喧々囂々の様相を呈する「高校野球問題」へ一石:プロ野球を「高校野球」人気が圧倒する国・パナマ

第3回WBC予選を自国の国立ロッド・カルー球場で開催したパナマチーム(写真:ロイター/アフロ)

 いよいよ、各都道府県代表が出そろい、「夏の甲子園」が始まる。近年、空前絶後とも言える高校野球人気の過熱とともに、過密日程の中、「負ければ終わり」のノックアウト方式ゆえの様々な弊害が各方面から指摘されるようになっている。その中には、「甲子園廃止」のような半ば「炎上目的」のような極論もあるのだが、岩手県大会での大船渡高校・佐々木朗希投手の起用法をめぐる議論に象徴される「球数問題」などは、今後の高校野球の枠組みを左右する大きな議論の的となっていくだろう。

 私はここで、その「球数問題」に対して結論めいたことを言うつもりはない。実際に高校野球の現場にいたことはなく、高校野球についての取材・研究などもほとんどしかことがないからだ。ただ、自身の取材経験から、日本の高校野球にある種の示唆を与えるのではないかという思いで、以下に中米・パナマの高校野球について紹介する。

中米の野球強国・パナマ

 中米のパナマという国の名は多くの人が知っているだろう。大西洋と太平洋をショートカットで結ぶパナマ運河の名は、当地出身で、福岡ソフトバンクホークスなどで活躍したフリオ・ズレータのパフォーマンスで野球ファンにおなじみであった。彼の存在に象徴されるように、この世界海運の要衝という地政学的立場ゆえにこの国は大国・アメリカの強い影響下に置かれ、サッカー人気が支配的なラテンアメリカにあって野球人気が他のスポーツを圧倒している「野球国」であり続けている。

激動のパナマプロ野球史

 パナマのプロ野球の歴史は浅くはない。1940年にリーグが創設され、1948年にはメジャーリーグ傘下のマイナーリーグの連合体である「オーガナイズド・ベースボール」に組み入れられたというから、ラテンアメリカでも有数のプロ野球の歴史を誇っている。そして1949年に始まった中南米ウィンターリーグの国際チャンピオンシップであるカリビアンシリーズには原参加国として名を連ねている。

しかし、その後、他の国々同様、国内の有望選手をメジャーリーグを頂点とするアメリカプロ野球に奪われ、魅力をなくしたパナマリーグは、1971-72年のシーズン終了とともに消滅してしまう。

 その後、長い空白期間を経て2001年冬にパナマのプロ野球は復活する。しかし、このリーグ・「Probeis」は、全4チームが首都パナマ・シティで全試合を行うという変則的なもので、ファンの関心を集めることはできず、シーズンを全うすることなく休止に追い込まれている。2010年にはドジャースの副社長、ラファエル・アビラとその弟、アウグスト・アビラによって別資本のプロリーグが発足したが、これも1シーズン限りで頓挫、Probeisが2011-12年シーズンに復活し、現在までなんとか命脈を保っている。

閑古鳥の鳴く「入場無料のプロ野球」

パナマウィンターリーグ・Probeisの決勝プレーオフの様子(アグアデュルセ・レモンカンテラ球場)
パナマウィンターリーグ・Probeisの決勝プレーオフの様子(アグアデュルセ・レモンカンテラ球場)

 現在のProbeisは、リーグ戦の期間、ひと月超というミニリーグで、年末までにシーズンを終えることもあったが、ここ数年はカリビアンシリーズの下部大会と位置付けられているラテンアメリカン・シリーズに出場することもあり、年またぎでレギュラーシーズンとプレーオフを実施するようになっている。とは言え、各チームのレギュラーシーズンの試合数は20前後。2016-17年シーズンは、4チーム中3チームが首都パナマ・シティを本拠とする状況であったが、私が取材した2017-18年シーズンは国内各地にフランチャイズが分散されていた。ただし、年をまたいで実施される予定だったレギュラーシーズンは突如としてクリスマスで打ち切り、年明けからシーズン1位2位チームによる5戦3勝制の決勝プレーオフが行われることになった。

