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日本シリーズが神戸に戻ってくる?:コロナ禍の後ろ倒し日程での日本シリーズ開催球場について考える

阿佐智ベースボールライター
1996年オリックス対巨人の日本シリーズが行われたグリーンスタジアム神戸

 今年のプロ野球ペナントレースも佳境に入っている。セ・パともいまだに優勝争いの行方が見通せない一方、ポストシーズンの進出チームはある程度固まってきている。

 オリンピックにより例年より日程が後ろに延びたレギュラーシーズンだが、当初の予定では、終了は10月第3週となっていた。しかし、コロナ禍や雨天による試合中止・延期により試合の消化が困難となり、7月初めにNPBの実行委員会で日程の後ろ倒しが決定された。これにより、両リーグのクライマックスシリーズの開幕は11月6日、同ファイナルシリーズの最終戦は11月15日(16、17日に予備日設定)となり、「日本一」を争う日本シリーズは11月20日開幕、28日に最終戦というスケジュールが決まった。

 しかし、シーズン途中でのこの変更に世の中が全て合わせてくれるわけではない。12球団が使用している本拠地球場も、ビジネスとしてスタジアム運営を行っている。プロ野球のシーズンが終われば、他に借主を探して、イベントを開催するのが当たり前と言えば当たり前だ。日本シリーズが後ろ倒しされた日程にすでに別イベントが予定されていることもある。昨年の日本シリーズも、セ・リーグを制した巨人は、本拠東京ドームがすでに社会人野球・都市対抗大会に押さえられていたため、「敵方」のお膝元と言っていい大阪の京セラドームでホームゲームを開催する羽目になった。

ロッテあるいは楽天対巨人だと東京ドームがメインになる可能性

ホテルも備えるなど、ビッグゲームには適した環境にある東京ドーム
ホテルも備えるなど、ビッグゲームには適した環境にある東京ドーム

 実は、今年も日本シリーズの時期に同じく都市対抗がスケジューリングされているのだが、セ・リーグのホームゲーム日程(11月23~25日)の直後の28日に開幕とあって、巨人が進出の際はなんとか使用できそうだ。ただし、日本シリーズは雨天などで中止となると、試合日程はそのままスライドする。つまり第1、2戦を行うパ・リーグ側の球場での試合が2日流れてしまうと、東京ドームでの巨人のホームゲーム開催に不都合が生じることになる。パ・リーグの2位につけている千葉ロッテのZOZOマリンスタジアムはご存知のとおり屋根なし球場だが、この球場は強風でも有名である。それに11月後半という時期を考えると、極寒の中での開催になる可能性が高いこの球場は回避され、ロッテが進出の場合、東京ドームでの開催が検討されるのではないだろうか。少なくとも第1、2戦をドーム開催とすると、第5戦までの日程変更リスクは限りなくゼロに近づけることができる。

 東京ドームのホームページを見てみると、日本シリーズ開幕の11月20日から都市対抗開幕前日の27日までは現在のところイベントは入っていない。ロッテ対巨人のシリーズとなった場合、球場の設営なども考え、第4戦までは東京ドーム開催とし、寒さ対策も考慮し、第6、7戦はマリンスタジアムでデーゲーム開催ということになるかもしれない。

 ちなみにロッテは、東京ドームでの主催試合開催の経験があり、かつ、1950年から62年まで東京ドームの前身である後楽園球場、62年から72年までは「自前」の東京スタジアムを本拠にしている。そして、大毎オリオンズ時代の1960年と仙台を仮の本拠としていた「ジプシーロッテ」時代の1974年には後楽園をホームとして日本シリーズを戦っており、また1970年の巨人とのシリーズでは後楽園と東京スタジアムという、すべての試合を都内で行う史上初めてのシリーズを実現させている。

