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カリビアンシリーズ2020。ドミニカの優勝で幕を閉じる

阿佐智ベースボールジャーナリスト
歓喜にわくドミニカ代表トロスナイン

 中南米カリブ地域ウィンターリーグの国際シリーズ、カリビアンシリーズの決勝が現地時間7日に行われた。昨年からの6か国体制は維持され、ビザの関係から参加を見送ったキューバに替わりコロンビアが初出場。開催国プエルトリコ(米国自治領)に、ドミニカ共和国、ベネズエラ、メキシコという強豪に昨年大会に復帰したパナマを加え、1日からの総当たり戦、ラウンドロビンで勝ち残った上位4か国が準決勝に進み、優勝候補と目されたメキシコを破ったベネズエラと地元プエルトリコに逆転勝ちしたドミニカが決勝に駒を進めた。

番狂わせの準決勝

ホームが遠かったメキシコ
ホームが遠かったメキシコ

 ラウンドロビンは、上位3か国が4勝1敗で並んだが、相互の対戦成績などで順位を決めた。6日の準決勝は、ラウンドロビン2位のメキシコと3位のベネズエラがデーゲームで、1位のドミニカと4位のプエルトリコがナイターでの対戦となった。フリーエージェントを除くメジャーリーガーの参加がない今大会においては、実力は拮抗していると言ってよい。あえて言えば、参加者のほとんどがメジャーリーグ球団との契約のない者や独立リーガーで占められる中、3Aに位置付けられるメキシカンリーグの現役選手を多数擁し、今大会のベストナインに半数の5人を送り出したメキシコが実力的に頭ひとつ分抜き出ている。

 第一試合のメキシコ対ベネズエラは、下馬評では、今や「ラテンアメリカのメジャー」とでも言っていいメキシコが優位だった。なにしろベネズエラは国情不安からMLB機構が傘下のメジャーリーガー、マイナーリーガーの参加を禁止、国内リーグは、フリーエージェントと独立リーガー、それにごく少数のメキシコでプレーしている選手でようやくまかなっている状況で、今大会のメンバーもメキシコに比べどうしても見劣りがする。しかしふたを開けてみると、9安打を放ち、再三にわたってチャンスを作っていたメキシコはあと1本が出ず、1点も挙げることができなかったのに対し、2安打のベネズエラは3回に四球と二塁打でワンチャンスをものにし、逃げ切った。

 ナイターの第二試合は、先日に続いてのプエルトリコ・ドミニカ戦。前日のように札止めにはならなかったが、試合前に収容1万9000人に対して1万5000枚のチケットがすでにさばかれていた。翌日の決勝に備えて地元プエルトリカンはテレビ観戦を決めたようで、この日は空席がちらほらあったが、試合は前日以上にエキサイトしたものになった。

 クロスプレーを巡って三度もビデオ判定が行われたこの試合、6回裏にここまで1対3のビハインドだったドミニカが1点を返し、なおも1アウト三塁の場面でのライトフライにランナーがスタートを切った。タイミングはアウトだったが、ランナーは激高。ドミニカ監督、リノ・リベラは迷わずビデオ判定を申し出た。カメラマン席でも観客、選手を巻き込んで侃々諤々の論議が繰り広げられたが、一枚の写真には空タッチが映し出されていた。しかし、判定は変わらずアウト。これに納得のいかないドミニカ側からプラスチックコップが投げられるとその選手に退場が宣告された。

土壇場の8回裏。逆転の口火を切る大二塁打を放ったオブライエン
土壇場の8回裏。逆転の口火を切る大二塁打を放ったオブライエン

 試合はそのまま8回まで進み、1点差でプエルトリコが逃げ切るかと思われた。スタンドの大半を占めるプエルトリコファンのボルテージは高まるばかりだったが、それは最後の最後に悲鳴に変わった。8回裏、ドミニカは先頭打者のヒットのあと、昨年はマーリンズでプレーしていたアメリカ人、5番バッター、ピーター・オブライエンがセンターオーバーの二塁打を放ち、チャンスをつかむ。ここでプエルトリコは痛恨のバッテリーミスで追いつかれると、犠牲フライでドミニカに勝ち越しを許し万事休す。スタンドを埋めた地元ファンの夢はここで潰えた。

