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メキシコ代表チーム「ベルデス・グランデ」来日。侍ジャパンと戦うのは彼らだ

阿佐智ベースボールジャーナリスト
メキシカンリーグの人気チーム。ユカタン・レオーネス

 今週末に行われる春の侍ジャパン強化試合に出場するメキシコチーム・「ベルデス・グランデ(偉大なる緑)」が今日来日する。メキシカンリーグの歴史上6人しかいない1000勝監督、ダン・フィロバ率いるチーム・メキシコは総勢35人。選手は28人だ。今回のロースター構成だが、オリックスで今シーズンからプレーするジョーイ・メネセス以外は、国内トップ夏季リーグ・メキシカンリーグ所属の選手である。2016年の強化試合では、アメリカのマイナーリーガーやセルジオ・ロモのようなFAになったメジャーリーガーも参加していたが、時期が時期だけに、「アメリカ組」は各々の生き残りをかけたスプリングトレーニングを優先したようだ。実際、ひと月前に発表された暫定ロースターには、先述のロモ(マーリンズ)やメジャー通算78ホールドのフェルナンド・サラス(FA)らの名が挙がっていたが、結局彼らが日本の土を踏むことはなかった。また、クリスチャン・ビヤヌエバ(巨人)、エフレン・ナバーロ(阪神)ら「日本組」の名も挙がったが、結局、出場するのは、今回の試合会場である京セラドーム大阪を本拠とするオリックスのメネセスだけとなった。

 メキシカンリーグは、パワーピッチャー、スラッガーの多くをアメリカ、ドミニカなどからの「助っ人」に依存している。その彼らは、アメリカとの両国籍者以外は、当然のごとく参加しないわけで、今回のメンバーには少々小粒感が付きまとう。それでも、ウィンターリーグであるメキシカンパシフィックリーグに参加したNPBの選手に聞くと、メキシコ人選手のポテンシャルは十分に日本でもやっていけるレベルらしい。今回の来日選手たちも、メキシカンリーグでプレーする一方、ウィンターリーグでもプレーしている。

 今回は、日本のファンにはなじみのないメキシコの選手を何人か紹介したい。

90 ルイス・フアレス(モンテレイ・スルタネス, 左投左打, 29歳)

ルイス・フアレス(モンテレイ・スルタネス)
ルイス・フアレス(モンテレイ・スルタネス)

 メキシカンリーグは、16球団が広いメキシコ全土にフランチャイズを置き、南北2地区に分かれてペナントレースを戦う。背後に野球の母国・アメリカを控えていることもあり、総じて北地区のチームの方が、戦力豊富で人気も高い。中でもメキシコ野球の盟主と言えるのが、ヌエボレオン州の工業都市・モンテレイを本拠とするスルタネス(サルタンズ)だ。本拠・モンテレイ・スタジアムは、これまでメジャー公式戦が何度も行われたラテンアメリカトップクラスの球場で、2016年にはU23ワールドカップの会場にもなった。ここにあるメキシコの野球殿堂はこの春新しく建て直された。

 このモンテレイにこの春カムバックしてきたのが、ルイス・フアレスだ。野球の盛んな太平洋岸シナロア州クリアカン生まれの29歳は、2009年にスルタネスでメキシカンリーグデビューした。ルーキーイヤーに6試合の出場ながら打率.375を残した未完の大器だったが、以後出場数は増やしていくものの、期待されたホームラン数が伸びず、なかなかレギュラーポジションを獲るには至らなかった。27歳になった一昨年、ようやくファーストと外野兼任でスタメンに定着すると、3割2ケタ本塁打をクリアし、昨年は、南部地区の人気チーム・ユカタン・レオーネスに移籍して、19本塁打を放った。今シーズンを前にスルタネスに復帰している。

 ウィンターリーグを合わせ、通算1092安打を放ったスラッガーは、WBCにも前回2017年大会に出場し、5打数3安打を記録している。今カードでは、指名打者か代打で出てくるだろう。

87 ホセ・アギラール(ユカタン・レオーネス, 右投右打, 29歳)

ホセ・フアン・アギラール(写真はメキシカンパシフィックリーグ、マサトラン・ベナドスのもの)
ホセ・フアン・アギラール(写真はメキシカンパシフィックリーグ、マサトラン・ベナドスのもの)

「北の雄」がモンテレイなら、「南の雄」と呼べるのは南部ユカタン半島の都市・メリダに本拠を置くユカタン・レオーネス(ライオンズ)である。ユカタン半島は、いくつかあるメキシコの野球伝来ルートのひとつで、それゆえ、このメキシカンリーグの強豪が本拠を置くほか、冬にはプロアマ混成のリーグがいくつか実施される。

