ウェスタン・リーグ地方試合。中日ドラゴンズ、蒲郡で40回目の公式戦開催

先月26日、愛知県蒲郡市でウェスタン・リーグ公式戦が行われた

 先日、プロ野球二軍のイースタン・リーグの地方試合開催の意義について書いたが(『「かまくら」の町にプロ野球がやって来た:楽天野球団、一・二軍合わせての東北全県フランチャイズ化作戦』, https://news.yahoo.co.jp/byline/asasatoshi/20190525-00126010/)、ウェスタン・リーグにおいても、地方試合は開催されている。二軍の独立採算を念頭に「新日本リーグ」を発足させたセントラル・リーグ中心に結成されたイースタン・リーグに対し、元々関西の電鉄会社を親会社にしたパシフィック・リーグ球団が中心となって結成されたウェスタン・リーグは、結成当初、二軍の役割をあくまで一軍への選手供給とし、その本拠を一軍と同じ球場かその周辺に置き、試合興行に積極的ではなかった。しかし、のちには公式戦以外にトーナメント大会を地方球場で行うなど、次第に興行にも積極的になっていった。

 5月26日、中日ドラゴンズは、保護地域である愛知県蒲郡市で二軍の公式戦である対阪神タイガース戦を行った。ここでの公式戦開催は地元自治体の積極的な誘致もあり、今年で40回目。会場となった蒲郡公園野球場は外野芝生席まで開放する大入りとなった。

恒例のウェスタン・リーグ中日戦が行われた蒲郡球場
恒例のウェスタン・リーグ中日戦が行われた蒲郡球場

愛知県を中心に中京地区全域で試合を行う中日ドラゴンズ

 近年、「地域密着」がプロスポーツ展開のキーワードとなっているが、それを古くから行っているのが、プロ野球・中日ドラゴンズだろう。本拠・ナゴヤドームのある愛知県を中心とする中京地域はもちろん、石川県などの北陸地域においても圧倒的な人気を誇るドラゴンズは、その人気を維持・拡大すべくこのエリア全域で試合興行を行っている。

 とは言え、収容3万6627人を誇る全天候型のドーム球場であるナゴヤドームを離れて一軍公式戦を行うことは、ビジネスの観点からなかなかできない。今シーズンで言えば、一軍公式戦の地方試合は愛知県豊橋市と岐阜市、静岡県浜松市で行う3試合のみ。「生観戦ブーム」で観客動員が年々増加する中、他球団同様、収容人員の少ない地方球場での試合開催は行いにくくなってきているのが現実である。

 また、かつて中日は地元ファン向けに一軍オープン戦で保護地域である愛知県各都市で試合を行っていたが、これもまた、オープン戦そのものが減少し、各球団設備の整った本拠地球場でオープン戦を消化するようになった昨今の状況を反映して、今シーズンは、ナゴヤドーム以外でのオープン戦主催ゲームは、キャンプ地である沖縄県北谷市、と愛知県小牧市での「地方ゲーム」と旧本拠で現在は二軍が使用しているナゴヤ球場での3試合だけとなっていた。

 しかし、地元ファン獲得はプロ球団としての生命線でもある。そこで、中日球団は二軍の公式戦を保護地域である愛知県を中心とした各地で行うようになった。今シーズン中日のファームは、主催公式戦59試合のうち、53試合を二軍本拠のナゴヤ球場で、そして一軍本拠のナゴヤドーム、かつて一軍が毎年のように公式戦を行っていた金沢で各1試合を行うほか、岐阜県可児市、石川県高岡市、愛知県豊橋市、蒲郡市と一軍が試合を行うことのないような球場への遠征をスケジュールに組んでいる。

保護地域でファーム戦を行う意味

「大入り」もあり、売店の出たスタンド下通路はごった返していた
「大入り」もあり、売店の出たスタンド下通路はごった返していた

 蒲郡市は名古屋市の南東60キロのところに位置するのどかな町である。同じ愛知県内とは言え、名古屋の通勤圏というには少々距離がある。目の前に広がる三河湾一帯が国定公園に指定され、市内各所には温泉が湧き、ビーチや水族館などがある行楽地の印象が愛知県民には強いだろう。しかし、海外旅行の大衆化、レジャーの多様化の波の中、温泉街のいくつかは老朽化したまま寂れ、市全体としても、ここ10年人口が微減しており、日本全国の中小都市同様の町の疲弊という課題に遠からず直面することが予想される。このような中小都市は、地域活性化のため様々なイベントを行っているが、プロ野球地方ゲームの開催は、そのようなイベントのひとつだろう。しかし、一方で近年本拠地での観客動員が好調の中、各球団は地方ゲームを減らしており、地域活性化のコンテンツとしての二軍戦の重要性は増していると思われる。

