「夢への入り口」か「夢をあきらめる場」か。名門球団出身の独立リーグ監督のアプローチの相違

今年独立リーグの監督を務めた元巨人の二岡智弘

 年末の風物詩となった感のある漫才日本一決定戦、「M-1グランプリ」。今年は、一般には全くと言っていい程知られていなかったデビュー13年目のコンビ、ミルクボーイがチャンピオンに輝いた。チャンピオンといっても、この大会は、「若手」が対象のコンテストなので、ここでの入賞がある意味芸人としてのスタート地点となる。言い方を変えれば、ここでの優勝でようやくアルバイトなしで食っていくことのできる「プロ芸人」となれるのだ。

 年末の酒席でこの大会の話題が出たのだが、同席した放送関係者の話では、もともとこの大会はデビュー10年までの芸人による大会だったのが、5年の中断があったため、現在は15年目までに対象が広げられたそうだ。そして、年限をくくるのは、「芸人の夢をあきらめさせるきっかけ」、つまりデビュー後、10年、あるいは15年もアルバイトで生計を立てながら芸人をしながら芽が出ないなら見切りをつけなさい、そのことを自覚させるためだったというのだ。確かに、巷の「若者支援」の対象も30代まで。高卒で芸人を志し(もっとも近年は芸能学校や大学に進学する者も多いだろうが)15年といえば33歳。一般社会に居場所を見つけるのにはギリギリの年齢かもしれない。

 私は今月、2本の独立リーグ関係の記事をアップした。(「地方にあって『国際戦略』を仕掛ける独立リーグ球団・高知ファイティングドッグスの目指す先」, https://news.yahoo.co.jp/byline/asasatoshi/20191224-00155845/, 12月24日、NPB初、「『アフリカ人選手』誕生。『野球不毛の地』、アフリカと野球の浅からぬ縁, https://news.yahoo.co.jp/byline/asasatoshi/20191206-00153826/, 12月6日)

 独立リーグに集う選手たちも、M-1チャンピオンを目指す「あすなろ軍団」だ。真のプロであるNPBのドラフトから零れ落ちたものが、夢をあきらめきれず低賃金・不安定季節雇用の独立リーグという「もうひとつのプロ野球」に集まってくる。そして、ほんのごく一握りのものが毎年ドラフトにかかり、NPBという晴れ舞台への切符をつかむが、一軍という晴れ舞台に立つにはさらなる厳しい競争が待っている。だから、独立リーグの運営者は、選手に口を酸っぱくして言う。「ここは夢をかなえる場であるけれども、圧倒的多数のものにとっては夢をあきらめる場」だと。だから2つある独立リーグのうち、ルートインBCリーグの方は、現在年齢制限を設けている。実際にはオーバーエイジ枠があるので、各チームの主力クラスには「ベテラン」も多いが、選手たちにとってひとつの踏ん切りの目安にはなっているだろう。

 そういう場での指導者のアプローチも当然2つに大別される。「あきらめる場」に重点を置くか、「かなえる場」に重点を置くかということである。印象に残った2人の監督はともに名門ジャイアンツ出身。独立リーグの環境、待遇はもちろん、選手の力量だけでなく意識のNPB選手との違いには驚いたと口をそろえていたが、その独立リーグという場をどうとらえるかについては真逆だった。

高知ファイティングドッグスを率いた駒田徳広
高知ファイティングドッグスを率いた駒田徳広

「だから無理なんだって。そんな簡単にNPBになんか行けるわけがないじゃない。夢をあきらめきれないとか、そんなきれいごとじゃないよ」

と言っていたのは、四国アイランドリーグplusの高知ファイティングドッグスを率いていた駒田徳広だった。彼は、私の「今年のチームにドラフト候補はいますか」という質問をあっさり門前払いにした。

 それと正反対の反応を示したのは、BCリーグの富山GRNサンダーバーズを率いた二岡智宏だった。彼は、私の「夢をあきらめる場としての独立リーグ」という言葉をさえぎり、一刀両断した。

「私はここにいる選手全員にNPB入りの可能性があると思って指導しています。そうでないとおかしいでしょう。だから、彼らが上(NPB)に進んだ時困ることがないようにいろんなことを教えます」

二岡智宏、元富山監督
二岡智宏、元富山監督

 この真逆のアプローチのどちらが正解ということはできないだろう。独立リーグという場が出現したことによって、ある意味見果てぬ夢をズルズル追いかける若者が増えている。その中にあって、ほとんどの選手にとって実現不可能な夢から目を覚まさせてあげることも指導者には必要になることもあるだろうし、ある目標を設定しているならば、その目標から逆算して、選手をそのレベルまで指導するべきという考え方ももっともである。

 ともかくも、この2人の独立リーグの指導者に「夢を実現させる舞台なのか。夢をあきらめる場なのか」という独立リーグの本質について尋ねた時が、今シーズンの取材で一番緊張を強いられた時間だった。

 

 2019年を締めくくるに当たって、今年取材した2人のことを思い出したのは、同様のことが野球だけでなく、社会のあらゆる場で起こっているように今年はとくに感じたからである。

 選手にもはや報酬も支払っていない「関西独立リーグ」のある球団は、ドラフト候補に名が挙がりながらも、自ら地元企業への就職の道を選んだ選手を、周囲とともに説得し、入団させようと試みた。しかし、その彼は結局入団会見の席には姿を現さなかったという。聞くところによると、その選手は性格的に自己を律することが苦手で、自らそれを悟ったゆえ、指導者と相談の上、プロを断念したらしい。そのような選手を、最低限の報酬も払わないチームが引き抜こうとする姿勢には疑問を感じる。夢をあきらめることは決して恥ずべきことではない。ある意味、少年は夢から覚め。等身大の自己を自覚することによって大人になってゆく。ひとりの少年が出した結論に、その少年の将来に責任をもてない大人が異を唱えることには違和感を伴う。

 今年のドラフトでは、育成指名を含め9人が独立リーグから夢の舞台への切符をつかんだ。M-1と同じく、そこが終着点ではなく、そこからが真のプロとしての始まりだ。駒田の高知からは指名はなかったが、二岡言葉通り、彼の門下からは19歳の松山真之投手がオリックスから育成指名された。そして2人の指導者も今シーズン限りで独立リーグから去り、各々の道を再スタートさせる。

 独立リーガーたちの「夢のあとさき」を2020年も追い続けていこうと思う。

(写真はすべて筆者撮影)