 楽天が進出の場合も状況はよく似ている。本拠である屋外球場の楽天生命パークは言わずと知れた仙台にある。11月末の東北での野球の試合開催は、選手・ファン共にとって決して望ましいものではないだろう。デーゲームでの開催という手段もあるが、雨天中止の際のスケジュール変更のリスクは残る。そう考えると、ロッテ進出の際と同じく、第1~5戦までの東京ドーム開催と第6、7戦の仙台でのデーゲームというのが現実路線ではなかろうか。楽天もロッテ同様、東京ドームでの主催ゲーム開催経験はある。

初春、晩秋の仙台でのナイター観戦には防寒は欠かせない
初春、晩秋の仙台でのナイター観戦には防寒は欠かせない

 仙台と言えば、先述のロッテの準本拠地時代の苦い思い出があるのだが、この私案どおりになった場合はなんとしてでも第6、7戦までもつれる白熱したシリーズになってほしいものだ。

神宮球場での学生野球との併用のノウハウをもつヤクルトだが…

学生野球の聖地でもあるヤクルトの本拠、神宮球場
学生野球の聖地でもあるヤクルトの本拠、神宮球場写真:山田真市/アフロ

 セ・リーグの日本シリーズ進出球団は、上位3球団に絞られている。中でもシーズン終盤にきて調子を上げてきた現在首位を突き進むヤクルトは大本命と言っていい。この球団の本拠地は言わずと知れた神宮球場、「学生野球のメッカ」だ。それだけに少々問題が生じる。ここでは、高校・大学による明治神宮大会が11月20日から25日まで開催されるのだ。23日から25日までが日本シリーズのセ・リーグホームゲームと重なる。

 1978年の日本シリーズ初出場の際は、「家主」である大学野球との兼ね合いから本拠地を使えず、近隣の後楽園球場を使用したヤクルトだったが、2度目の出場となった1992年以降は神宮でホームゲームを戦っている。1995年以降、日本シリーズが全試合ナイター実施となったため、大学野球のデーゲーム2試合との「トリプルヘッダー」が可能となったのだ。今回もそうしたいところだが、神宮大会のスケジュールを見るとそうもいかないようである。

 昨年はコロナ禍で中止となったので、直近の開催となった2019年のスケジュールを見ると、6日にわたる大会の最終3日間のうち、最終2日間は1日2試合開催で日本シリーズのナイター開催には支障はない。しかし、その前日の23日は高校・大学がそれぞれ2試合、計4試合行われる。第1試合の開始は朝8時半、最終試合の開始は午後4時となっているから、夜にプロ野球のビッグイベントを開催するのは現実的ではないだろう。となれば、やはり少なくともこの日は近隣の東京ドームを使用せざるを得ないだろう。東京ドームに関しては、まだまだ優勝も狙える巨人もスケジュールを押さえているだろうから、11月下旬という時期を考えると、空調の効くこの球場でヤクルトも3戦ともホームゲームを開催することが考えられる。ちなみにヤクルトもまた今年、東京オリンピックとの兼ね合いで神宮球場を使用できない間、東京ドームで主催試合を6試合開催している。

 前述のように、ヤクルトは学生野球に神宮球場を譲るかたちで1978年、初の日本一となった日本シリーズのホームゲームをすべて東京ドームの前身である後楽園球場で開催しているが、さらに時代をさかのぼれば、1962年の日本シリーズでは神宮球場を本拠としていたパ・リーグ優勝チームの東映フライヤーズが、やはり学生野球との兼ね合いからホームゲーム3試合のうち1試合を「準本拠」としてシーズン中も使用していた後楽園球場で開催している。

「オリックス日本一」が神戸で再現!?

