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阪神タイガース、ファーム施設移転を正式発表。進むNPBファームの「マイナーリーグ化」

阿佐智ベースボールジャーナリスト
現在の阪神二軍の本拠、鳴尾浜球場。「タイガーデン」の異名をもつ。

 22日、阪神タイガースが2025年5月にファーム施設を移転させることを正式発表した。現在、阪神球団は、一軍の本拠・甲子園球場と同じ兵庫県西宮市の鳴尾浜にファーム施設と選手寮をもっているが、かねてから話があがっていた同県尼崎市の小田南公園に新球場を建設し、ここをファームの本拠とすることを決定した。全国区の人気を誇るタイガースだが、球場が手狭なこともあり、これまで二軍の試合は入場無料でファンに開放していた。多くの球団がファームを収益のコンテンツにすべく様々な努力をしている中、名門人気球団もようやくファームの「マイナーリーグ」化に舵を切ったようだ。

興行化に失敗したNPBのファーム

 プロ野球(NPB)が二軍を本格的に運営しだしたのは第2次大戦後のことである。1952(昭和27)年に西日本の7チームにより関西ファームリーグが結成されたが、このリーグは興行を行わず、試合は一軍の前座として行われていた。そして2リーグ分裂後の1954(昭和29)年に、球団数を増やしたパ・リーグへの対抗策として、セ・リーグ6球団の二軍により新日本リーグが結成されたが、このリーグは、各チームがそれぞれ一軍とは別のチーム名を名乗り、スポンサーをつけ、興行試合を行うアメリカのマイナーリーグに倣った運営が行われた。しかし、各チームは一軍とは別の本拠地を設定したものの、試合は地方を転戦して実施され、結局2年で解散に追い込まれた。

 現在のファームリーグであるウエスタンリーグイースタンリーグが発足したのは1955(昭和30)年のことである。初年度はセの6球団のファームチームは、この両リーグと掛け持ちで公式戦を実施した。その上、イースタンリーグは1年限りで一旦解散。その後1961(昭和36)年に復活し、以来現在まで東西2つのファームリーグという体制が続いている。このような歴史のなかで、人気球団の巨人などは二軍を別個のチームとして地方巡業させ興行を成り立たせていたが、他球団にとっては、二軍はあくまで「ファーム」。育成の場以上のものにはならなかった。そして、野球中継が始まると、これが二軍の地方巡業にとってかわるようになり、巨人の二軍は集客コンテンツとしての魅力を急速に失っていった。1970年代に入る頃には、各球団の二軍は河川敷のグラウンドや一軍本拠で、あるいは本拠地近隣の自治体の球場を間借りして育成のためのリーグ戦をこなすようになっていった。一部の球団は、観客から入場料を徴収することもあったが、それは決して利益を生み出すようなものではなかった。

阪神タイガースのファーム本拠変遷とNPBファームのリノベーションの歴史

 阪神タイガースが二軍の本拠を建設したのは、1979(昭和54)年のことであった。甲子園球場にもほど近い、その4年前に廃止された路面電車の車庫の跡地に浜田球場が建設されたが、集客を前提としたものではなく、1995年に現在の鳴尾浜球場に移転することになった。1980年代後半から1990年代前半にかけて、NPBではファーム施設の整備のうねりが起こり、読売ジャイアンツ球場(1986年)、ロッテ浦和球場(1989年)、広島東洋カープ由宇球場(1993年)、ファイターズ鎌ヶ谷スタジアム(1997年)などが開設された。

巨人二軍の本拠、ジャイアンツ球場
巨人二軍の本拠、ジャイアンツ球場

 1997(平成9)年には横浜ベイスターズが二軍の本拠を、新装なった横須賀スタジアムに移し、2000年からは湘南シーレックスとして二軍を独自運営するようになった。同年、オリックス・ブルーウェーブも二軍をサーパス神戸と改称し、本拠地も一軍本拠のサブグラウンドから神戸市郊外のあじさいスタジアム北神戸へ移転し、二軍を独自運営し、興行のコンテンツとするうねりが起こったかのように見えた。  