 このレオーネスの顔とも言える存在なのがホセ・フアン・アギラールだ。メキシコ中部・ミチョアカン州マラバティオ生まれと、そのほとんどが太平洋岸か南部ベラクルス以南の大西洋岸出身だというメキシコの野球選手には珍しい町の出であるが、この町にも、メキシカンリーグの冬のファームリーグの本拠が置かれていたので、ここも野球が盛んな土地柄なのだろう。

 2010年にアメリカ国境の町を本拠とするレイノサ・ブロンコスでメキシカンリーグデビュー以来、メキシコ球界一筋で10年目を迎える。 2017-18年シーズンには、メキシコに武者修行しにきていたルシアノ・フェルナンド(楽天)と同じマサトラン・ベナドスでレギュラー外野手としてプレーしていた。試合前の打撃練習中に鋭い打球を連発する彼を見て、フェルナンドは、「すごいパワーありますよ。日本に来てもレギュラーでやれますよ」と感心していたが、ミートに徹しているのか、2ケタホームランを記録したシーズンはない。

 前回2016年の強化試合でも来日、2試合ともに出場して無安打に終わったが、メキシコが勝利した第1戦では、DeNAの山崎康晃から勝利を引き寄せる犠打を決めている。

5 ロドルフォ・アマダー(モンクローバ・アセレロス, 右投左打, 27歳)

ロドルフォ・アマダー(写真はプエブラ・ペリーコス時代)
ロドルフォ・アマダー(写真はプエブラ・ペリーコス時代)

 ユカタン半島と並ぶメキシコの野球伝来の地が太平洋岸だ。現在のところ、この地域が野球人気の一番高いところで、ここでは「国技」であるサッカーの人気を野球がしのいでいる。この一帯で展開されるウィンターリーグ・メキシカンパシフィックリーグは、メジャー、日本のNPB、韓国のKBOに次ぐ、観客動員世界第4位を誇る。今回参加のメキシコメンバーの多くはこの地域出身である。今シリーズ、内野のサブとなるであろうロドルフォ・アマダーもこの地域のバハ・カリフォルニア州出身である。

 「アマダー」と言えば、前回強化試合のメンバーでもあった、昨年まで楽天でプレーしていた巨漢選手、ジャフェットが日本のファンの頭に浮かぶだろうが、今回来日するのは、メキシカンリーグ8年目の三塁手だ。メキシカンリーグでもウィンターリーグでも、サブ的な地位に甘んじているが、メキシカンリーグの通算打率はちょうど3割。サードのレギュラーとして活躍した2016年には、当時所属していたプエブラ・ペリーコス(パロッツ)の優勝に貢献している。

86 ホセ・オイエルビデス(モンクローバ・アセレロス, 右投右打, 37歳)

ホセ・オイエルビデス(写真はメキシカンパシフィックリーグ、ハリスコ・チャロスのもの)
ホセ・オイエルビデス(写真はメキシカンパシフィックリーグ、ハリスコ・チャロスのもの)

 今回の来日メンバーには、アメリカ生まれのメキシコ系アメリカ人が7人含まれている。彼らの扱いを巡っては、これを外国人枠に入れるのか、国内選手としてカウントするのか、プロリーグでは侃々諤々の議論が繰り広げられているが、彼らの「メキシコ」に対するアイデンティティは非常に強いものがある。

 前回強化試合のメンバーでもあったホセ・オイエルビデスもそういう選手のひとりだ。メキシコ国境の町、アメリカ・テキサス州マッカーレン生まれで、アメリカの短大卒業後、パドレスと契約し、アストロズに移籍した2008年には3Aまで昇格した。しかし、メジャー昇格は果たせず、2009年からはメキシカンリーグに舞台を移し、故郷の国境を越えた隣町・レイノサのチーム、ブロンコスでプレーして以来、主として先発投手としてプレーを続けている。例年ウィンターリーグでもプレーしている。写真は、2017-18年シーズンに、そのウィンターリーグのハリスコ・チャロスでプレーしている時に撮影したものだが、「親戚に土産物を買うんだ」とゲーム前、スタンド前のチームショップで買い物をしていたところがなんともメキシコらしかった。

 この冬は、補強選手として各国ウィンターリーグのチャンピオンシップ・カリビアンシリーズにも出場し、キューバ、ベネズエラ相手にリリーフのマウンドで無失点に抑えた。2016年の強化シリーズでは、第1試合の先発マウンドに立ったものの、1アウトを取っただけで4四球で降板しているだけに、今回はいいところを見せて、日本の野球グッズとともにメキシコへの土産にしたい。

 メキシコ代表チーム・「ベルデス・グランデ」は、7日に京セラドーム大阪、8日に大阪府内で練習をした後、侍ジャパンとの2連戦に臨む。

(写真は全て筆者撮影)

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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