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とある“おじさん”に誘われて始めたラグビー、“サクラセブンズ”山口真理恵が語るリオ五輪への思いと夢

浅野祐介OneNews編集長

2016年夏のリオデジャネイロ五輪に出場する7人制女子ラグビー日本代表“サクラセブンズ”。その中心を担う山口真理恵選手に、五輪への思い、女子ラグビーの魅力を聞いた。

――2016年リオオリンピックから正式種目となる女子7人制ラグビー。サクラセブンズも五輪出場を決めました。今回の五輪から新たにこの競技に注目するファンも増えると思いますが、あらためて、山口選手の感じる、女子7人制ラグビーの魅力や見どころを教えてください。

7人制ラグビーは15人制と同じフィールドでやるので、すごくダイナミックで、大きな展開の動きだったり、ボールがたくさん動いたりして、見ているほうもすごく楽しめるんじゃないかと思います。それから、試合時間も15人制より短いので、そういう点でも見やすいと思います。「サクラセブンズ」というチームも、選手一人ひとりの体は大きくありませんが、粘り強いディフェンスやプレーをしていて、速いテンポでラグビーをすることが私たちの課題であり、目指してやっているところなので、そういったスピーディーなプレーを見てもらえたらと思います。

――フィールドの広さは同じなのに人数が少ないというのは、かなり体力が求められますよね。

特に今のサクラセブンズは、速いテンポで、一人ひとりが「1人分の運動量」ではなく「2人、3人分の運動量」が求められるチームです。ものすごく走って、ものすごく動いて、その運動量で相手を疲れさせて倒すという狙いがあります。フィールドも15人制の広さですし、一人ひとりの動く範囲も広いので、走る量なども考えると、かなりたくさん動いているかなと思います(笑)。

――これは女子ラグビーならでは!というポイントや男子ラグビーとは違った見どころなどはありますか?

女子ラグビーも、国ごとにそれぞれのスタイルがあります。日本でも男女で全く違うラグビーをしています。男子の場合、一人ひとりの「個人の力」が強いので、一つのステップであったり、動きであったり、それこそ、10秒とか20秒あったらトライを決めてしまうような速い展開が特徴です。女子だと、それは少し難しいですけど、男子の場合は「何秒の世界でボールが動いて」というシチュエーションがあるので、見ていて面白いと思います。

――国による違いというのは、具体的に言うと?

たとえばフィジー代表の話をすると、片手でボールをつないで、後ろに下がったりしながら何をするかわからない動きを見せてから取りに行くとか、トリッキーなスタイルが特徴です。ニュージーランド代表はパスのスキルが高くて、スピードだけでも相手を抜いていったりとか、様々なスタイルがありますね。「こういうチームがこういうプレーで勝つんだ」とか、そういう見方も面白いと思います。

――海外の選手とは体格の違いなどもありますよね。

そうですね。特に、サクラセブンズの選手は細かったり、小柄だったりする選手が多いです。オーストラリア代表のプレースタイルも特徴的ですね。タッチラグビーのような動きをしたり、もともとタッチラグビーの選手だった方がラグビーに転向してきたりしています。オーストラリアは、ボールのパススピードや運び方が面白いですね。それから、フィジーは、女子も男子と同じように片手で運んできたりします。

――山口選手は中学時代、陸上部に所属されていました。ラグビーを始めたきっかけを教えてもらえますか?

小学生のときに近くの公園で遊んでいたら、とある“おじさん”が「一緒に遊ぼうよ」って声をかけてきて(笑)。その人が、楕円形のボールを使っていて、それがタグラグビー(※腰に付けたタグを取ることでタックルの代わりとするもの)だったんです。いつの間にかそのおじさんが小学校の放課後に進出してきて(笑)、みんなで缶けりとか竹馬とか、一輪車で遊んでいたときに現れて、気づけば、みんなでタグラグビーをやるのが放課後の習慣になっていました。1年生から6年生までの希望者が毎日放課後に集まってやっていたんです。で、そのおじさんというのが、女子ラグビー日本代表の鈴木陽子選手のお父さんだったんです(笑)。

――しばらくは誰なのかわからないままだったんですか?