 「自前」の球場をもつ阪神、ソフトバンク、オリックスのうち、阪神、ソフトバンクは今のところ球場問題は発生していないようだ。その昔のダイエー時代、「どうせ出れるわけがない」とばかりに日本シリーズ中に学術会議の予約を入れてしまい、日程の変更を余儀なくされたというのは昔の話。今や日本シリーズ進出が当たり前となったホークスは当然スケジュールを確保しているだろう。

今や日本シリーズ常連球場となった福岡・Pay Payドーム
今や日本シリーズ常連球場となった福岡・Pay Payドーム

 問題は、京セラドーム大阪を本拠とするオリックスだ。

 昨年は、巨人が東京ドームを確保できなかったことから、チームは最下位ながら本拠地球場で「家主」としてシリーズを開催した京セラドームだが、11月26日からシリーズ第7戦の行われる28日まで人気バンドのライブコンサートがすでに入っているのだ。京セラドームの運営会社はオリックスグループの子会社だが、さすがに日本シリーズを理由にコンサートの日程を変更するわけにはいかない。ではどうするのかと言うと、ブルーウェーブ時代の本拠で現在も準本拠的な扱いで年間数試合の公式戦が組まれているほっともっとフィールド神戸で最終の2試合を実施する方向のようだ。この市営球場は現在オリックス球団に指定管理を委ねており、スケジュールの調整もスムーズにいったようである。屋外球場という点では、仙台、千葉と同様の雨天延期のリスクはあるが、第7、8戦のみの開催でセ・リーグのホームゲームが東京ドーム開催となればそのリスクはかなり低減できる。

オリックスの本拠、京セラドームは阪神にとっても事実上の準本拠となっている
オリックスの本拠、京セラドームは阪神にとっても事実上の準本拠となっている

 実のところ、NPBの選手との契約では選手の稼働期間は11月末までとなっており、今年のシリーズの日程の余裕は2日しかない。セ・リーグの進出チームが阪神となり、甲子園で第3戦から5戦までが行われると雨天延期のリスクはどうしても高くなる。そう考えると、阪神も京セラドームを使用する可能性はなくもないだろう。晩秋の寒さも考慮に入れて、かつてデーゲーム開催が当たり前だった日本シリーズがナイター開催になったのは、テレビ中継を意識してのこと。当時の試合前の球場周辺の様子を映したテレビ映像では、開場を待つファンの多くは顔を隠していたものだ。皆、職場や学校には適当な理由をつけて休んでいたのだ。そういうことも考えると、セ・リーグのホームゲームとなる平日の3日間をデーゲームにすることは難しいだろう。関西とは言え、秋の夜の甲子園での観戦も寒さは身に染みる。

 いずれにせよ、今年の日本シリーズは、ロッテ、楽天、阪神、ヤクルトが進出の場合、本拠地球場ではないドーム球場を使用する確率は高いと思われる(さすがに阪神が東京ドームを使用することはないだろうが)。

 ちなみに神戸で日本シリーズが開催となれば、前回のオリックス優勝時である1996年以来四半世紀ぶりのことになる。ブルーウェーブが去ってしまった神戸のファンにとっては思ってもみないビッグプレゼントとなる。あの年はリーグ優勝、そして日本一とも当時のグリーンスタジアム神戸で決まった。日本一はナイターだったが、リーグ優勝は秋特有の長い影がフィールドを覆うデーゲームでのことだった。あのイチローのサヨナラツーベースでの胴上げ決定だったのだが、今年のシリーズで、奇跡的にケガからの回復を果たした吉田正尚があのシーンを再現してくれれば、これ以上の盛り上がりはないのではないか、そんなことをふと考えてしまう。その時には是非とも「Blue Wave」の文字の入ったユニフォームでオリックスナインには戦ってほしいのだが、NPBにもそれくらいの粋な演出を許して欲しい。

オリックスが進出の場合、日本シリーズ第6、7戦が行われるほっともっとフィールド神戸
オリックスが進出の場合、日本シリーズ第6、7戦が行われるほっともっとフィールド神戸写真:アフロ

 そんなことを考えながら、ペナントレースの行く末、それに続くクライマックスシリーズを楽しむのもいいのではないだろうか。

(キャプションのない写真は全て筆者撮影)

ベースボールライター

これまで、190か国を訪ね歩き、22か国でプロ、あるいはプロに準ずるリーグの野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当、WBC2017年大会ぴあのガイドの各国紹介を担当した。国内野球についても、プロから独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。

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