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開催決行か、中止か。決断を迫られる「センバツ」

阿佐智ベースボールジャーナリスト
「センバツ」の会場、甲子園球場(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

 9日、プロ野球NPBとサッカーJリーグは共同で立ち上げた「新型コロナウイルス対策連絡会議」の提言を受け、当面の公式戦延期を決定した。NPBはそれぞれ今月13、20日に予定していた二軍と一軍の開幕を延期、すでに開幕していたJリーグは公式戦の中断を来月3日まで延ばすことを発表した。時差はあるが、同日、日本以上に新型コロナウイルス感染の広がりを見せているイタリアでは、プロサッカー・セリエAだけでなくすべてのスポーツ大会の中断が首相より発表された。

 その一方で、10日、宝塚歌劇団が興行を再開して物議を醸している。プロスポーツにしてもショービジネスにしても、興行を行わねば事業が成り立たないのだが、私個人的には、止むことのないウイルス感染拡大の中、やはり慎重すぎるほど慎重であるべきではないだろうかと思う。そもそもこのような事業の根幹にかかわるような決断を政府が各団体、事業者に「丸投げ」していることが問題なのであろうが、これに関しては、ここで私が触れるべき問題ではないだろう。

 それにしても高校野球である。先述の9日の「新型コロナウイルス対策連絡会議」第2回会合にオブザーバーとして出席し、ここで感染症の専門家から開催に否定的な見解がなされながらも、19日開幕予定の第92回選抜高校野球大会の開催について、「独自に判断する」とし、今月4日に日本高校野球連盟(高野連)運営委員会で取り決めた、開催中止にも含みを持たせた無観客での開催の姿勢を崩すことはなかった。この姿勢には正直、ならばどうしてプロリーグによる「新型コロナウイルス対策連絡会議」に参加したのだろうか、プロ側の「強行」を期待し、予定通りの開催を目論んだのかという邪推さえしてしまう。高野連のこの姿勢に、休校要請を受けて活動を休止していた出場校がちらほら練習を再開している。開幕まで10日を切った今、当然のことだろう。選手だけなく、出場校の関係者も準備を着々と進めていることは容易に想像できる。学校挙げての大応援団は派遣できずとも、各校とも甲子園出場となれば、年度末の多忙な時期ながらもやることは山ほどあるだろう。時が経てば経つほど、大きな決断、つまり開催中止はしづらくなる。

 

 「金の生る木」である「甲子園」を高野連が止められないという言説も一部で出ているが、それは当たらないだろう。そもそも「甲子園」は営利事業ではない。高校野球甲子園大会のビジネス面については、巷間、経済効果の数字なども出ているが、門外漢の私があれこれ言うことではないので、これについてもここでは控える。ただ、昨今の高校野球ブームの中、「甲子園」が「金の生る木」であることは確かなようだ。プロ野球と違い、人件費(選手報酬)はなしという興行なのだからある意味当然だ。おまけに器である甲子園球場の使用料もかからないという。その分、テレビ中継の放送権料も取らず、まさにアマチュアリズムを貫いているのだが、このような運営の根元には、「教育の一環」という高校野球に通底する理念があるはずだ。

 しかし、その「教育」という側面から見ても、やはり開催強行には首を傾げざるを得ない。察するに、球児のことを考えれば中止などとてもではないができないというのが、当事者の思いだろう。青春のすべてを野球にかけた球児たちの想いを考えれば、当事者が何とか開催したいという気持ちは理解できる。しかし、この春の全国大会については、他のほとんどのクラブ活動についても中止となっている。忘れてはならないのは、そもそも政府の要請を受けて、現在、日本のほとんどと言っていい学校が、本来の教育活動を一旦停止して、休業状態に入っていることだ。学生の本分である学業を行う機会である授業を実施することができない状況で、本来的に余暇活動である「部活」を行うことの整合性を高野連はどう説明するのだろうか。

 また、政府からの「要請」に対し、出場校の中にも、これに従い野球部の活動を停止した学校と練習を続けている学校があることの矛盾も大きな問題だろう。今回出場するのは、新2,3年、つまりは現状では1年生と2年生だ。この時期の少年たちにとって、練習は「調整」などではない、それこそ日進月歩の彼らにとって、この時期に練習をするしないは、「本番」でのパフォーマンスに大きな影響を及ぼす。今や全国民、いや全世界がウイルス蔓延を防ぐべく様々な不自由を強いられている中、それをよそに練習を続けてきた学校が、練習を「自粛」した学校を打ち破ることにファンは素直に拍手を送ることができるだろうか。このようなある意味アンフェアな状態で手にした優勝旗を果たして球児たちは喜んで手にできるだろうか。

 そもそも、無観客で選手・関係者だけと言っても、いざ開催となると、相当な人数が阪神間に集まることになる。ちなみに大阪府と兵庫県では、10日昼現在で計55人の感染者を出している。とくに甲子園への電車のターミナルのある大阪市では、ライブハウスがクラスターとなってしまった。ある意味「危険地帯」と言っていい。今回の新型コロナウイルスについては、楽観論もあるが、一部では「パンデミック」もささやかれていることを考えると、やはり今は、なによりも感染の広がりを抑えることに皆が一丸となるべきではないだろうか。

 無論、大会がなくなれば、球児たちを受け入れている宿泊業者は大きな打撃を受ける。しかし、それは現在の日本のあらゆるサービス業で起こっている現象であり、春の甲子園の開催を正当化するものではない。

 時期を逸したかにも見える高野連の動きであるが、今回の新型コロナウイルスの潜伏期間がおおよそ2週間ということを考えると、19日までに状況が改善することはない。世の中の優先順位を考えると、ここは大きな決断を下すべきではないかと思うのだが、どうだろうか。

 高野連の臨時運営委員会は、今日11日に開かれる。

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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