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「待ち人」ラルフ・ブライアント来たらず。それでも新リーグは開幕。【北海道フロンティアリーグ】

阿佐智ベースボールライター
本拠地開幕戦を迎えた美唄ブラックダイヤモンズ

 昨シーズン後、北海道ベースボールリーグから3球団が分立して新たにスタートした独立リーグ、北海道フロンティアリーグ。5月1日に元日本ハムの坪井智哉率いる石狩レッドフェニックスと美唄ブラックダイヤモンズの一戦で幕を開けた。そして、昨日、残る1球団、士別サムライブレイズが美唄に乗り込んで初戦を迎えた。

 士別の監督は、あのラルフ・ブライアント。平成の初め豪快なホームランで近鉄「いてまえ打線」を引っ張り野球ファンを魅了したレジェンド・スラッガーだ。

 しかし、ブライアントはいなかった。コロナ禍にあってビザの発給が遅れ、いまだ来日していないのだ。すでにビザ申請は済ませており、まもなく来日の予定だという。

 ブライアント招聘の窓口役を努めた日本プロ野球外国人OB選手会事務局長の砂原元は、「大物」の監督就任の経緯についてこう語る。

「士別球団の監督には当初、元中日のトニ・ブランコ氏が就く予定でしたが、ビザの問題で来日が不可能になったんです。それで、代わりをということになったんですが、球団のほうとしては、それなりにネームバリューがあり、選手兼任という希望が伝えられたんです。しかし、それだけの条件を満たせる人物ですぐ来ることができる人間がいるのかということになって、現役はともかく、ネームバリューという点で、ブライアントに白羽の矢が立ったんです」

ひょっとすると本人がその気になれば、あの豪快な打撃が北の大地で目にできるかもしれない。

北の大地での独立野球リーグの存在意義

ブラックダイヤモンズは硬式野球のなかった美唄の人々に「本物」を見せるべく日々努力している
ブラックダイヤモンズは硬式野球のなかった美唄の人々に「本物」を見せるべく日々努力している

「僕はもともとスキーの人間なんです」

 ブライアントに代わってチームの指揮を代行する菅原大和はいう。球団のオーナー会社の役員で会社のスキー部を率いている彼は、監督不在の中、チームを預かることになった。

「楽しいですよ。北海道を盛り上げるためにやっているんですから。儲けるとかいくらかかるとかは関係ないんです。我々は地域のためにやっているんです。このリーグの誰に聞いても同じことを言うと思いますよ」

 北の大地で独立リーグという挑戦を続けるその理念は、従来の独立リーグとは少々違っている。独立リーグと言えば、プロ野球(NPB)への登竜門というのが相場である。しかし、このリーグは、その部分を否定するわけではないが、「地域密着」という独立リーグのもうひとつの柱により重心を置いている。選手は基本的に地元企業に就労する。企業の理解を得ながら野球をプレーし、その力量に応じて野球でも報酬を手にしている。

「北海道に若者を呼び寄せる。野球はそのためのツールなんです。とにかく野球で北海道を盛り上げたい」

 リーグ代表理事の荘司光哉は、北海道という地で独立野球リーグを行う意義をこう語った。

 ブラックダイヤモンズの本拠、美唄市民球場は、ながらくもっぱら軟式野球で使用されていたという。美唄市民が地元で硬式野球を見る機会はなかったのだ。地元に昨年誕生したブラックダイヤモンズは、美唄の野球ファンに「本物」のボールゲームを見る機会を提供している。

あいにくの雨模様の中行われた「開幕戦」

小雨降る中、ファンの思いも届いてか、試合は実施された
小雨降る中、ファンの思いも届いてか、試合は実施された

 この日の美唄はあいにくの小雨が降り続く天気だった。午前中に晴れ間も見えたが、昼前1には一時本降りとなって試合開催が危ぶまれた。降ったり止んだりの続く中、試合開始は午後1時から2時に変更され、さらに延長された。それでもこの日を待ちわびた多くのファンは10度を下回る気温の中、地元開幕戦が始まるのを辛抱強く待っていた。

 一時はフィールドのあちらこちらに水が溜まり、試合開催は無理ではないかとも思われたが、選手、スタッフ総出で数度にわたって行った懸命の整備により、なんとか試合を行える状態となった。

選手・スタッフ総出で懸命のグラウンド整備が行われた
選手・スタッフ総出で懸命のグラウンド整備が行われた

 午後2時半、セレモニーが行われた後、プレーボールがかかった。先発投手が第一球を投じると同時に雲の切れ間から陽の光が顔をのぞかせた。

チアリーダーたちの歓迎の中フィールドへ向かう美唄の選手たち
チアリーダーたちの歓迎の中フィールドへ向かう美唄の選手たち

 試合は、初回から先攻の士別が5点、後攻の美唄が3点を入れる大味なものとなった。それでも士別は2回にも3点を取って8対2とし、序盤にして試合を決めたかに思われたが、地元ファンにぶざまな姿は見せられないと美唄が粘り、6回裏に1アウトからのツーベースでついに逆転する。

 しかし、士別が7回表に3点を奪うと、美唄の追い上げも虚しく11対10で士別が開幕勝利を飾った。

 スコアが示すように、両軍合わせてエラー10、四死球16(うち死球7)という独立リーグではあれ「プロ」を名乗るには、お粗末な試合としかいいようのない内容だったが、球場に足を運んだファンは十分に満足した様子だった。

 世界に目を向ければ、サッカーではどんな小さな町でもプロサッカーチームがあり、技量はトップリーグにはるか及ばないまでも懸命にボールを追う選手を応援するサポーターが地域のスポーツ文化を育んでいる。

 北の大地の独立リーグの挑戦はそれに近いものなのかもしれない。

桜前線とともに北海道にも球春がやってきた
桜前線とともに北海道にも球春がやってきた

(写真はすべて筆者撮影)

ベースボールライター

これまで、190か国を訪ね歩き、22か国でプロ、あるいはプロに準ずるリーグの野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当、WBC2017年大会ぴあのガイドの各国紹介を担当した。国内野球についても、プロから独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。

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