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東京オリンピック野球決勝戦を前に日本でのプレー経験をもつオリンピアン・ベースボーラーたちを振り返る

阿佐智ベースボールジャーナリスト
チームU.S.Aに名を連ねたDeNAのオースティン(写真:ロイター/アフロ)

 いよいよ今夜東京オリンピック野球競技の決勝戦が行われる。日本代表がオリンピックの決勝の舞台に立つのは1996年のアトランタオリンピック以来25年ぶり。金メダルとなれば、公開競技時代の1984年ロサンゼルス大会以来37年ぶりの快挙となる。決勝も優勝も、プロが本格的に参加するようになってからは初めてのことであり、日本野球界にとって金メダルはまさに悲願と言える。

 今大会の参加国は6カ国。主要国際大会にプロの参加が認められるようになったとは言え、現状ではMLBが主催するWBC以外の大会では世界最高峰のリーグであるメジャーリーグでプレーする選手の参加はない。各国ともメンバーの人選には苦労したようだ。メジャーリーガーの参加のない中、「世界最高峰」の名に恥じないレベルのプレーを見せるとなれば、「世界第2のパワーハウス」である日本トッププロリーグであるNPBの存在感がグッとましてくることになる。

 今回の東京オリンピックでも太平洋を渡ってきた南北アメリカの3チームに日本野球経験者が名を連ね、主力として活躍していた。その人数は実に13人。アメリカが5人、メキシコ4人、そしてドミニカが4人という内訳だった。これに2014年から2シーズン阪神に在籍しNPB80セーブを記録した韓国のクローザー、オ・スンファンを加えると14人のオリンピアン野球選手が日本でのプレー経験をもっていることになる。

悔しい結果に終わったメキシコ

昨年のカリビアンシリーズに出場したメネセス(左)とペーニャ(右) (筆者撮影)
昨年のカリビアンシリーズに出場したメネセス(左)とペーニャ(右) (筆者撮影)

 まずは、メキシコからみてみよう。国内リーグであるメキシカンリーグ中心の布陣で、同じく「国内組」でロースターを固めた日本、韓国とのトップリーグのレベルの差をみるいい機会となったが、結果は最下位。「現役復帰組」のユダヤ系アメリカ人で固められたイスラエルに敗者復活戦で敗れ、早々に敗退となった。投手陣の層の薄さが露見した印象だった。

 その中で打線の中心となったのは、2019年にオリックスにいたジョーイ・メネセスだ。2018年のオフに他球団も興味を示していた中、メジャー未経験の有望株を引き抜いたと話題になり、来日後に行われた侍ジャパンのテストマッチでは、メキシコの4番として大暴れ。同じく侍ジャパンの4番を打った吉田正尚とともにオリックス打線の中心となるに違いないと恐れられたものの、シーズン開幕後はなかなかエンジンがかからず、シーズン序盤にドーピング検査に引っ掛かり、あえなく退団となってしまった。しかし、その後打撃は復調し、現在は、レッドソックス傘下の2A・ポータケットに在籍。49試合で3割をマークし、10ホーマー、43打点とまさに主軸として活躍している。またウィンターリーグでも母国の強豪、トマテロス・デ・クリアカンでプレーし、毎年のようにカリビアンシリーズに出場している。今大会でも、初戦の侍ジャパン戦でホームランを含む4打数3安打3打点と「ジャパンキラー」ぶりは健在。最終戦となったノックアウトステージ1回戦の対イスラエル戦でも敗戦の中、4打数2安打1打点と気を吐き、大会通算12打数6安打と好成績を残した。悔やまれるのは、オープニングラウンド第2戦のドミニカ戦で1本しかヒットが出なかったことだ。0対1で惜しくも敗れたこの試合の8回2アウトランナー3塁の場面で1本出ていれば、最下位という悔しい結果にはならなかっただろう。

 メキシコは、意外なことに今大会がオリンピック初出場だったのだが、その立役者が2018年から19年に阪神でプレーしていたエフレン・ナバーロだ。阪神でのプレーを終えた後、プレミア12の代表メンバーに選ばれた彼は、オリンピック出場権をかけてアメリカと戦った3位決定戦でバットを折りながらもセンター前に落ちるサヨナラヒットを放った。

2019年のプレミア12でサヨナラヒットを放ちオリンピック行きを決めたナバーロ(写真提供WBSC)
2019年のプレミア12でサヨナラヒットを放ちオリンピック行きを決めたナバーロ(写真提供WBSC)