わかりませんでした(笑)。とにかく、おもしろいおじさんだなって(笑)。鈴木陽子選手とそのお兄さん、私の一つ下なんですけど、(神奈川県横浜市鶴見区の)汐入小学校で一緒にやらせてもらって、タグラグビーは小学4年生からやっていました。その後、中学生になったときに、たまたま男子チームと試合をする機会があって、学校の校庭に幅跳びとかでも使う砂場がありますよね、その砂場で、急にタックル練習をさせられました(笑)。気づいたら練習をしていて、気づいたら試合をさせられて……っていう感じです。だからかもしれませんが、ラグビーに対してなんの怖さもなく、試合に出ちゃいましたし、純粋に楽しいなって気持ちで始めました。“おじさん”の導入がうますぎましたね(笑)。

――“おじさん”のおかげで、「楽しい」という思いでラグビーを始められたんですね(笑)。

タグラグビーの延長でやっていって、できちゃって、本当に楽しいなという感じでした。いつの間にか、やっていましたね(笑)。

――ドラマとか映画みたいな話ですね(笑)。あらためて、ラグビーが競技として自分に合っているなと思うのはどんなところですか?

もともと「ただ走るだけ」というのはあまり好きじゃなくて、陸上部に所属していたときも、ただ走るだけではなく、いろいろな種目をやっていました。ラグビーは走るだけじゃなくて、格闘技みたいな要素もあったり、ボールを蹴ったり投げたりと、いろいろできるので飽きがこないというか、とても自分に合っていると思います。私、鬼ごっこがすごく好きだったんです(笑)。追いかけたり追いかけられたりっていうのが本当に楽しくて、タグラグビーはまさに鬼ごっこなので、今までやってきた動きと似ていたなと感じましたね。

――フィールドの広さは15人制ラグビーと同じですが、プレーヤーの人数は7人。やはり、普段のトレーニングも相当ハードなものになるんですか?

そうですね。トレーニングはほぼ毎日で、試合以上の負荷をかけて練習をします。1日で3、4部の練習すると、結構きついですね。

――日々のトレーニングで重視しているポイントはありますか?

日々の体のコンディションをしっかりして、トレーニングをすることですね。

――毎日の積み重ねが大事ということですね。

「やればいい」というだけのトレーニングではないと思うので、疲れているときにただトレーニングをしてもあまり効果は出ないので、「正しいトレーニングを正しい時にやる」ことが大事だと思います。もちろん、メンタル的に強くしないといけないときは追い込む練習もしますけど、自分のコンディションを把握した上で、正しいトレーニングをして、けがを防止したり、質を上げることが大切ですね。

――トレーニングという意味では、「ティップネス」が「アスリート支援事業」を開始しました。ティップネスならではのサポートに期待することを教えてください。

最新のトレーニング内容をトレーナーさんが把握してくれているので、私としても、海外のトレーニングのトレンドや内容といった情報も受けられますし、それを実践してみて、自分に合うかどうかということもしっかり考えながら取り入れることで、パフォーマンスの向上につながると考えています。

フィットネスクラブで汗を流す山口選手

――今日もティップネスの施設で体を動かされていましたが、設備などはいかがでしたか?

