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竹内結子も途中リタイア?自分の住居が怖くなるトラウマ映画『残穢 住んではいけない部屋』

渥美志保映画ライター

さて今回は、今月のおすすめ作品から『残穢 住んではいけない部屋』をご紹介します。

ある部屋で起こる怪奇現象の正体を探ってゆく、って書くと、ものすごく普通の話に聞こえますが、さにあらず。私はホラーが大好きなんですが、この映画はここ10年で見た中で一番かも、っていうくらい面白かった作品で、ホラーというより映画としてすごく上手にできている作品だと思います。もちろんすごく怖いです~。なんでも主演の竹内結子さんは、完成品の試写で最後まで見ることができなかったとか。撮影の裏側も次に何が起こるかも知ってる人がそれだけ怖がるって、どんだけ怖いんでしょうか。まあまずは、こちらを読んでみてください~。

読者「久保さん」からの手紙を、ふむふむ読む小説家の「私」
読者「久保さん」からの手紙を、ふむふむ読む小説家の「私」

「誰もいない部屋で奇妙な音がする」。実話怪談を書いている小説家の「私」に舞い込んだそんな手紙から、物語は始まります。送り主はある集合住宅の202号室に最近越してきた女性、久保さん。彼女によれば、1DKの寝室に使っている畳間から、箒で畳をゆっくりと掃くような、ザザッ…、ザザッ…という規則的な音がするというのです。

畳の部屋からの「ザザッ…、ザザッ…」という音に、全身耳になっちゃっている久保さん
畳の部屋からの「ザザッ…、ザザッ…」という音に、全身耳になっちゃっている久保さん

大学ではミステリー研究会に所属していた久保さんはどうしても気になって、ご近所にそれとなく話を聞き始め、405号室の前の住人が経験した「変な話」を知ることに。それは畳間の虚空を指さして「ぶらんこ」と言い出した子供が、ぬいぐるみの首に紐をまいてぶらぶらさせたというものです。同じ頃、いつものように聞こえてきたザザッ…ザザッ…という音に、閉めていた襖をバッ!と開けてみた久保さんは、差し込んだ光の中に一瞬、畳の上に引きずられる金襴の帯を見ます。久保さんの頭からは「ほどけた帯を畳に引きずりながら、前へ後ろへゆれる首吊り女性」のイメージが離れなくなります。

逐一メールで報告を受けていた「私」は、久保さんとともにその部屋の謎を探り始めることに。ふたりは当然、この部屋で以前に自殺した人を捜すのですが、不動産屋に尋ねてもそれらしいことはないし、妙なことが起こる部屋も202号室と405号室とバラバラで、さらに言えば405号室の現住人は何の不都合も感じていません。そこでふたりはマンションが建つ以前の話を周辺の住人に聞いて回り、ついに和服で首を吊った女性に行き当たります。ところが。その女性が自殺前に悩まされていたという「どこからともなく聞こえる赤ちゃんの泣き声」の話を知り、2人はまた別の不気味を感じ始めます。というのも、引っ越した先で自殺した202号室の前住人が、やはり同じものに悩まされていたからです……。

知ってるくせして知らない顔する坊さんは、それがマジでヤバイと知っているからです。
知ってるくせして知らない顔する坊さんは、それがマジでヤバイと知っているからです。

この映画がすごく怖いのは、そこにある怪奇の原因や全貌がどこまで行っても見えないこと。ホラーの常道ならば「この部屋で死んだ人の霊が」となって、じゃあ成仏させよう的な解決法に至りますが、『残穢 住んではいけない部屋』の場合は、過去を遡って原因のような事件に突き当たったかと思ったら、今度はそれを引き起こしたさらに忌まわしい過去があり、いつまでも解決策を見いだせません。そしてさかのぼれば遡るほど、意味不明だった小さな不気味が全部つながってゆき、闇はどんどん深く大きくなってゆきます。

「残穢」とは「その土地に残された穢(けが)れ」という意味ですが、その土地に関わった人が「残穢」によって次々と汚染されてゆき、場合によってはその人々の引っ越しとともに穢れも別の土地に持ち込まれ、どんどん拡散されてゆきます。防ぐことも解決することもできません。

一番ヤバい場所に行くのに、わざわざ夜を選ぶのはどうなんだろう。
一番ヤバい場所に行くのに、わざわざ夜を選ぶのはどうなんだろう。

さらに何が怖いって、こうした一連の流れを見せられた観客が、この世の中に「穢れていない場所なんてないんじゃないか」と思い始めることです。ついに我慢できなくなった「久保さん」が引っ越した新しい部屋、それをとらえたカメラが、スッ、と何もない床へと視線を落とす時。「私」が新築した家の廊下で、誰もいないのにセンサーライトがフッと点灯した時。本来ならどうということのないこんな1カットが、ものすごーく怖い。

そして困ったことに、映画を見終わった後もそれが尾を引き、自分の部屋すら全然違って見えてくるんです~。だって考えても見て下さい、10年前くらいまでなら「大島てる」でチェックできるかもしれませんが、30年40年と遡ってそこで何があったか知っている人なんてほとんどいません。ここも穢れてるかもしれない…なんて思い始めると、リモコン触ってないのに突如テレビがつく、とか、この原稿書いてる間に突如ネットがつながらなくなったとか、「もしや残穢かっ?」と慄いてしまうんですね。映画によってある視点を植え付けられた観客は、何の変哲もないものに特別な意味やいわくを見出してしまうわけです。これいい映画、いい脚本のお手本みたいなものです。めっちゃ怖いけども。

ハリウッドを中心とした最近のホラーは、悲鳴があって血がドバーッと飛び散って、おどろおどろしいサウンドが恐怖を煽る……みたいなものが主流ですが、『残穢 住んではいけない部屋』にはそういったものが一切ないのに(ないから?)ものすごく怖い。薄暗い闇の中に蠢く黒いもの、どこかかび臭く湿り気を帯びた重い空気、そういうものが身体にまとわりついてジワジワと蝕まれていくような感じ。

怪異の正体を追う「私」役の竹内結子さんも「久保さん」役の橋本愛さんも、始終体温が低く冷静で怪奇現象を眉唾で見ているんですが、そういう彼女たちが、重く暗い闇の中に取り込まれてゆく様に、観客はより底寒いものを感じるに違いありません。

「幽霊画」「座敷牢」「河童のミイラ」「ぼっとん便所」などなど、昭和時代の恐怖の「記号」みたいなものも満載、横溝正史シリーズ的な恐怖なので、40代50代の人は特にハマると思います。ホラーがだいじょうぶな方なら、絶対に見てほしい作品です。

ちなみに小野不由美さんの原作『残穢』もものすごく面白いので、映画の後は是非そちらもお楽しみくださいね。

『残穢 住んではいけない部屋』

1月30日(土)公開

(C)2016「残穢 住んではいけない部屋」製作委員会

映画ライター

TVドラマ脚本家を経てライターへ。映画、ドラマ、書籍を中心にカルチャー、社会全般のインタビュー、ライティング、コラムなどを手がける。mi-molle、ELLE Japon、Ginger、コスモポリタン日本版、現代ビジネス、デイリー新潮、女性の広場など、紙媒体、web媒体に幅広く執筆。特に韓国の映画、ドラマに多く取材し、釜山国際映画祭には20年以上足を運ぶ。韓国ドラマのポッドキャスト『ハマる韓ドラ』、著書に『大人もハマる韓国ドラマ 推しの50本』。お仕事の依頼は、フェイスブックまでご連絡下さい。

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