 アメリカ生まれで来日前は6シーズンのメジャーでのキャリアをもっていたナバーロだったが、阪神退団後はメキシコに活動の中心を移し、ウィンターリーグではメネセスと同じクリアカンの主力としてカリビアンシリーズにも出場している。今シーズンは、トロス・デ・ティファナで44試合に出場、ホームラン1本、24打点ながら.345の高打率を残している。今大会はファーストを守り、随所で好プレーを見せたものの、打つ方では初戦の侍ジャパン戦は4打数ノーヒット。通算でも11打数1安打という悔しい結果に終わった。

 ナバーロ同様、侍ジャパン戦でセカンドを守り、好プレーを見せていたのが、2017年に広島でプレーしていたラミロ・ペーニャだ。彼もまたメジャー経験をもっていて、ジャイアンツでプレーした2015年のオフに行われた侍ジャパンのテストマッチで来日し、のちに同僚となる野村祐輔投手からホームランを放っている。現在は、メキシコの名門チーム、スルタネス・デ・モンテレイに在籍。45試合に出場して7本塁打26打点の打率.321と好成績をひっさげて東京に乗り込んできたが、今大会では打撃が振るわず、最終戦はベンチスタート。代打で登場したが、ここでも1本が出ず。打率ゼロに終わってしまった。

 そしてもうひとり。メジャー経験も代表経験もある右腕、セサル・バルガスは、今シーズン日本の独立リーグをプレー先に選んでいた。コロナ禍の中、シーズン途中の来日となったが、ルートインBCリーグの茨城アストロプラネッツで10試合に登板。5勝2敗1セーブ 1.64という圧倒的な数字を残して、オリンピックを前にメキシカンーグに戻り、ペーニャと同じモンテレイに入団している。メキシコに戻ると早速2試合に先発し、「本番」に備えていた。オリンピックでも好調で、侍ジャパン戦では4番手として1回を無失点に抑えた。最終のイスラエル戦では、最後のマウンドを託され、打者1人を三振に取って悔しいオリンピックを締めている。彼のピッチングには日本の関係者も注目していたから、NPB球団に誘われての再度の来日もあるかもしれない。

大健闘、銅メダルに輝いたドミニカ共和国

銅メダルに輝いたドミニカ
銅メダルに輝いたドミニカ写真:ロイター/アフロ

 初戦の侍ジャパン戦で逆転サヨナラ負けを喫したものの、メジャーリーガー不在の中、「カリブの野球大国」の層の厚さを見せつけたのがドミニカだった。この国は、先発の柱が日本野球経験者で占められた。

侍ジャパンの初戦に立ちはだかったのが、巨人のC.C.メルセデスだった。彼はもともと広島がドミニカにもつアカデミーの選手だったのだが、選手契約を結べず、巨人が現地で行ったトライアウトを受験。ここで合格して「ジャパニーズ・ドリーム」を叶えた。開幕戦となった日本戦で先発し、6回1失点7奪三振と好投。侍ジャパンはこの試合、坂本のサヨナラヒットでかろうじて勝利するが、ここでつまずくようなことがあれば、その後の結果も変わっていたかもしれない。

 2度目の登板となったイスラエル相手の敗者復活戦では、先発しながらも5回もたず4失点を喫して2アウトで降板しているが、今日の試合では、5回の韓国の猛攻を受けて急遽リリーフのマウンドに立ち、一度は逆転打を許してしまったものの、その後もマウンドに立ち続け、9回1アウトまでの無失点で切り抜ける魂の投球でチームを勝利に導いた。

 ノックアウトステージ初戦の韓国戦に先発したのは、元中日のベテラン、ラウル・バルデスだ。彼は、実はキューバ生まれで2002年までキューバリーグでプレーしていたが、その後ドミニカに亡命し、ドミニカ国籍を取得した。その後、シカゴ・カブスと契約し、アメリカでプロデビューを飾った。しかし、順風満帆というわけにはいかず、独立リーグやメキシコ、ドミニカ、ベネズエラのウィンターリーグを転々とし、メジャーデビューを果たしたのは、2010年、32歳の時のことだった。

 結局、メジャーでは5シーズンで7勝と定着できず、来日を決意。2015年から3シーズン中日に在籍し、2ケタ勝利はなかったものの、先発投手としてローテーションを守った。中日退団後も現役は続行し、ここ数年は、夏はメキシカンリーグ、冬はドミニカでプレーしていた。41歳になる今年も、ドミニカウィンターリーグのトロス・デル・エステで5試合に先発し、2勝2敗防御率3.20の数字を残して、ナショナルチーム入りを果たした。

韓国との大一番に先発した元中日のバルデス
韓国との大一番に先発した元中日のバルデス写真:ロイター/アフロ

 韓国との1回目の対戦では6回1アウトまで1失点で切り抜けるという好投を演じ、今日の昼に行われた3位決定戦の先発マウンドにも立ったが、味方が初回に取ってくれた4点を守ることができず、5回に突如崩れ、1アウトも取れず5失点を喫してしまった。