細かな道具まで、トレーニングに必要なものがティップネスさんにはすべて揃っています。どの競技でも最近はアクティベーションを大事にしていると思いますが、ただ練習するだけじゃなくて、練習する前の10分、30分を使って自分の体の感覚が鈍いところや、良くないところを道具・器具を使ってしっかり呼び起こすことができます。しっかり刺激して、けがを防止することにつながる設備が整っていますし、クールダウンも含め、幅広いサポートが得られると感じています。

――「体を鍛えたいな」、「体を動かしたいな」と考えている女性に向けて、「こういう風に楽しんでみてほしい」というアドバイスがあれば教えてください。

私、スポーツジムって大好きなんです。みんなが頑張っている姿を見て、モチベーションが上がります。いつもはラグビーのメンバーが一緒に頑張っていますが、それは仲間なので、ジムではみんなが個人で来ているから、楽しんでやっていたり、一生懸命頑張ってやっていたりする人を見ると、刺激になると思いますし、いろんなプログラムがあるので、挑戦すると新しい刺激になりますね。新しい絆や新しい楽しみのある時間を過ごせると思いますし、トレーニングって厳しいイメージがあるかと思いますが、リフレッシュの一つとして、気軽な気持ちでやってみるのもおすすめかなと思います。トレーニングは気持ち次第で変わると思うので、あまり難しく考えすぎずに、「一つの楽しみ」としてトライしてもらえるといいなと思います。

――2015年はラグビーへの注目が高まった一年でした。今後、人気の定着に必要なことは何だと思いますか?

環境を整えることが一つかなと思っています。ラグビーの認知度はすごく上がったと思いますが、一方で、「やる」か「やらない」か、ということですごく変わってくると思います。男子ラグビーは、数は少ないかもしれませんが、部活動があります。日本は海外と違ってクラブチームの文化があまりないので、スポーツを始めるきっかけは部活動が多いですよね。タグラグビーとかタッチラグビーは安全ですし、学校教育に入れてほしいなと思います。日本で一番早いのは、授業に取り入れることですから。安全なタグラグビー、タッチラグビーを通じてラグビーボールに触れる機会を作ったり、将来的に部活動に取り入れていくことで、環境が変わり、幅が広がっていくんじゃないかなと思います。

――自然と接する場所が用意されることが大切ということですね。

そうですね。たとえば、家庭によっては経済的な理由などがあるかもしれませんし、学校に通うほかに、クラブに入ったり、教室に通ったりというのが難しい場合もあると思うんです。ですので、幅広く触れてもらおうとするなら、教育の一つに取り入れることが大切かなと感じます。ただ一方で、ラグビーを教えられる人が少ないという問題もありますよね。体育などで取り入れるにしても、指導できる人がいれば、ちゃんとしたラグビーを教われると思います。今はいろんなスポーツが出てきているので、その中にラグビーがあっても面白いんじゃないかと思います。

――山口選手はラグビー以外のスポーツを見る機会もありますか?

はい、見てますよ。フィギュアスケートとか好きですし(笑)、サッカーも、なでしこの試合も見ています。それから、格闘技も好きです。特に中学生くらいの頃かな、格闘技が面白くてよく見ていました。

――尊敬しているアスリートはいますか?

澤穂希さんです。まず、日本代表に22年間もいたということが本当にすごいですし、ラグビーと似た環境の中で、自分で道を切り開いて結果を出した澤さんのことは本当に尊敬しています。

――道を開き、後ろに続く道を作った偉大なアスリートですね。ちなみに、スポーツ好きの女性に向けて、ラグビーをやってみて!とお勧めするなら、どんなポイントがありますか?

ラグビーは自由に動けるところが魅力だと思います。パスを投げて、ボールを蹴って、タックルもして、と、本当に自由なスポーツで、いろんなことができる競技だから楽しいと思います。ルールはもちろんありますが、他のスポーツに比べてプレーヤーの制限が少ないというか、キックだけ、投げるだけというスポーツではないので、そこがとても楽しいと思います。

――スポーツを離れたところで、今、はまっていること、マイブームはありますか?

