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プレミア12 本日因縁の日韓戦。その歴史を振り返る

阿佐智ベースボールジャーナリスト
プレミア12の舞台、東京ドーム

 今日16日、プレミア12のスーパーラウンド最終戦として日韓戦が行われる。両国の複雑な関係もあり、因縁の対決とも言われるこの対戦は、今や国際野球大会の看板カードになっているのだが、ここでプロ主体の国際大会実施以降のこの対戦の歴史を振り返ってみたい。

韓国の主軸を担う元メジャーリーガー、キム・ヒョンス
韓国の主軸を担う元メジャーリーガー、キム・ヒョンス

はじまりはアテネ

[[image:image04|center|プロ主体の国際大会での日韓戦の対戦]筆者調べ]

 国際大会において、両国ともにプロ主体のナショナルチームを組んで臨むようになったのは、2004年のアテネ五輪からのことである。「プロ解禁」後初の2000年シドニー五輪において、オールプロで必勝を期した韓国に対し、プロアマ混成という中途半端な編成で臨んだ日本は、エース・松坂大輔を立てながら、3位決定戦で韓国に屈し、メダルを逃したこともあり、アテネに際しては、オールプロで臨むことを決定、プロ野球界のレジェンド、長嶋茂雄にタクトを委ねた。

 プロ同士の日韓戦の火蓋が切られたのは、アテネ五輪前年の予選大会を兼ねた2003年11月のアジア選手権においてのことである。五輪の出場枠2を日本、韓国、台湾、中国で争うことになった本戦の最終戦。ここまで全勝の日本に対して韓国は台湾戦を落とし、背水の陣でこれに臨んだが、和田(ダイエー)、黒田(広島)、岩瀬(中日)のリレーの前にゼロを並べ0対2でこれに屈した。札幌ドームを埋めた3万9000人の観衆は、長嶋ジャパンのアテネ五輪出場と本番での金メダルへの期待にわいた。

WBCの熱狂

 韓国がアテネへの出場権を逃したため、ふたたびの日韓の対決は、2006年にWBCが始まるのを待つことになる。メジャーリーガーを加えたこの大会では、両者のプライドを巡る争いがさらにヒートアップ。東京での第一次ラウンドを前に、「むこう30年は勝てないと思わせるような試合をしたい」という日本のリーダー、イチロー(マリナーズ)の発言に刺激された韓国は、東京ドームでのこのラウンド最終戦にイ・スンヨプ(巨人)のホームランで逆転勝ちを収めると、アメリカ・アナハイムで行われた第二次ラウンドでの2回目の対戦も制した。この試合後、韓国チームがフィールドを走り回り、マウンドに太極旗を立てたシーンは、いまだ日韓戦を象徴するシーンとして語り継がれている。プライドをズタズタにされた日本だったが、奇跡的に勝ち上がった準決勝では、三度相まみえた宿敵を三度目の正直とばかりに6対0で完膚なきまでに叩きのめしている。

屈辱のペキン五輪

北京五輪のヒーロー、キム・グァンヒョンは今回も参加している
北京五輪のヒーロー、キム・グァンヒョンは今回も参加している

 その次の日韓のトップ対決は、前年の予選から始まる北京五輪でのことである。

 2007年12月に台湾で行われたアジア選手権では、日本が4対3で辛勝。両国でアジア枠2を分け合う結果となった。そして、翌年の本番だが、2戦あった韓国戦を日本はともに落としてしまう。予選リーグでは、先制したものの、イ・デホ(韓国ロッテ)のホームランなどで逆転され、再戦となった準決勝では2対6で完敗してしまう。この時、日本代表の前に立ちはだかったのが、今回のプレミア12でもロースター入りしているキム・グァンヒョン(SK)だ。準決勝で宿敵を破った韓国は、決勝でキューバを破り、土をつけることなく完全優勝を果たした。

北京五輪での韓国応援団の熱狂(筆者撮影)
北京五輪での韓国応援団の熱狂(筆者撮影)