ドミニカ代表、トロス・デル・エステ、初のカリブ王者に

 ナイトゲームで行われた決勝は、地元プエルトリコが敗退したこともあり、4割ほどの入りとなったが、冬の王者決定の瞬間を目に焼き付けようと、ドミニカ、ベネズエラ両国人に加えて、各国の熱心な野球ファンがヒラム・ビソン・スタジアムに集まった。試合前にはセレモニーと花火が打ち上げられ決勝戦に花を添えた。

 3回にタイムリーで先制したドミニカは、続く4回にも先頭打者の四球の後、前日の勝利の立役者、オブライエンがライト前にはじき返し1,3塁のチャンスを作ると、昨年、ダイヤモンドバックスでプレーしていたアブラハム・アルモンテが左中間を破り1点を追加した。この回さらに1点を入れたドミニカは試合の主導権を握り、5回表に1点を失ったものの、その裏の攻撃で2点を追加し、試合を決めた。

8回のピンチには元巨人・日本ハムのウィルフィン・オビスポがマウンドに登り、後続を断った
8回のピンチには元巨人・日本ハムのウィルフィン・オビスポがマウンドに登り、後続を断った

  ベネズエラはなおも諦めず、7回に2点を追加したが、8回裏にドミニカが連打で3点を奪い返すと、勝利を確信したスタンドのドミニカ人たちのボルテージは最高点に達した。あたかもドミニカのホームのようになってしまった球場の雰囲気にベネズエラのルイス・ウグエト監督は激高、審判のストライク・ボールの判定に不満を持っていたようで、主審に詰め寄り、さらにはホームベースに足で砂をかけた。スタンドはさらにヒートアップし、ウグエト監督は、大ブーイングの中退場となった。

思うようにいかない試合展開にベネズエラの若き指揮官、ウグエト監督のイライラが爆発した
思うようにいかない試合展開にベネズエラの若き指揮官、ウグエト監督のイライラが爆発した

 そして9回。最後のバッターの飛球がセンターのグラブに収まるや否や、一塁側ドミニカベンチから一同が一斉にマウンドへ走り出す。それと同時にスタンドからもドミニカ人ファンがなだれ込む。ダイヤモンドはたちまちのうちにドミニカ国旗で埋め尽くされた。

カリビアンシリーズ優勝の瞬間
カリビアンシリーズ優勝の瞬間

 ひとしきり優勝の喜びを分かち合うと、そのままベンチ前で優勝監督、リノ・リベラ監督のテレビインタビューが行われた。リベラ監督は、プエルトリコ人。3Aまで昇格したものの、メジャー経験はなく、メキシカンリーグや台湾でもプレーした苦労人である。2003年、37歳で引退した後は、メキシカンリーグでコーチを務め、母国プエルトリコのウィンターリーグや、メキシカンリーグなどで監督としての実績を積んでいった。今では夏も冬も引っ張りだこのラテンアメリカを代表する名将のひとりである。準決勝で自国開催の母国の優勝の夢を砕いたが、自軍の優勝で故郷に錦を飾った。準決勝で自国を破っただけに、決勝では負けるわけにはいかなかったのだろう、ドミニカ人ファンに囲まれながら、はばかることなく男泣きしていた。

ファンに囲まれながらインタビューを受ける優勝監督、リノ・リベラ
ファンに囲まれながらインタビューを受ける優勝監督、リノ・リベラ

 ドミニカ代表チーム、トロス・デル・エステはドミニカの球団としては4球団目、1983年の球団創設以来初となるカリブ王者の座に着いた。国別では、ドミニカが最多記録を更新する20回の優勝となった。

 優勝監督インタビュー後、表彰式がファンに囲まれながら行われた。実は決勝を前に記者投票が行われていたのだが、最優秀監督には優勝を予見するようにドミニカを率いたリノ・リベラが選出されていた。MVPには、決勝でドミニカの4番に座ったピーター・オブライエン、ベストナインは以下の通りとなった。

先発投手 エドガー・トーレス(メキシコ)

救援投手 ラモン・ラミレス(ドミニカ)

捕手 アリ・ソリス(メキシコ)

一塁手 ジョーイ・メネセス(メキシコ・元オリックス)

二塁手 ラミロ・ペーニャ(メキシコ・元広島)

三塁手 エマニュエル・リベラ(プエルトリコ)

遊撃手 アリ・カスティージョ(ベネズエラ)

左翼手 ルーベン・ソーサ(ドミニカ)

右翼手 ヘンリー・ラモス(プエルトリコ)

中堅手 リコ・ノエル(メキシコ)

指名打者 ラモン・ラミレス(ドミニカ) 

(写真はすべて筆者撮影)

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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