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アジア大会野球日韓戦。背水の陣で臨んだ韓国が一発攻勢で社会人侍を沈める

阿佐智ベースボールジャーナリスト
崖っぷちからの金メダルに望みをつないだ韓国代表チーム

 インドネシアで行われているアジア大会、大国・中国に続くメダル合戦を繰り広げている日韓両国だが、昨日はともにサッカー競技において決勝進出を決めた。今日30日、両国代表は野球で激突した。

 今大会のフォーマットは、まず予選にあたるラウンド1を行い、タイ、スリランカ、ラオスの3か国からラウンド2に進むチームを決定(タイが勝ち抜け)。その後、4か国ずつが2グループに分かれての総当たり戦・ラウンド2を実施し、この上位2チームがスーパーラウンドでまだ対戦していない他グループの2チームと対戦の上、ラウンド2、スーパーラウンドの通算勝率上位2チームが決勝を争うというものである(ラウンド1敗退チームも順位決定ラウンドを実施、スーパーラウンド勝率3,4位チームも準決勝を行う)。

 日韓両国は、今回別グループに属していたので、この日が初対戦。韓国は、兵役免除の関係もあって、オールプロで代表を組織、国内プロリーグを休止しての必勝態勢で臨んだが、初戦の台湾(チャイニーズ・タイペイ)戦でよもやの敗戦を喫している。さらに圧倒的な実力差がある香港戦でもコールド勝ちを収めることができず、国内メディアからも厳しい目を向けられる中での、宿敵・日本との対戦となった。韓国は、日本戦に敗戦すると、決勝進出がなくなるという立場。まさに背水の陣でこの試合に臨んだ。

 一方の日本は、アジア大会恒例の社会人代表の布陣。国際大会のプロ化の中、近年アマチュア代表では苦戦を強いられている。アジア大会について言えば、自国開催となった1994年広島大会以後、金メダルから遠ざかり、それ以降、4回の優勝を誇る韓国と、2006年ドーハ大会を制した台湾の後塵を拝している。それでも、このドーハ大会では、今回同様オールプロで臨んできた韓国を破り銀メダルに輝くなどしているので決して勝てない相手ではない。

 今回は、大会直前に投手陣の中心と期待された吉川峻平(パナソニック)がメジャー球団との契約問題で出場を辞退するなどしたが、台湾戦のようなロースコアに持ち込めば、お家芸のスモールベースボールを駆使して活路を見出せる。

 事実上の決勝戦と言っていい宿命の日韓戦は、現地時間正午、ゲロラ・ブン・カルノ野球場でプレーボールとなった。

試合前の整列をする日本代表
試合前の整列をする日本代表

プロの意地、韓国打線が爆発

 韓国はチェ・ウォンテ(ネクセン・ヒーローズ)、日本は佐竹功年(トヨタ自動車)を先発にたててきた。

韓国先発のチェ・ウォンテ
韓国先発のチェ・ウォンテ

 もう後がない韓国は、2回表に1アウト1,2塁のチャンスを作るが、佐竹も持ち前の速球でこのピンチを逃れる。日本の方も、同じく2回の1アウト1塁のチャンスでエンドランを絡めてくるなど(結果はサードゴロ)、足を絡めた攻撃で得点の糸口を探りにかかる。

 しかし、日本のスモールベースボールをあざ笑うかのように、韓国打線は3回に火を噴いた。

2点目となるソロホームランを放つパク・ピョンホ
2点目となるソロホームランを放つパク・ピョンホ

 第1打席でもチーム初安打となるセンター前ヒットを放っていたキム・ハソン(ネクセン)が、レフトポール際に特大のソロホームランを放つと、4番パク・ピョンホ(ネクセン)がセンターバックスクリーン左、フェンスギリギリに入るソロで続く。4回にもラストバッター、ファン・ジェギュン(ktウィズ)がレフトにソロを放つと、5回にはヤン・ウィジ(トゥサン・ベアーズ)のライトへのツーベースで2点を追加し、プロの打力を日本に見せつけた。

 守りの方でも、2回裏の2アウト2塁のピンチで、松本桃太郎(ホンダ鈴鹿)の強烈なファーストへのゴロを、イレギュラーしたにもかかわらず、ホームランを打ったパク・ピョンホがダイビングキャッチ。勝利への執念を見せつけた。

名物の美女チア軍団まで駆け付けた
名物の美女チア軍団まで駆け付けた

 スタンドの様子は、1塁韓国側はオールプロでの必勝態勢ということもあって、名物の美女チアまで引き連れての大応援団が陣取る。ナショナルチームやプロ各球団のユニフォームを身にまとった500人近くのファンが声援を送る。韓国名物の応援歌に、地元インドネシアのスタッフもつられて応援に加わっている。例の「テーハミング!」の大声援に押されて韓国は息を吹き返したと言ってもいいだろう。

熱心な応援を送る韓国応援団
熱心な応援を送る韓国応援団

 一方の日本側の3塁スタンドもほぼ埋め尽くされていたが、序盤は、派手な応援はなく、日本側のプレーに拍手が送られていただけだった。仕事の都合でジャカルタに来ていたという3人組は、「たまたまこの試合があるって知ってきました。好カードでよかったです」とのこと。それでも、試合中盤以降には、「ニッポン」コールが起き、その声に押されるかのように、日本は6回裏に4番笹川晃平(東京ガス)の犠牲フライで1点を返した。

 しかし、ここまで。得意なはずの守備走塁でも内野の送球エラーや牽制死があり、韓国の圧倒的な打力の前に終始押されっぱなしのゲームとなった。

 日本は明日の台湾戦に敗れれば、決勝進出の可能性はなくなり、逆に崖っぷちに立たされた。明日の戦いに期待したい。

(写真は全て筆者撮影)

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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