 そのプレーオフも正直盛り上がりは全くない。娯楽の少ない人口1万人にも満たない地方都市・アグアデュルセでの開幕戦には500人ほどの観客があり、それなりの賑わいを見せていたが、Probeisのフランチャイズとしてはパナマシティに次ぎ2番目の人口9万を擁するサンチアゴで行われた試合では、その試合で年度優勝が決まったという大一番にもかかわらず、観衆は立った150人ほどだった。もっとも、連日の雨でスケジュールは頻繁に変わり、この夜もあいにくの雨模様の中試合が決行、おまけに優勝したのはビジターのカバージョス・デ・コクレとあっては、地元チーム、ブラボス・デ・ウラカを応援するファンも集まらないだろう。そもそも、テレビ中継はおろか新聞報道もほとんどなく、リーグのHPも機能していない状況ではファンは試合スケジュールも把握できない。

2017-18年シーズンのProbeis優勝決定試合の様子(サンチアゴ・オマールエレラ球場)
2017-18年シーズンのProbeis優勝決定試合の様子(サンチアゴ・オマールエレラ球場)

 しかし、この「不入り」のそもそもの要因はこの国のプロ野球じたいの人気のなさにある。

 パナマ人にとって「プロ野球」とはアメリカのメジャーリーグのことであり、夏のシーズンになると、国民は衛星放送で報じられる自国出身のメジャーリーガーのプレーに一喜一憂する。

 一方、ウィンターリーグの方は、パナマ人ファンにとっては、プロ選手を集めて行う短期のリーグ戦という扱いだ。選手はプロだから当然報酬をもらってプレーする。その額はおおよそ月1500~3000ドル。日本の独立リーグ並みと言っていいだろう。そんな額の報酬だから当然現役メジャーリーガーは戻ってこない。メジャーリーグ経験者もいるにはいるが、ほとんどはコールアップを数度受け短期間ベンチにいただけという者で、選手の大半はルーキー級かせいぜいA級、もしくはアメリカ独立リーグでプレーするパナマを中心とするラテンアメリカ出身者だ。2017-18年シーズンには、ワシントン・ナショナルズのA級でプレーしていたマリアーノ・リベラ3世に、ヒューストン・アストロズのドミニカアカデミーで2勝を挙げたマニー・ラミレスJr.というメジャーのレジェンドの息子たちに加え、元阪神のネルソン・ペレス、それに日本人独立リーガー2人がこのProbeisでプレーしていた。つまりはその程度のレベルなので、目の肥えたパナマの野球ファンにとって国内プロリーグは魅力に欠ける。おまけに、リーグの財政基盤の弱さからチームの興亡も激しく、フランチャイズも毎シーズンのように変わるため、地元ファンもつきにくい。

 そんな状況なので、Probeisは、世にも珍しい入場無料というプロリーグなのだ。選手の報酬は、スポンサー収入によって賄われる。つまりは試合をすればするほど、経費だけがかさんでいくので、順位さえ決まってしまえば、スポンサーの意向によりシーズン打ち切りなど日常茶飯事ということになる。2017-18年シーズンの場合などは、レギュラーシーズン2位からプレーオフで「下剋上」を果たしたチャンピオン、カバージョスは、国際シリーズであるラテンアメリカン・シリーズまでの半月間、選手を養う資金がなく、あっさり出場権を放棄し、結局、レギュラーシーズン首位ながらプレーオフで敗れたブラボスがラテンアメリカン・シリーズに出場という、ならばプレーオフをする必要はなかったのではないかと首を傾げてしまうような結果となった。

