様変わりした台湾プロ野球

昨夜行われた高雄での統一対中信兄弟の試合風景

 今秋のプレミア12、来年の東京五輪、再来年のWBCと立て続けに大きな国際大会が控え、様々な国の野球を今一度追っている。アジアの三強の一角、台湾だが、近年、トップチームは、「格下」と見なされていた中国に2008年の北京五輪、翌年のWBCと立て続けに敗れている。さらには、前回2017年のWBCでは第1次ラウンドA組の最下位に終わり、次回2021年WBCには予選からの出場となってしまった。世界の野球地図が塗り替えられている今、台湾野球も岐路を迎えていると言っていいだろう。

 私自身、かつて行われていたアジアシリーズやウィンターリーグは取材していたが、国内プロリーグ・CPBLはしばらく見ていない。前回見たのは2002年、当時まだ現リーグの前身リーグと後進のライバルリーグ・台湾メジャーリーグ(TML)が対立し、相次ぐ野球賭博騒動などもあってプロ野球人気がどん底だった時代だ。この状況を脱却すべく、政府が間に入り、両リーグは合併、現体制になって現在に至っている。現在の台湾プロ野球の現状を探るべく、久々に台湾南部の都市、高雄(カオシュン)を訪れた。

台湾屈指の球場、澄清湖棒球場

高雄・澄清湖棒球場
高雄・澄清湖棒球場

 台湾への旅行ブームの中、すっかり日本人にもおなじみになった高雄。この町の郊外にある澄清湖棒球場は、1999年のIBA世界野球大会にあわせて建造された球場である。国際大会仕様に建設されたこの球場は、台湾の球場のリノベーションの先駆けと言え、収容2万人を誇るその設備は、現在でも台湾トップクラスを誇っている。

 この球場を訪ねるのは実に17年ぶりのことになる。当時は、TMLのチーム、高屏雷公の本拠で、このリーグ加盟の4チーム合同のオープン戦が行われていた。対するライバルリーグの老舗CPBLは、この町の中心にある日本統治時代に建てられた立徳棒球場で公式戦を行っていた。この時、TMLのオープン戦とCPBLの公式戦ともに見たが、昭和の香り漂う遺跡のような立徳棒球場で行われたCPBLの試合で滅多打ちを食らったホームチーム、統一ライオンズの助っ人投手は、試合後「こんなのプロ野球のマウンドじゃない」とぼやいていた。現在はこの球場はアマチュア専用となり、この町のプロ野球は澄清湖棒球場ですべて行われている。

 とは言え、現在澄清湖棒球場をホームにしているチームはない。かつて2リーグ11球団あった台湾のプロ野球球団数は4にまで減ってしまった。両リーグ合併後、ここを本拠としていた雷公は旧TMLの台北太陽と合併の上、第一金剛となった。このチームが親会社の変更によりLaNewベアーズとなり、人気、実力とも兼ね備えた台湾を代表するチームへと変わっていくのだが、2011年よりこの新球団がその名をLamigoモンキーズと改めると、同時にフランチャイズを2009年に造られた桃園国際棒球場へと去ってしまった。その後、2013年から身売り前は興農ブルズ時代は台中を本拠としていた義大ライノズが移転して来、あのマニー・ラミレスを入団させると、連日球場には多くのファンが押し寄せた。これがこの球場の最後のハイライトで、気まぐれなラミレスが前期シーズン限りで台湾を去ると、2016年の優勝を有終の美とし、義大は球団を売却、新球団・富邦ガーディアンズは、フランチャイズを台北近郊の新荘に移してしまった。

 その上、2000年代以降、台湾各地で球場の新設、改修が行われると、主要な国際大会も玄関口の桃園空港近くの球場で開かれるようになり、現在ではこの球場は、この町にほど近い台南にフランチャイズを置く統一ライオンズをはじめとするプロ球団の地方ゲームや二軍戦、アマチュアの国際大会が開かれるに過ぎない球場となった。二層式のスタンドに加え、おそらく台湾では一番大きい外野席を備えた立派な球場だけに、あらためて今回訪問して、非常にもったいない印象を受けた。

洗練された台湾プロ野球

身売りを経験した中信兄弟だがユニフォームはチーム創建当初のデザインを守っている
身売りを経験した中信兄弟だがユニフォームはチーム創建当初のデザインを守っている

 昨日行われたのは統一7-Elevenライオンズと中信ブラザーズの名門対決。統一は1990年の台湾プロ野球発足以来、一度も身売りのない名門中の名門球団だ。中信は、プロ野球発足を主導した兄弟エレファンツを、かつて球団を所有しながらこれを解散させてしまった中国信託商業銀行が買収したチームで、ファンの反発を考慮してチームカラーの黄色はそのまま残し、チーム名も旧中信時代の「ホエールズ」を使うようなことはせず、旧親会社を連想させる「ブラザーズ」を使用、メディアでも「中信兄弟」と必ず表記させるなど、名門の遺産を受け継ぎ、新興のラミゴモンキーズと並ぶ人気球団として台湾球界に君臨している。そのようなこともあり、この日も統一の主催ゲームにもかかわらず、スタンドは三塁側の中信兄弟ファンが圧倒していた。

