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奥深いメキシコの野球システム:年を通じて複数のリーグが存在するメキシコ

阿佐智ベースボールジャーナリスト
今やウィンターリーグ最強と言われるようになったメキシカンパシフィックリーグ

 横浜DeNAの乙坂が4割を超える大活躍をしたことで、野球ファンにもすっかりおなじみになった中南米のウィンターリーグだが、その実態はまだまだ日本では知られていないように思う。この冬、私はほぼ10年ぶりに中米のウィンターリーグを訪ねた。そこで、これからしばらくは、この取材にもとづき、ウィンターリーグの今をお伝えしていきたい。まず初回は、ウィンターリーグに絡めて、メキシコのプロ野球について語っていく。

ウィンターリーグとは

 ウィンターリーグとは北米メジャーリーグ(MLB)の下請けリーグのように考えている人が多いと思うが、その見方は半分正解で、半分は間違っている。もともと中南米のプロ野球リーグはMLBとは無関係に自己発生したものであり、長い歴史を経てMLBのもと組織化されていった。その過程で、夏季に行われていたリーグもメジャーリーガーのオフシーズンの稼ぎ場、あるいはマイナーリーガーのトレーニングの場となるべくウィンターリーグとなっていった。

 現在MLBの公式サイトの一部として、ウィンターリーグの雄を決めるカリビアン・シリーズにチャンピオンチームを送る、ドミニカ共和国、ベネズエラ、プエルトリコ、そしてメキシカンパシフィックリーグの4リーグのサイトが存在することは、これらのリーグがMLBの事実上のマイナーリーグと化していることを示しているが、現地では、MLBのファームなどではなく、その国・地域の「プロ野球」として認識され、ファンの心をつかんでいる。

==大小のリーグが林立==

 メキシコプロ野球の歴史を振り返ってみれば、1925年創設という日本のプロリーグ、NPBより古い歴史をもつメキシカンリーグが、一番の老舗で、春から夏に行われるこの全国リーグが、この国の「ナショナルリーグ」ということになる。

 その勃興期には様々なリーグが林立したアメリカのプロ野球が、比較的早い時期にMLBを頂点とした序列の形成と組織化を進めたのに対し、メキシコでは、メキシカンリーグがMLBに対抗し、「第3のメジャーリーグ」たろうとアメリカから選手を引き抜くと、これに対抗してMLBが傘下のマイナーリーグをメキシコに作るなど、各リーグの組織化がなかなか進まなかった。さらに年中プレー可能にする(実際は、冬はかなり寒いが)温暖な気候から、国内に複数あるプロリーグが、異なる時期にリーグ戦を開催し、選手も年を通じて複数のリーグを渡り歩くというこの国独特のプロ野球のあり方を形作っていった。

 その後、メキシカンリーグがMLB傘下のマイナーリーグの統括組織であるナショナルアソシエーションに加盟し、3A(最初は2A)クラスのマイナーリーグとなると(但し北米内のマイナーリーグ球団とは異なり、メキシカンリーグ球団はMLB球団の選手を受け入れるファームチームではなく、リーグ運営もMLBから独立して行われる)、夏の全国リーグであるこのリーグと、メジャー球団が傘下の選手を送り込む冬のメキシカン・パシフィックリーグの2大リーグ制が確立していき、さらには、地方に点在していた諸リーグも淘汰され、メキシカンリーグのファームリーグとして組織化されていった。

メキシコプロ野球の現在

 現在、メキシコのプロ野球リーグは、夏シーズンに関して言えば、ナショナルリーグたるメキシカンリーグを頂点とし、その下部リーグとして太平洋岸北部に展開される北メキシコリーグが2A級のファームリーグとして、ヌエボレオン州にあるアカデミーでA級リーグが実施されるという、アメリカ同様のファームシステムが確立されている。これらのリーグでプレーする選手は基本的にメキシカンリーグ各球団と契約を結んだ選手である。

 そしてこれら夏季リーグのシーズンが終了すると、冬のファームリーグが実施される。昨年まではメキシコ高原と野球の盛んなユカタン半島で2つのリーグが若手選手により実施されていたが、今シーズンはメキシコ高原で1リーグのみが開催された。このメキシカンウィンターリーグに加え、アカデミーでも、ルーキーリーグが秋から冬にかけて開催される。

メキシカンリーグの冬のファームリーグ、メキシカンウィンターリーグ
メキシカンリーグの冬のファームリーグ、メキシカンウィンターリーグ

 それとは別組織により運営されるのが、NPBの選手も参加したメキシカンパシフィックリーグである。その名の通り太平洋岸諸都市にフランチャイズを置く地方リーグだが、皮肉なことに夏のメキシカンリーグよりはるかにレベルは高い。それもそのはずで、メキシカンリーグのチーム数が16であるのに対してこのリーグのチーム数はその半分の8、平たく言えば、メキシカンリーグの上位半分の選手しかここでプレーできないのだ。その上、このリーグには夏はアメリカでプレーしていたメジャーリーガーやマイナーリーガー(もちろん低いクラスの選手はこのリーグではプレーできない)も加わる。そのレベルの高さからこのリーグは人気も上々で、実は1試合当たりの観客動員数では、MLB、NPBに次ぐ世界3番目の人気リーグなのである。

 メキシカンパシフィックリーグ各球団はメキシカンリーグ球団とは別に選手との契約を結ぶ。MLBやNPBと違い、メキシカンリーグはシーズン中しか選手に報酬を支払わないから、それ以外の時期に選手がどこかでプレーすることについては基本関知しない。指導者もまたしかりだ。だから夏は敵方で戦っていた指導者や選手が冬はチームメイトとして戦うことは当たり前だ。サインや作戦は筒抜けじゃないかと思うのだが、これもまたメキシコ野球の特徴であり、ひるがえってみれば、このことがナショナルチームの一体感にもつながっている。

 さらに、大西洋岸ベラクルス州には独立リーグも存在する。このリーグのチャンピオンは、カリビアンシリーズへの出場をいまだ認められていないコロンビア、ニカラグア、パナマ、そして新設されたオランダ領キュラソーのウィンターリーグチャンピオンとラテンアメリカシリーズを行う。

冬季節に行われる独立リーグ、ベラクルスリーグ
冬季節に行われる独立リーグ、ベラクルスリーグ

 さらに、この国には季節を問わず、各地に地元企業や公共団体の支援を得たプロアマ混合のセミプロリーグが行われ、冬季にはこういうリーグでもメキシカンリーグの選手がプレーしている。

南部ユカタン半島で行われたメリダリーグ
南部ユカタン半島で行われたメリダリーグ

 次回からは、この冬取材した、数あるウィンターリーグをひとつずつ紹介していく。 

(写真はすべて筆者撮影)

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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