 しかし、この動きは、西武ライオンズが二軍のネーミングライツを売りに出し、2005年から3シーズンの間、スポンサー企業の名を名乗った以外には、それ以上広がることはなく、サーパスは2008年シーズン限り、シーレックスは2010年限りで親球団に統合されてしまった。

かつてオリックスが二言の独自運営を行った際は郊外のあじさいスタジアム北神戸を使用した。
かつてオリックスが二言の独自運営を行った際は郊外のあじさいスタジアム北神戸を使用した。

年々進むファームの興行化の波に乗った「真打」・阪神タイガース

 それでも、近年、二軍の人気が高まり、収容人数の小さな二軍の本拠地球場は札止めが珍しくなくなってきている。その象徴が、2016年に完成したソフトバンクホークスのファーム施設・ベースボールパーク筑後で、サブ球場に屋内練習場、選手寮に囲まれたメイン球場・タマホームスタジアム筑後の3000人超のスタンドは常に熱心なファンで埋まっている。同年にはオリックス・バファローズもファーム施設を旧本拠の神戸から大阪市内舞洲の新球場に移している。また、楽天イーグルスもこの年以降、二軍練習場を整備し、ウェルファムフーズ森林どりスタジアム泉として本拠地球場にふさわしいものとしている。

 現在、NPB球団の内、ファーム本拠地での公式戦で入場料を徴収しているのは、9球団。年々増加傾向にある。

いまだ旧態依然とした河川敷のグラウンドを使用している東京ヤクルトスワローズは、1977年完成のこの戸田球場に手を加え、徐々に観戦環境を整備、2015年からは本格的に興行化に踏み切った。

 また、1979年の球団移転から一軍が使用する本球場(現在のドーム)に隣接したサブ球場を二軍本拠とし、公式戦も無料開放していた埼玉西武ライオンズも、昨シーズンにこのサブ球場を改装し、ネーミングライツを募った上、カーミニークフィールドと名を改めた上で、今シーズンから二軍公式戦でのチケット販売に踏み切っている。

 そういう流れの中、阪神もようやく本拠地球場の移転により、ファームの本格的な興行化に舵を切るのだが、むしろ遅いくらいだ。

日本で一、二を争う人気球団だけあって、現在の鳴尾浜球場の試合では、500人収容のスタンドは常に満員になる(ただしここ2シーズンはコロナのため無観客試合)。他球団同様、一軍本拠でも二軍戦を数試合実施するが、これも1000人近い観客を集めている。ライバルの巨人は、ファーム本拠であるジャイアンツ球場の試合はすべて有料。その上、その人気を生かして地方への遠征も行っている。阪神もその人気をファームの興行化に生かすのは当然のことだろう。

 新球場は、親会社の電鉄線の支線の終点駅から徒歩20分もかかった鳴尾浜球場とは違い、本線の特急停車駅から大阪方面へひとつ戻った大物(だいもつ)駅から徒歩5分という絶好の立地にある。現在は草野球などで利用するスタンド付きの球場があるが、これを取り壊し、3600人収容のスタンドと甲子園球場と同方位同サイズのフィールドを備えたメイン球場とサブ球場に室内練習場を100億円かけて整備するという。メイン球場はナイター設備も備えるというから、タイガースの集客力を考えると、完成、移転後は、タイガース二軍のチケットもプラチナ化するかもしれない。

ファームとは言え、プロ野球。集客のコンテンツになることが望まれる。
ファームとは言え、プロ野球。集客のコンテンツになることが望まれる。

 ファームとは言えプロ野球。将来のスターを夢見る若トラたちの戦いぶりを間近に見ながら、ビール片手に夕涼みという風景が4年後には見られることだろう。

(文中の写真は筆者撮影)

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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