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びわこに巨人がやってきた:ルートインBCリーグ滋賀ユナイテッド対巨人三軍による「びわこクラシック」

阿佐智ベースボールジャーナリスト
滋賀県東近江市・湖東スタジアムで行われた滋賀ユナイテッド対巨人三軍のゲーム

 滋賀県東近江市と言えば、この春、ちょっとした騒動を巻き起こした町だ。近江商人発祥の地と言うことと春に山で採れるタケノコくらいしかお国自慢のない、湖東の田園風景がひたすら広がるこののどかな町で、人気アイドルグループ、ももいろクローバーZがスタジアムライブを開いたのだ。あれから3か月、すっかり静寂を取り戻し、蝉の声だけが緑の中鳴り響くこの町に、再びちょっとした「祭り」がやってきた。

「びわこクラシック」第1戦が行われた湖東スタジアム。アメリカマイナーリーグのショートシーズンクラスのそれを彷彿とさせるスタジアムだ
「びわこクラシック」第1戦が行われた湖東スタジアム。アメリカマイナーリーグのショートシーズンクラスのそれを彷彿とさせるスタジアムだ

独立リーグ球団にとって年1回のビッグイベント、巨人戦

 独立リーグ球団、滋賀ユナイテッドについては、先日ご紹介したが(「猛暑に負けず、白球と夢を追い続ける独立リーグ球団、滋賀ユナイテッド」, https://news.yahoo.co.jp/byline/asasatoshi/20180722-00090184/)、先週末、ルートインBCリーグの公式戦として、年1回の巨人三軍との3連戦シリーズが行われた。集客に苦戦している球団にあって、三軍とは言え、名門球団とのシリーズはドル箱と言ってよく、昨年は3連戦で約6000人を動員、まさに「夏祭り」と言っていいビッグイベントとなった。

 プロ(NPB)を目指す滋賀の選手たちにとって、NPB球団との対戦は、スカウトへのアピールの絶好の機会であることはもちろんだが、普段より多い観客の前で、お祭りムードに包まれた中プレーすることは、独立リーグではあっても、自分たちがまぎれもなく「プロ」であることを感じさせてくれる場でもある。創設2年目で、ルーキーが大半を占めるこのチームにあって、去年の賑わいを知らない選手の中にも、このシリーズを目標にプレーしてきた選手が多い。

 入団2年目の主将、北本亘は、昨年体験してみて、この年1回のシリーズがチームにとって特別なものであることを実感している。いつもの試合とは違う盛り上がりぶりを知っている彼は、「巨人戦」のブランド力の前に、このシリーズ前にはどうしても気持ちが高ぶってくると言う。

「お客さんもたくさん入りますので、いつもの試合と一緒というわけではないですね、やっぱり」

名付けて「びわこクラシック」

 今年のシリーズは、7月27日からの3連戦。初日の会場は、東近江市の湖東スタジアムだった。JR東海道線(最近は琵琶湖線という)の近江八幡駅から2両編成のローカル電車に乗って20分。ももクロのライブの際は、押し寄せたファンでパニック状態になったというこの路線だが、この日の車内は、買い物客らしき人と地元学生で座席の3分の1ほどが埋まる日常のそれだった。

 終点・八日市まで来ると、京阪近郊のベッドタウンという雰囲気は全くなくなり、独立リーグ行脚でよく見かけるシャッター商店街のあるさびれた地方都市の空気が漂っていた。こういう町でこそ、「おらが町のプロ野球」としての独立リーグが展開されるべきだと私は考えている。滋賀ユナイテッドの存在意義も、こういうところでプロ野球興行を行うところにあるのだろう。このチームがあってこそ、あの巨人のユニフォームがフィールドで躍動する姿をこの田舎町の人がみることができる。

 駅前からは、今や地方都市御用達と言っていい、自治体の補助によって運行されるミニバスに乗る。この日の試合に合わせて球団が運行していた無料のシャトルバスについては、球場に着いてから知った。

 田園風景の広がる中バスは走り、20分ほどでたどり着いた役所前でバスを降りた。そこから徒歩5分ほどのところにある運動公園の中に球場はあった。内野の端と外野にある芝生席を含めて収容3500人という小さな球場は、アメリカの田舎にあるマイナーリーグのボールバークを思わせた。

 この日の試合は、滋賀ユナイテッドにとって数少ないナイトゲームだ。

「やっぱりナイトゲームはいいよね。朝ゆっくりできるしね。相手が巨人っていうのは僕にはあんまり関係ないけど。なにしろウィンターリーグでは名だたるメジャーリーガーと一緒なんだから」

とコーチ兼任のベネズエラ人スラッガー、ジョニー・セリスは、ナイトゲームを歓迎していた。もうベテランの域に入っている彼にとっては、巨人といえども、対戦相手のひとつにしか過ぎないようだ。

「でも、若い選手たちは気合入っているよ」

とシートノック後の立ち話で、ロッカールームの雰囲気を伝えてくれた。

試合前のトークショーでユナイテッドの選手とともにインタビューを受ける滋賀出身の坂本工宜(こうき)投手
試合前のトークショーでユナイテッドの選手とともにインタビューを受ける滋賀出身の坂本工宜(こうき)投手

 

 変則的な軌道をとる台風12号のせいで天候が心配だったが、試合は予定通り行われた。試合が始まると、ネット裏から1、3塁ベースまでに観客席が5段という小さなスタンドは、7割方埋まった。この夜の観衆は昨年並みの約800人、収容人数とアクセスを考えると上々と言えるだろう。スタンド席だけでなく、その奥の内野芝生席にも涼を求めたファンが陣取るなど、この日のスタジアムは普段にはない賑わいをみせた。スタンド外に陣取る、近隣の飲食店による露店もいつもにはない賑わいをみせていた。試合半ばのイニング間に花火が打ち上げられると、スタンドは大いにわき、お祭りムードは最高潮に達した。

是非とも夏の恒例行事に

力投する滋賀ユナイテッド、鈴木志廣投手
力投する滋賀ユナイテッド、鈴木志廣投手

 試合そのものは、初回に2点を先制し、3回と9回に青山誠(2013年育成ドラフト1位)のホームランが出るなど、終始巨人が圧倒、滋賀のファンにNPBの実力を披露し、7対1で滋賀を下した。地元球団の勝利を願ってスタンドに駆け付けたファンは残念がったが、「びわこクラシック」とでも呼ぶべき、地元球団と名門チームの対戦という少し早めの夏祭りを堪能して家路についた。

 翌日、甲賀スタジアムでの第2戦は、台風が近づく中だったが、無事、挙行された(3対10で滋賀の敗戦)。しかし、3戦目、一番収容人数の多い、ホームグラウンド、守山市民球場でのゲームは、台風一過の青空の中挙行されるかと思われたが、突然の大雨でグランドコンディション不良となり、ノーゲームとなった。2敗の上、一番の大入りが見込まれた最終戦がキャンセルとなり、少々残念な結果に終わったが、湖国滋賀に蒔かれたプロ野球の種が根付くように、このシリーズを続けて欲しいものである。

たくさんのファンが球場に詰めかけた
たくさんのファンが球場に詰めかけた

(写真は全て筆者撮影)

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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