統一の先発投手、ジョシュ・レニキー
統一の先発投手、ジョシュ・レニキー

 先発投手はともに外国人投手。打高投低が特徴と言われるCPBLだが、どの球団も主戦投手は外国人に頼りがちだ。投手力の高い日本では助っ人外国人選手と言えば長打の期待できるスラッガータイプが中心だが、台湾では逆で、両軍ともこの日のスターティングラインナップには外国人選手の名はなかった。統一の先発は、ジョシュ・レニキー。コロラド・ロッキーズなどで6シーズンメジャー経験があるベテラン投手だ。一方の中信兄弟はミッチ・ライブリー。メジャー経験はないが、2015年シーズンを日本ハムファイターズで送っている。かつては、メジャーリーグにも進めず、日本や韓国でオファーを得ることのできなかったラテンアメリカの選手が席巻していた台湾球界だが、現在ではメジャーあるいは日本のプロ野球のレベルをかじったことのあるくらいの選手でないとなかなか通用しない。

中信兄弟の先発投手、ミッチ・ライブリー
中信兄弟の先発投手、ミッチ・ライブリー

 両先発の好投で5回までは締まった試合となった。得点は1回裏の統一の2番、蘇智傑のセンターバックスクリーンへの1発による1点のみだった。

1回裏、ソロホームランを放った蘇智傑
1回裏、ソロホームランを放った蘇智傑

 2回表、2アウトからのファーストゴロで一塁手から投手のトスが遅れたとしてセーフの判定が下されたが、投手のライブリーは即座にビデオ判定を要求。一塁カメラマン席から見ていても明らかな誤審だったが、やはりアウトに切り替えられた。台湾ではビデオ判定には、メジャーリーグと同じように審判は加わらず、ネット裏からの連絡を受けて最終判定を下すシステムになっている。

ビデオ判定の様子。日本とは違い審判員たちは参加することなく主審がネット裏からの連絡を待つ。また大型ビジョンで場内に映像を流すこともない
ビデオ判定の様子。日本とは違い審判員たちは参加することなく主審がネット裏からの連絡を待つ。また大型ビジョンで場内に映像を流すこともない

 

 5回までいいテンポの投手戦だった試合だが、その5回裏が終わったタイミングで激しいスコールに見舞われ1時間近く試合は中断した。それでも拮抗した試合を前に熱心なファンはほとんど帰らず、9時40分の試合再開時にも7割くらいのファンがスタンドに残っていた。

雨が降ればメジャーと同じように内野全域を巨大シートで覆う。スコールの多い台湾ならではの工夫だ
雨が降ればメジャーと同じように内野全域を巨大シートで覆う。スコールの多い台湾ならではの工夫だ

 スタンドの応援風景は、韓国と台湾をミックスしたような雰囲気だった。17年前にはなかった内野スタンドの組織的な応援でファンは盛り上がっていた。ホームチームの統一は韓国と同じくチアと応援リーダーによる大音響とダンスによる応援で、ベンチ上のチア前の最前列にはチアチームのファンの男性がカメラを構えている。

ホームチームはチアガールが応援を盛り上げる
ホームチームはチアガールが応援を盛り上げる

 一方の中信兄弟側の内野スタンドには最上部に日本の応援団同様のトランペット部隊が控え、応援をリードしていた。

中信兄弟の応援団。その名もBrotherhood
中信兄弟の応援団。その名もBrotherhood

 スタンドではまた、日本のチームのキャップやレプリカユニフォームを多く見かけた。とくに中信兄弟と同じ黄色をチームカラーにしている阪神タイガースのレプリカユニフォームは人気で、応援団に混じってタイガースの黄色の企画ユニフォームをまとったファンが目立った。

 

 試合は中断により両先発投手が代わった終盤にもつれ、7回表に中信兄弟がタイムリーで2点を挙げ逆転したものの、その裏に統一が追いつき、さらに8回裏に2点を取り、再び突き放し逃げ切った。

 試合終了は11時40分。最後まで残ったスタンドのファンはどうやって帰るのだろうと思ったが、彼らは球場前に並べてあったスクーターで家路に就いていた。

(写真は全て筆者撮影)