(海外ドラマの)『プリズンブレイク』です。すごく遅いんですけど(笑)。リオからの帰りの飛行機で、たまたま見つけた『プリズンブレイク』を8時間くらい、ずっと、シーズン1を休むことなく見続けていました。おかげで、時差ボケしなかったです(笑)。話題になっているタイミングでは見る機会がなかったのですが、見たらとても面白くて。

――わかります。飛行機でのそういう“出会い”って、確かにありますよね(笑)。

今でも自分の中で流行っていて、今はシーズン2を見ています。ブラジルから帰国するとき、24時間くらい飛行機で移動していたんですが、私は時差ボケが治るのに時間がかかってしまうタイプなので、普段は本当に大変で……。寝ちゃダメな時に寝ないように映画を見ようかなと思って見たらら「こんなに面白いのか!」って(笑)。ちょっと時代遅れかもしれないけど、面白くてはまっています。

――ウォーカープラスは「おでかけ情報」メディアなのですが、おでかけで好きな場所は?

海が好きです。海辺の近くのカフェやレストランがおしゃれだったり、かわいいお店が多いのと、サーフ系のさわやかな感じもあって、そういったお店に行ったりとかするのが好きですね。海の近くに行くと、景色がきれいだし、癒される感じがします。これまで、港町に住んでいたり、留学先もシドニーだったので海が近くて、そういうところも影響しているのかもしれません。海外に行っても、海の近くでリカバリーをしたりします。海はすごく好きですね。

――オフの日など、チームメートと出かけることはありますか?

あります。

――女子トークが展開されたりするんですか?

基本的に、ふざけてますね、すごく(笑)。いわゆる「女子トーク」みたいなものはしないです。サンディエゴの海に遊びに行ったときは、オフの日が1日あったので、みんなでSUP(スタンダップパドル)をやって、みんなでゲラゲラ笑って、海の近くのレストランに行って、という感じでした。だいたい……下ネタですかね(笑)。キャプテンの中村千春選手が、下ネタ、大好きなんですよ。しかも中学生くらいのレベルの(笑)。合宿中とか本当にひどいですよ、特に疲れてくると(笑)。みんなで面白くなっちゃって、そういう話をしています。女子トークは、残念ながらしないですね(笑)。でも、そういう時間は本当にリラックスできる時間です。

――なるほど、リラックスできる時間があるのは大切ですね(笑)。では最後に、あらためてリオ五輪への抱負を教えてください。

リオでは金メダルを取ることが目標です。

――リオ五輪の先になるかもしれませんが、今後の目標と抱負、アスリートとしての夢を教えてください。

澤さんみたいなアスリートになりたいです。日本の女子ラグビーの新しい道であったり、文化といったものを、リオが終わってからも作り続けていけたらいいなと思っています。

――期待しています。読者に向けて「女子ラグビーを見にくるとここが面白い」というメッセージもお願いします。

セブンズってお祭りのようなイメージがあるんですが、海外であれば屋台がたくさん出ていたり、子どもが遊べるスペースがあったりして、楽しめる工夫がたくさんしてあるんです。いろんな格好で応援にきたり、選手も登場したりするので、日本でも仮装じゃないですけど、一つのイベントとして来てもらえるような機会が作れたらいいなと思っています。イベントとしても楽しめる、そういうふうに見てもらえたらいいなと思います。

リラックスした雰囲気の中で見せる笑顔と、ラグビーの話をするときの真剣な眼差し。女子サッカーで澤穂希が成し遂げたように、「日本の女子ラグビーの新しい道」を作っていきたいという山口選手のリオでの活躍に期待したい。

OneNews編集長

編集者/KKベストセラーズで『Street JACK』などファッション誌の編集者として活動し、その後、株式会社フロムワンで雑誌『ワールドサッカーキング』、Webメディア『サッカーキング』 編集長を務めた。現在は株式会社KADOKAWAに所属。『ウォーカープラス』編集長を卒業後、動画の領域でウォーカー、レタスクラブ、ザテレビジョン、ダ・ヴィンチを担当。2022年3月に無料のプレスリリース配信サービス「PressWalker」をスタートし、同年9月、「OneNews」創刊編集長に就任。

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