 戦前の予想では、3位決定戦の先発マウンドを託されるのは、メルセデスの巨人での同僚、エンジェル・サンチェスだと言われていた。今年ここまでメルセデスを上回る5勝を挙げている元メジャーリーガーは、韓国リーグ2シーズンで25勝の実績ももっている。その実績どおり、今大会でも、ある意味絶対に落とせないオープンニングラウンド2戦目のメキシコ戦に先発。5回無失点で勝利投手となっている。

メキシコ戦で勝利投手となったサンチェス
メキシコ戦で勝利投手となったサンチェス写真:ロイター/アフロ

 そして打線の核となる4番を任されていたのが、2015年に巨人でプレーしたフアン(巨人時代は「ホアン」と表記)・フランシスコだ。6シーズンのメジャーキャリアをもち、移籍前年にはブルージェイズで16本塁打を放つなど、開幕後の緊急補強で期待されての入団だったが、腰痛などもあり、巨人ではたった5試合の出場に終わった。

 巨人退団後はメキシカンリーグでプレーした年もあったが、もっぱらウィンターリーグでプレー。この冬は、巨人と同じ「ジャイアンツ(スペイン語読みはヒガンテス)」で7ホーマーを放ち、オリンピック予選からナショナルチームの主砲を任されていた。

 本大会でも、ミゲル・カブレラ、ホセ・バティスタといった往年のメジャーのスターたちがロースターに名を連ねる中、4番を任され(1試合のみ5番)、ノックアウトステージ第1回戦の韓国戦では4回に一度は試合をひっくり返した2ランホームランを放っている。

 今日の3位決定戦までの5試合で19打数3安打の.158と不振だったが、銅メダルのかかったこの試合でも4番で起用。初回に3番ロドリゲスの先制ホームランに続けて2者連続となる2号ホームランを放ってチームを勢いづけた。そして土壇場の8回1アウト満塁の場面では、銅メダルに向けて韓国が送り出したクローザー、オ・スンファンから逆転打を放った。

土壇場で逆転打を放った元巨人のフランシスコ
土壇場で逆転打を放った元巨人のフランシスコ写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

金メダルへの強敵、アメリカ

 今夜の決勝は「日米決戦」となった。まだWBCでは決勝をこのカードで争ったことはないので、太平洋を挟んだ両国初の頂上決戦となる。とは言え、アメリカはメジャーリーガー抜きの布陣。NPBの精鋭を集めた侍ジャパンにとっては負けられない試合となる。それでもタイブレークの末、サヨナラ勝ちした準々決勝をみてもわかるように野球大国アメリカの層は分厚い。

 決勝戦のカギは、現在NPBで主力として活躍する投打の2人の選手を攻略できるかどうかだろう。

 打線の中心は、本大会ここまで4試合で打率.412、2ホーマー、5打点と当たりに当たっているDeNAのタイラー・オースティンだ。NPBでも今シーズン68試合で.314、19ホーマー、49打点とメジャー4シーズンのキャリアを日本でも存分に見せつけている。今日の試合でも、アメリカらしく「最強」打順の2番に座ってくると思われるが、侍投手陣が彼をいかに抑えるかが、メダルの色を決めると言っても過言ではない。

 先発は、ソフトバンクのニック・マルチネスと発表されている。メジャー4シーズンで17勝の右腕は、日本ハム時代の過去2シーズンも計12勝18敗といまひとつパッとしない成績だったが、ソフトバンクに移籍した今シーズンは、11試合に先発し。7勝2敗、防御率2.03と今やチームの大黒柱的存在となっている。

 ブルペンには、ヤクルトで今シーズンすでに16セーブを挙げているスコット・マグガフ、メキシカンリーグのサラペロス・デ・サルティージョでは抑え役を任され18試合に登板、8セーブを挙げている元日本ハムのアンソニー・カーター、昨年まで8シーズンオリックスで活躍していたブランドン・ディクソンらのリリーフ陣が控えている。ディクソンは今シーズンもオリックスでプレーする予定であったが、コロナ渦で家族を伴っての来日が不可能という事情から古巣のカージナルスとマイナー契約を結んでいる。日本の打者については熟知しているだけに、準決勝同様、登板してくることは間違いないだろう。彼の得意球、ナックルカーブをどう攻略するかが、中盤の見どころとなる。

一昨年のプレミア12では守護神を任せられたディクソン(写真提供WBSC)
一昨年のプレミア12では守護神を任せられたディクソン(写真提供WBSC)

 東京オリンピック野球競技決勝戦は、今日午後7時から横浜スタジアムで行われる。 

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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