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野村克也氏逝去から1年余り。故郷・京丹後で特別展開催中

阿佐智ベースボールジャーナリスト
京都府京丹後市のアミティ網野にある「野村克也ベースボールギャラリー」

 セ・リーグの開幕カード、ヤクルト対阪神の第3戦は、昨年死去した故・野村克也氏の追悼試合として実施された。氏が監督を務めた両チームのメンバー全員がヤクルト監督時代の氏の背番号73を背負うという異例の試合となった。これに先んじて2月には、氏が選手時代の大半を過ごした南海ホークス時代の「愛弟子」・江本孟紀氏が発起人となって行ったクラウドファンディングによって、かつての南海の本拠、大阪球場跡地に建つ商業施設・「なんばパークス内」の展示施設「南海ホークスメモリアルギャラリー」内の野村氏に関する展示スペースの整備が完成するなど、昨年2月の逝去以来、コロナ禍で実施できなかった野村氏を偲ぶイベントが今年は多く実施されることになりそうだ。

丹後半島では至る所で糸井選手を応援する張り紙を見かける
丹後半島では至る所で糸井選手を応援する張り紙を見かける

 ところ変わって京都・丹後半島。「京都」と言っても、「京」のある旧山城国ではなく、日本海側の片田舎だ。現在では「海の京都」などとも呼ばれているが、他の地方都市同様、人口減になやまされている。野球の世界ではあまりなじみのない地名だが、半島の東のつけ根にある与謝野町からは糸井嘉男(阪神)が出ている。

網野駅近くの立て看板。野村を生んだ網野は、源義経の愛妾、静御前の出生地でもある
網野駅近くの立て看板。野村を生んだ網野は、源義経の愛妾、静御前の出生地でもある

 そして、反対側・西のつけ根に位置するのが京丹後市。野村氏はこの町の合併以前の旧網野町出身である。この網野にある、物産販売施設・「アミティ丹後」には、生前野村氏から寄付された多数のトロフィーなどの記念品を展示する一室・「野村克也ベースボールギャラリー」がある。

京丹後の物産を販売する「アミティ網野」は、かつて野村が通った網野小学校の跡地に建っている
京丹後の物産を販売する「アミティ網野」は、かつて野村が通った網野小学校の跡地に建っている

 ここは、野村氏が京丹後市に寄贈したさまざまなゆかりの品を一般に公開するため2018年3月にオープンした施設だ。オープンの記念式典には野村氏も出席し、スピーチを行っている。その時のときおり自虐トークを織り交ぜつつの独特のぼやき節の映像はこの施設で観ることができる。オープンから3年、そして野村氏の逝去から1年経った今(3月27日~5月9日)、特別展が行われている。これまでの南海時代中心の展示に、ヤクルト、阪神、楽天監督時代の実使用ユニフォーム、峰山高校時代の作文原稿、それに2月のなんばパークスのリニューアルの際に作成された南海時代の復刻ユニフォームが加わってのこちらもリニューアル展示である。特別展のオープニング記念式典には、江本孟紀氏も出席している。

ギャラリー内の展示
ギャラリー内の展示

 展示の中でもひときわ目を引くのが、高校時代の作文だ。原稿の実物に加え、文面を拡大したパネル。その文面を活字に起こしたものが展示されているが、高校生のものとは思えないその達筆ぶりに驚かされる。早熟ともいえる文面からは、のちのID野球にも連なる野村氏の明晰な頭脳の片鱗がうかがえる。

 平日の午後ではあったが、古くからの野球ファンと思しき年配者が少なからず来訪していた。

 また、ギャラリー前の販売スペースでは、地場物産にならんで、野村氏の関連グッズも販売されていた。野村氏は生前、「金を残すは三流、名を残すは二流、人を残すは一流」という名言を残したが、自身は過疎化に悩む故郷に「観光」という産業を残している。

野村の存在は、死後もなお、故郷の振興に貢献している
野村の存在は、死後もなお、故郷の振興に貢献している

 近年ようやく日本球界でも、球団史を掘り起こし、過去の名選手を讃える風潮が出てきたが、野球の本場、アメリカでは球団の歴史を重んじる風は強い。複数の球団で永久欠番を与えられているレジェンドもいるし、メジャー、マイナー問わず、多くの球場には「ホール・オブ・フェイム(殿堂)」もしくは「ミュージアム」があり、過去の名選手がたたえられている。もうずいぶん前に、オリオールズの本拠、ボルチモアを訪問した際には、球場から数ブロック離れたところにベーブ・ルースの生家が残っており、やはり「ミュージアム」として公開されていた。この「ミュージアム」は現在もあり、毎年多くの観光客を集めている。

 日本でも、選手個々が「ミュージアム」を設立し、自身が手にしたトロフィーなどをファンに公開することがあるが、その選手が引退してしまうと訪れる人も少なくなり、閉館してしまうところも少なくない。日本球界にアメリカにおけるベーブ・ルースと同等の功績を残した野村氏を偲ぶ施設が恒久的に残ることを願う。

 先日の追悼試合でヤクルトと対戦した阪神球団も本拠地・甲子園で独自の追悼試合を検討しているという。野村氏の「古巣」ホークスを継承したソフトバンク球団も、昨年は追悼試合を予定していたが、今年は実施のアナウンスはいまだなされていない。野村氏は南海の後、ロッテ、西武で現役生活を送り、指導者として兼任監督時代の南海の他、ヤクルト、阪神、楽天でチームを率いている。12球団中実に半数の6球団とゆかりがあるのだ。不世出の名捕手であり、名伯楽であった野村氏にゆかりのある各球団の今後の動きはどうなのだろう。気になるところである。

丹後地域地場産業振興センター(アミティ丹後)・野村克也ベースボールギャラリー

年中無休(除年末年始) 開館時間 9時から17時 京都タンゴ鉄道網野駅下車徒歩30分もしくは丹海バス「網野」下車すぐ

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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