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オーストラリアンベースボールリーグ、ニュージーランドに初のプロ野球球団設立

阿佐智ベースボールライター
新球団オークランド・トゥアタラの本拠、マクレオドパーク

オーストラリアウィンターリーグの拡大策と国際化

記念すべきホーム開幕戦は、昨シーズンのチャンピオン、ブリスベンバンディツを迎えて行われた
記念すべきホーム開幕戦は、昨シーズンのチャンピオン、ブリスベンバンディツを迎えて行われた

 12月に入り寒さも本格的になり、日本ではストーブリーグ真っ盛りだが、南半球のオーストラリアではウィンターリーグが佳境を迎えている。2010年に設立された、オーストラリアンベースボールリーグ(ABL)は、これまで日本のプロ球団とつながりをもち、メジャー挑戦を表明した菊池雄星(西武)ら幾多の選手が武者修行に行ったことで日本の野球ファンにもおなじみだろう。今年は、横浜DeNAがキャンベラ・キャバルリーと業務提携を結び、今永ら4選手を派遣、西武も例年のようにメルボルン・エーシズに選手を送り出している。そして、もう1球団、千葉ロッテが、若手のホープ、平沢大河、種市篤暉、酒居知史の3選手を派遣しているのだが、その派遣先が、今シーズン、ニュージーランドに出来た新球団・オークランド・トゥアタラだ。

今季、ABLはかねてからの目標であったエクスパンションに踏み切った。隣国のニュージーランドに1球団、そしてメルボルン郊外のジーロンを本拠とする韓国人球団を創設し、リーグの国際化を推し進めようというのだ。新球団のニックネーム、「トゥアタラ」は、この国固有のムシトカゲの現地名だという。

 ニュージーランドと言えば、ラグビーの国としてつとに有名だが、野球のほうでも、WBCに2012年の予選大会から参加している。まだまだ野球人気も低いということで、本戦出場はかなわない段階だが、すでにアメリカマイナーリーグには数人の選手が送り込まれており、ABLとしても重要なマーケットと位置付けているのだろう。

 監督には、現在はテキサス・レンジャーズ傘下のマイナーチームの監督を務め、過去にはアデレード・バイトを2015-16年シーズンのABLチャンピオンに導いた経験をもつ元メジャーリーガー、スティーブ・ミンツを据え、ピッチングコーチには、2006年にソフトバンクでプレーしたD.J.カラスコが名を連ねている。

7か国による「多国籍軍」

 選手は、計35人。ニュージーランド人は12人で、大半が国内クラブチームから集めた選手のようで、アメリカのマイナーリーグでのプレー経験がある者は、ルーキー級でプレーした2人だけである。今シーズン以前にABLでプレーした者も、この2人以外にはあと1人しかおらず、国内での選手層の薄さがうかがえる。また、オーストラリア人も3人加わり、アメリカ人も9人いるが、その中には、アメリカでのプレー経験のない者もいる。また、カナダ人1名もプロ経験がないが、これは現地で行われたトライアウトで採用したものだろう。

 日本人選手6人のうち、2人は同じように現地トライアウトをきっかけに入団しており、開幕7連敗後のチーム初勝利の試合でホールドポイントを挙げた奥本涼太投手は、2010年に広島広陵高校の一員として甲子園に出場した元高校球児で、ニュージーランドの大学から地元オークランドの企業に就職し、クラブチームでプレーしているところでトライアウト合格を勝ち取ったという。同じく元東海大高輪高校の捕手、金子隆浩もワーキングホリデー中にトライアウトを受け、入団が決まったという。彼らのうち奥本はシーズン前半までの契約で、今週末からのオーストラリア遠征以降はチームには帯同しない。

オークランドでのトライアウトを経て入団した金子隆浩。ここまで2試合に出場している
オークランドでのトライアウトを経て入団した金子隆浩。ここまで2試合に出場している

 この現地採用のふたりと、ロッテからの野球留学の3人以外にもうひとり、独立リーグから香川オリーブガイナーズで今シーズン抑えを務めた原田宥希もこの新チームに参加している。彼は、大阪の名門、大体大浪商高校からクラブチームを経て2015年に四国アイランドリーグplusに活路を求めたピッチャーだ。昨年は、3勝5敗に終わったが、今季は150キロのストレートを武器に、2勝2敗16セーブ防御率1.47を挙げ、最優秀防御率と最多セーブのタイトルを獲るもドラフトにはかからず、ABLでチャンスをつかむべく奮闘している。先述した球団初勝利の試合では、最後に登板し、見事ニュージーランド球団初勝利の勝利投手となっている。

 地元ニュージーランド、アメリカ、日本勢に次ぐのが、台湾勢だ。台湾のプロリーグ、CBBLは、長年ABLに多くの選手を送り込み、来年からはオーストラリア人チームをリーグに参加させる方針を示すなど、オーストラリア球界とのかかわりが強い。新球団にも、統一セブンイレブンライオンズの控え捕手、クオ・チュンウェイ(郭峻偉)をはじめ3人が在籍している。このほか、MLBが江蘇省に設置したアカデミー出身で、ボルチモア・オリオールズ傘下のマイナーでプレーする中国人選手、許桂源(シュ・グイヤン)もメンバーに名を連ねるなど、このニュージーランド初のプロ野球チームは、実に7か国からの選手によって構成される「多国籍軍」である。

ニュージーランド野球の未来を担って

トゥアタラの本拠、マクレオドパーク。広大なフィールドに柵をしただけの粗末なものだが、来シーズンは郊外の競技場を野球用に改装して使用する予定である
トゥアタラの本拠、マクレオドパーク。広大なフィールドに柵をしただけの粗末なものだが、来シーズンは郊外の競技場を野球用に改装して使用する予定である

 チームは、11月23日の地元開幕当初は、市北郊のマクレオドパークという、まさに公園の広場みたいな簡易スタンドのみの球場で試合を開催していたが、先週末のシドニー戦までのホームゲーム3カードを消化したところで、ニュージーランドを離れ、アデレードとメルボルンの中間に位置する南オーストラリア州マウントガンビアを臨時のホームとしたトラベリングチームとして残りのシーズンを転戦するという。選手層の薄さは、そのまま6勝16敗という成績に表れているが、ニュージーランド野球発展のためにも、日本人選手の活躍が期待される。

 ロッテの3選手と金子は今週末のマウントガンビアでのシリーズまで帯同し、チームを離れるという。

(写真提供 オークランドトゥアラタ球団スタッフPo-Hsuan Kuo氏) 

ベースボールライター

これまで、190か国を訪ね歩き、22か国でプロ、あるいはプロに準ずるリーグの野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当、WBC2017年大会ぴあのガイドの各国紹介を担当した。国内野球についても、プロから独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。

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