が下がれば簡単に不良債権化するサブプライム・ローンが大量に紛れ込ませてあるたちの悪いものですが、そうとは分からないように巧妙にややこしく組み合わせてあります。格付け機関もその実態を把握せずに銀行の言うがままの格付けをし、銀行はそれをもとに「安くて確実な商品」と太鼓判をおして売りまくっていたわけです。

金融の話って難しいですね~。というわけで箸休めに、パンチパーマが笑えるライアン・ゴズリングをどうぞ。
金融の話って難しいですね~。というわけで箸休めに、パンチパーマが笑えるライアン・ゴズリングをどうぞ。

さてこういう状況を「いつか破綻する」と見抜いた天才変人トレーダー、マークがとった「ある作戦」とは、たくさんの金融機関から「クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)」を買いまくることでした。金融機関ってなんでも商品にしちゃうんだなあと思いますが、この「CDS」とは、売り手の金融機関の信用に対する保険契約のようなものです。

例えば銀行Aが保険会社Bの債券を持っているとします。保険会社Bの信用が下がるような事態になると、銀行Aは資産が目減りするなどの損をしますよね。そういう時に「信用が下がった場合は、それによる損失分を払います。その代わり毎月固定のプレミアム(保険料の様なもの)を払って下さい」という契約が「CDS」。買い手は損失を回避できるし、売り手は毎月のプレミアムでもうけが出ます

面白いのは「CDS」は、必ずしも銀行Aと保険会社Bのような関係でなくとも、投機目的の誰もが買えること。(その際に「空売り」って言葉が何度も出てきますが、これはこの映画を見る分には「現物(証券・債券の件そのもの)のやり取りがないまま行われる金融の売買一般をさす言葉」くらいに思っとけばいいんじゃないかなと思います。)勝ち逃げた人たちはこのCDSを大量に買って、不動産価格の上昇が鈍るのを待ち、CDOの格付けが下がるのを待ち、金融機関がサブプライム・ローンで傾きはじめるのを待ったんですね。それはそれでなんか怖いわあ。

さてこの映画で何が一番印象的かと言えば、それがアメリカ金融業界のひっどい嘘っぱちぶりです。読む気をそぐ分厚い約款と素人が理解できないようわざとややこしく作ったインチキ商品を売りつけ、そのことにこれっぽっちも罪悪感を覚えず、人様から巻き上げた金で買った高級スーツを着てエリート面して豪遊し、自分たちの都合のいいように情報を操作し、破たんが目前に迫っても誰一人危機感がなく――アメリカで投資なんかしちゃ絶対にダメだな!と、アメリカに行く予定も投資の予定もなんもない私が固く決心してしまうくらい、ほとんど詐欺です。

リーマン・ショックの影響が、日本では(出版業界とか特に!)いまだに尾を引いているっていうのに、それがこんな奴らのせいだったとは……と思うときーっ!ってなっちゃうんですが、とはいうものの!日本でも「これからは貯蓄じゃなくて投資だぜ!」みたいな空気が国家的に醸成されつつある昨今、悪い金融マンもいるということや、そのやり口を是非とも知っとくべきだと思います。

僕が資金集めしたんだし、美味しい役をやってもいいよね、のブラピさん
僕が資金集めしたんだし、美味しい役をやってもいいよね、のブラピさん

登場人物がそろいもそろって変人だらけなのも私好み。『それでも夜は明ける』に続いてプロデューサーの地位を利用したのか(笑)、ブラピ演じる田舎でオーガニック暮らしをする潔癖な世捨て人ベンは特に面白く、電話番号いくつもあるのにどこにかけても出たら即切るとか、都会に出てくる時にめっちゃ厳重なマスクしてるとか、すっげー面倒くさい頑固ジジイなのに、最後には全部もっていくという美味しい役でもあります。

アカデミー賞助演男優賞にノミネートされたクリスチャン・ベイルは、最初に気づく義眼のマイクを演じていますが、CGを使ってるのかどうなのか、ほんとに義眼にしか見えない役を怪演しています。

この人、常に短パン&ビーサンスタイルのヘヴィメタ好きでストレスたまるとドラムを叩くという変わり者で、ほとんど外に出ない人なんですが、彼が数十億単位でぶっこんだCDSが銀行の陰謀でなかなか値を上げず、会社の部下はどんどん減り、プレミアムの支払いで資産はどんどん減り、投資家の信用も失っていく中、ひとりドラムを打ちまくるという姿には、なんだか生き馬の目を抜く金融界の戦いのひりひり感がすごく感じられます。

彼が自嘲して言う「世の中は事実や数字に基づくプロを必要としない。欲しがるのは親しい仲間のようなプロだ」という言葉も、見映えや与しやすさばかりが評価される現代社会への、なかなかの警句でした。

あああ、長くなっちゃいましたが、見に行く人は是非、金融用語のところだけでも読んでいってくださいねー。ちなみに、金融用語は以下のサイトを参考にさせていただきました。私もにわか勉強なので、もし間違っているところがあればご指摘くださると嬉しいですー。

http://www.ifinance.ne.jp/

http://www.dir.co.jp/library/column/090324.html

http://money.infobank.co.jp/index.htm

『マネーショート 華麗なる大逆転』

3月4日(金)公開

公式サイト

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