 そういう意味では、早い時期からプロ野球二軍戦というイベントを行ってきた蒲郡市には先見の明があったと言える。この町で初めてウェスタン・リーグ公式戦が行われたのは1978(昭和53)年のことである。翌79年はウェスタン・リーグの全6球団を集めたトーナメント大会(非公式戦)が実施されたがこれも含め、今年に至るまでほぼ毎年中日のファームが試合を行っている。今やこのイベントは市民が待ちわびる恒例のイベントとなっている。

 入場料は、大人・子どもとも一律500円。ナゴヤ球場での入場料の半額である。この差額は市からの補助金で埋め合わせているという。市民向けにはさらに割引の300円の前売り券が発売され、これは早々にソールドアウトとなっていた。

 試合当日は早くから試合を待ちわびた市民が郊外の高台にある球場に押し寄せ、収容4000人の内野スタンドは満席となった。球場側ではこの事態に外野芝生席も開放、試合開始時にはこの外野席も大入りとなっていた。中日ドラゴンズ二軍は前日、ナゴヤ球場でイベント試合を行い、満員となる4389人を動員していたが、この日はそれを上回る4412人のファンを集めた。

 名古屋近郊の町とはいえ、距離的時間的にナゴヤドームへのナイター観戦はなかなか難しいこの町の住民にとっては、二軍とは言え「生ドラゴンズ」を見ることができるこの機会は非常に貴重だと言える。それも巨大なドームではなく、「おらが町」の小さな球場では、それこそ手の届きそうな距離で選手たちが躍動している。試合中、両翼94メートル、中堅119メートルという狭さもあって、大きなフライは「あわやホームラン」という打球となり、スタンドからは打球が上がるたびに大きな歓声が上がった。そして、そのフライを走りながら捕る姿を金網越しに間近で見たファンはプロの迫力を堪能していた。

 とりわけ大きな歓声を上げていたのは地元のちびっこファンだった。彼らがナゴヤドームに足を運ぶことのできるのは年数回だろう。普段テレビでしか見ることのできない憧れのユニフォームを間近で目に焼き付けた体験は、将来的に彼らをコアなファンに育てる可能性を秘めている。そういう意味では、中日球団にとっても、二軍の遠征試合は、ファン開拓の重要な方策となっているのだ。

観客の視線を遮るほど太いバックネットの支柱など地方球場も二軍戦を行うに際しては整備が必要だろう
観客の視線を遮るほど太いバックネットの支柱など地方球場も二軍戦を行うに際しては整備が必要だろう

 

 ただ、気になるのは、やはり設備面だ。常打ち球場と違い、地方球場、とくに二軍が使用するような小規模球場は、設備環境面で当然のことながら劣る。この蒲郡球場の開設は1973年。老朽化が目立つ。バックネットを支える柱は太く、せっかくネット裏に陣取っても肝心のプレーが見えない場所もある。選手のためにも観客のためにもリノベーションか新造が待たれるところである。

 これについては、試合前にフィールドで挨拶を行った市長の口から、内野ネットの張替えとスコアボードの新造が約束されていた。 

「昭和遺産」ともいえる味のあるスコアボードも新たに作られることになった
「昭和遺産」ともいえる味のあるスコアボードも新たに作られることになった

 プロ野球一軍の観客動員が好調の中、各球団は本拠地球場以外の試合開催を減らしている。ある意味、主催公式戦を本拠で行うのが当たり前というメジャーリーグに近くなっているのだろう。それは時代の流れであるとも言える。しかし、アメリカのような層の厚いマイナーリーグがあるわけでない日本では、プロ野球の草の根を広げるコンテンツは、今後の持続的発展を考えるとどうしても必要である。

 「生観戦ブーム」の中、二軍の観客動員も伸び、各球団これを単に戦力の養成の場でなく、興行の対象、ファン拡大のツールとして利用しようという動きも活発になってきている。

この日、最も大きな声援を送られていたのは、期待のルーキー、根尾昂だった
この日、最も大きな声援を送られていたのは、期待のルーキー、根尾昂だった

 ファン目線から見ても、鳴り物による応援のない、一軍とは違うのどかな雰囲気の中の野球観戦は、貴重な体験になるだろう。

 バットとボールがぶつかる音、グラブにボールが収まる音、スパイクが土を蹴る音、そしてボールを追いかける選手の掛け声。普段、トランペットや歓声でかき消されているそのような「球音」を感じるためにファームの試合に足を運ぶのも悪くはない。そして、そこではめったに見ることのできないプロ野球を心から楽しもうとする地元ファンの「野球愛」を感じることができるだろう。

(写真は筆者撮影)