 ちなみにProbeisは昨シーズン、6球団制に拡大。ラテンアメリカシリーズでは、優勝チーム、トロス・デ・エレーラが出場6チーム中同率3位でかろうじて準決勝に進んだものの、準決勝で敗退した。しかし、開催国ベネズエラが開催を返上したため、急遽、首都パナマ・シティの国立ロッド・カルー球場を提供したため、59年ぶりに出場が決まったカリビアンシリーズでは、大幅な選手補強を行い(ラテンアメリカンシリーズ準決勝出場メンバーでカリビアンシリーズ決勝に出場したのは2人だけ)、1950年の第2回大会以来69年ぶりの優勝を飾っている。

資金をスポンサーに頼るProbeisではユニフォームは広告で埋め尽くされる
資金をスポンサーに頼るProbeisではユニフォームは広告で埋め尽くされる

プロ野球の人気をはるかにしのぐ「高校野球」

 常夏のこの国では、春にパナマ野球連盟(Fedebeis)主催のアマチュアリーグが行われている。県ごとと首都にチームがあるこちらの方が全国リーグの色合いが強く、テレビ中継もあるなど、国民にはおなじみだ。

 Probeisでプレーする選手の多くはここでもプレーし、チームの主力とあって、報酬をもらうことも多いので、正直、プロとアマの境界もはっきりしていない。そして、プロリーグが1月半ばに終わり、3月末にアマチュアリーグが始まるまでの間には、ある意味この国一番人気の野球、リガ・フベニル(青少年リーグ)が行われる。これはU18、つまり18歳以下の高校生世代による全国リーグだ。

 プロリーグのファイナルシリーズのスタンドに閑古鳥が鳴き、メディアからもほとんど無視される中、入れ替わるようにして始まる「高校野球」の方は、連日テレビで中継の予告がなされていた。地元の人に聞くと、プロによるウィンターリーグよりはるかに人気があるという。理由を尋ねると次のような答えが返ってきた。

「プロはたった4チーム。でも、フベニルは全県にあるからね。みんな地元のチームだと応援するんだよ」

このパナマの「高校野球」は、日本のそれとは違い、高校別のチームによるトーナメントではなく、各県の選抜チームによるリーグ戦である。1か月弱のレギュラーシーズンは1チーム当たり22試合。12チームが全国各地を連日転戦する。そして、この1次リーグ戦の上位8チームが2月前半の約10日で各チーム7試合を行う2次リーグ戦「セリエ・デ・8」に進む。そして2月後半はその上位4チームによる「セミ・ファイナル」となるのだが、ここでもノックアウト方式のトーナメントは行わず、「セリエ・デ・8」と同じく10日ほどで各チーム7試合を消化する。そして「セミ・ファイナル」の上位2チームによる「ファイナル」は、プロ野球と同じく7戦4勝制シリーズで行われる。試合会場は、1,2戦目は出場両チームの地元球場で行われるが、残りは「パナマ野球のメッカ」である首都パナマ・シティの国立ロッド・カルー球場で実施される。

 大会期間は1,2月中の2か月弱。学校はどうしてるのかと思われるだろうが、パナマの学校年度は2月中旬から12月末まで。つまりパナマの「高校野球」は長い「春休み」の間に行われるのだ。どの段階もリーグ戦方式で実施されるため、試合数も確保できるし、投手はローテーション制を採用することになる。県選抜チームによる戦いなので、投手の頭数もそろえることができる。

 冒頭に書いたように、私は日本の高校野球の在り方を全面否定する立場にはない。むしろ日々テレビ画面を通して、高校球児、スタンドの応援団、球児たちを懸命に支えてきた保護者たちの姿を見ると、ついつい、涙腺が緩んでしまうくらいだ。しかし、あらゆる事象には、時の流れにつれ、様々な問題が出てくるものだ。ここで結論めいたことを述べるつもりは全くないが、世界にはこういう「高校野球」もあり、現地の人々に愛されていることも知ってほしいと思う。

(本文中の写真は全て筆者撮影)