日韓戦のハイライト、2009年WBCの決勝戦

 この日韓のライバル関係は翌2009年のWBCにも持ち越される。今や伝説となったドジャースタジアムでイチローがイム・チャンヨン(ヤクルト)から放った決勝タイムリーで2大会連続の世界一を日本が成し遂げたこの大会だが、この因縁の対決を看板カードとすべく組まれたフォーマットにより、実に5回、両国は相まみえることになった。この後、WBCにおいては、日本と韓国は一次ラウンドでは別の組となり、韓国が2大会連続で二次ラウンド進出を果たせなかったため、日韓戦は実現していない。

プレミア12での悲劇

 ここ最近の両国の対決は前回の第一回プレミア12でのことだ。メジャーリーガーの出場しないこの大会、日韓戦はドル箱カードとみなされ、11月8日のオープニングラウンド開幕戦を札幌ドームでのこのカードで行った。この試合、先発した大谷翔平は、韓国打線相手に6回2安打無失点10奪三振という圧巻のピッチングを披露し、11日後に東京ドームで行われた準決勝のマウンドにも立った。ここでも7回1安打無失点と完璧なピッチングを披露、奪三振は11を数えたが、余力を残してここで交代。その後、9回に韓国が怒涛の攻撃で逆転し、その勢いで決勝も制し、初代チャンピオンになったのは野球ファンの記憶に新しいだろう。

メキシコの死闘を制して決勝進出を決めた韓国

 昨夜のメキシコ戦、韓国は先制されながらも、その裏の攻撃でメキシコ投手陣の乱調に乗じて一気に7点を取り試合を決めた。この勝利で、韓国は今大会の決勝進出と来年のオリンピック出場を決めた。それとともに侍ジャパンの決勝進出も決まった。負けたメキシコは、スーパーラウンド3位が確定。今日のデーゲームの台湾対オーストラリア戦で、台湾が勝てば、その時点でアメリカ大陸枠からのオリンピック出場が決まり、大会最終日に銅メダルをかけて台湾との試合に臨むことになり、オーストラリアが勝てば、アメリカとオリンピック出場をかけて日曜の3位決定戦に臨むことになる。

 ともかくも、今夜の日韓戦は、スーパーラウンド1位をかけての戦いになるが、あくまで「本番」は日曜の決勝ということになる。

 侍ジャパンは、今日の試合を岸(楽天)に、そして決勝を山口(巨人)に託すことをすでに決めている。

好調の浅村が、打線のカギを握るだろう
好調の浅村が、打線のカギを握るだろう

ライバル対決はどんな新たな歴史をつむいでいくのか

 ここまでプロ主体のナショナルチームによる日韓戦は計14試合。星は7勝7敗のまさに互角だ。

 個人的なことになるが、私は、この日韓戦を何度も球場で目にしている。その度、韓国の応援団の熱狂ぶりには圧倒された。中でも印象に残っているのは、2006年WBCの準決勝だ。私の周囲はほとんどが韓国サポーターで正直、その応援ぶりに辟易とさせられていた。日本の勝利の瞬間、私の前の席でひときわ大きな声をあげていた老人が振り向いて私の方を見てきた。一瞬に身構えてしまった私の前には彼のごつごつした手が差し出されていた。彼の固い掌を握りしめながら見た彼の顔には笑みは見られなかったが、彼が日本の戦いぶりに敬意を表してくれていたことは十分に伝わった。

 あれから10数年。両国の関係は改善するどころか、かえって悪くなっている。そういう中で行われる久々の日韓戦だが、メジャーリーガー抜きのこの大会が、決してメジャーリーグに劣ることのないレベルのプレーを披露できることを示すのは、この両国しかないだろう。世界野球の看板カードの名に恥じない好ゲームを期待するとともに、ゲーム後は、美しい「ノーサイド」を見せて欲しいと切に願う。

東京オリンピック出場を決めた韓国
東京オリンピック出場を決めた韓国

(特記なしの写真はすべてWBSC提供)

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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