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中国代表、侍ジャパン戦の「秘密兵器」。初の「プロ」相手に好投を見せる【WBC】

阿佐智ベースボールジャーナリスト
アラン・カーター(エンゼルス傘下)

WBC本番に向けて各国調整が進んでいる。第1次ラウンドを侍ジャパンと同組で迎える韓国、オーストラリア、中国、チェコの各国の動向だが、最大のライバルである韓国は米国・アリゾナでのキャンプを今日で打ち上げ、いったん帰国。韓国リーグチームとの1試合のオープン戦の後、来日して大阪でオリックス、阪神との最終のテストマッチを行う。

オーストラリアは、東京・府中市でキャンプを張り、社会人強豪チームとの練習試合を重ねている。初出場のチェコは、スペインで地元クラブチームとの練習試合で調整を行っているようだ。

そして中国。この国は、これまで第1次ラウンドを突破したことはないものの、第1回大会から出場を続けている。2008年北京五輪開催決定後の2002年より国内トップリーグを発足させ、ナショナルチームの強化をはかり、五輪本番とその翌2009年WBCでの台湾戦の勝利に繋げた。その後、いったん野球は盛り上がりを失っていくが、2019年には中国プロ野球リーグを開始し、本格的にプロ化への舵を切った。

しかし、その後、コロナ禍もあり、リーグ戦の方は中止されたままになっている。それでも、MLBの後押しもあり着実に強化を進め、今大会も代表チームを組織し、九州・鹿児島に乗り込んできた。

現在鹿児島県では、アマチュア・プロの垣根を超えた野球大会、「おいどんカップ」が開催されており、今日28日には、独立リーグ・ヤマエグループ九州アジアリーグの大分B-リングスと相まみえた。

今回の中国代表は、これまでと同じように国内リーグの選手を主体に構成されている。これに「助っ人」として、現在は第一線を退いたものの、中国系マイナーリーガーの草分け的存在である、レイモンド・チャンや、昨年までソフトバンクでプレーしていた真砂勇介(日立製作所)らプロ経験豊富なベテランを加え、国際舞台に挑戦する。そのメンバーの中で、注目を集めているのが、シンガポール生まれの米中ハーフ選手、アラン・カーターだ。昨年のMLBドラフトでは指名されなかったものの、このオフにロサンゼルス・エンゼルスと契約。中国の「秘密兵器」として今回の代表チームに合流した。来日後、すでに「おいどんカップ」で1試合に登板。最速149キロを叩き出し、クラブチーム相手に1回無失点と順調なスタートを切っている。

試合前のベンチでバットを構えるカーター
試合前のベンチでバットを構えるカーター

試合前、野手陣が練習をしている中、カーターはひとりベンチでバットを構えていた。「君は野手でないだろ」と声をかけると、はにかみながらインタビューに答えてくれた。

中国人の母を持つ彼は現在、チームメイトとは中国語でコミュニケーションを取っている。張彦倫という中国名を持つ彼は、幼少時から母から中国語を躾けられたという。

「リスニングは問題ないんだけど、話すのはちょっとね」とはいうが、コミュニケーションに戸惑う様子はない。フィールドでは野球そのものが共通言語になっていることを感じる。

エンゼルスとは契約したものの、いまだスプリングトレーニングには参加していない。自宅のあるアトランタから直接日本に乗り込み、代表チームに合流した。大会後、キャンプに合流の予定だが、ルーキーイヤーの今年はHI-Aか2Aからのスタートだという。マイナースタートとはいえ、あの大谷翔平と同じ地でキャンプを送ることになる。東京で一足早くチームの先輩と一緒になるかもしれない。

「そうなんだ。今からワクワクしているよ。会えるのかな?」

大谷の話を振ると、その表情はすっかりファンのそれになり、偉大なスーパースターとの対戦に胸をときめかせていた。

リリーフピッチャーということで、試合開始時は、スタンドで投手陣とともに観戦。プロの独立リーグチーム相手に接戦を演じるチームに声援を送る。

出番が回ってきたのは8回表。7回裏にツーベースと相手のエラーで同点に追いついたのを見届けると、満を持してマウンドに上がった。

中国投手陣にはいわゆるパワーピッチャーはいない。どの投手もストレートのMAXは130キロ台半ばだろう。その中で、彼のストレートはブルペンでも際立っていたが、マウンドではコントロール重視か、ストレートは抑え気味で投げていた印象だ。それでも高めに浮く球が多かったのは、大会に向けての課題だろう。

見たところ、まだまだ本調子と言うわけではなかったが、先頭打者を三振に取った後は、無難に後続も打ち取り、その能力の片鱗をみせていた。

格上のチームとの対戦がほとんどの中国代表だが、唯一の「格下」、チェコ戦での1勝を狙いにいくようなケチなまねはせず、全試合を勝ちにいくつもりで選手は取り組んでいる。侍ジャパンの初戦は中国戦。失礼な言い方になるかもしれないが、なにかの拍子で先取点を入れれば、中国はアラン・カーターというプロスペクトを惜しげもなく投入してくるだろう。

(写真は筆者撮影)

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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