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都市部もマンション上階も水害と無縁ではない、個人で備えられる補償は?

浅田里花ファイナンシャル・プランナー(CFPⓇ・1級FP 技能士)
河川が近くにない都市部でも、想定外の水害に見舞われることがあります。(写真:アフロ)

◆他人事ではない水による被害

この度の、九州地方を中心に大きな被害が出ている集中豪雨により被災された方々には、心よりお見舞い申し上げます。

新型コロナによる脅威もまだまだ続きそうな状況下での、この度の水害。台風シーズンはこれからですから、夏から秋にかけての数か月間にさらなる水の被害が発生すると考えておいたほうがよいでしょう。「数十年に一度」と表現されるような豪雨が毎年のように各地で猛威をふるい、これまで大丈夫だったからと安心できなくなっています。

 

一昨年は関西で、去年は首都圏で大きな台風被害が出たのも記憶に新しいところです。鉄柱が倒れて近隣の建物などを壊したり、高層マンションが地下にある配電設備への浸水によって停電したりと、都市型の被害を目の当たりにしました。

日本全国どこに住んでも、豪雨や台風などの自然災害に遭うリスクを完全に回避することはできないでしょう。しかし、リスクを軽減させる対策をとることは可能です。経済面では、「火災保険」に適切に加入しておくことがそれに当たります。すでに火災保険に加入している人は多いと思いますが、いま一度、確認しておきましょう。

◆水の被害も補償、「火災保険」の守備範囲は広い

「火災保険」というと、火事による損害をカバーするイメージが強いですが、守備範囲はそれだけではありません。基本補償の「火災、落雷、破裂・爆発」では、火事以外に落雷による電化製品の故障や、ガス爆発による建物の損害なども補償されます。また、「風災、雹(ひょう)災、雪災」「水災」「水濡れ、物体の落下・飛来、騒擾(そうじょう、集団の行動によって被害が生じる状態)」「盗難」「破損・汚損」の補償をセットすることにより、幅広いリスクをカバーできます(損害保険会社によりセットできる内容はやや異なる)。

たとえば、非常に強い台風がきて隣の屋根瓦が飛び、わが家の建物に損害を与えたという場合、隣の家に弁償を求めたいところです。もし隣の家が、瓦が飛びそうな状態を放置していたなら過失を問えるかもしれませんが、対策をしていたにもかかわらず想定外の強風で飛んでしまったなら、損害賠償責任を問えません。

火災も失火責任法により、火元に重大な責任がない限り、賠償責任を問えないことになっています。自分の財産は自分で守るしかないわけです。そのために「火災保険」があり、加入しておくことで経済的な損失のカバーが可能となります。

火災保険は、「建物」と「家財」とに付けることができます。マイホームを持っている人は「建物」だけでなく、家具や電化製品をはじめ衣類などの生活に欠かせない「家財」も守る必要があるでしょう。それらをひとつひとつ買い直すとなると、大きな出費になってしまいます。賃貸物件に住んでいる人は、「建物」はオーナーの責任で守りますが、自分の財産である「家財」には入っておくべきです。 

◆マンションにも必要、水災に対する補償

台風や豪雨で「建物」や「家財」が洪水や土砂崩れなどの被害に遭った場合、「水災」として火災保険の補償対象になります。一般的に、保険金支払いの対象となるのは、(1)床上浸水または地盤面から45センチメートルを超える浸水による損害、(2)建物・家財の保険価額(時価あるいは同等の建物・モノを新たに建築・購入するのに必要な金額)に対して30%以上の損害。保険会社により補償の要件が違う場合があるので、必ず確認しましょう。

もし豪雨などで近隣の河川が決壊し、わが家にまで水が来てしまった場合、床上浸水による被害なら補償対象、床下浸水でも地盤面から45センチメートルを超える浸水であれば補償されます。家の裏の山や崖が崩れて埋まるなどした場合は、保険価額の30%以上の損害が出れば補償されるということになります。

マイホームの立地が河川の近くだったり、すぐ裏が山や崖だったりすると水災リスクが高いといえます。これまで被害がなかったからと安心できないので、国土交通省のハザードマップポータルサイトでわが家のリスクを確認しておくことをお勧めします。大きな被害が出ている地域は、ハザードマップとぴったり合っていることが話題になっています。

「うちの住まいは河川から離れているから心配ない」「平地だから崖崩れの被害はあり得ない」という人も、水災リスクがゼロとは言い切れません。近年は都市部でもゲリラ豪雨による水災リスクが高まっているのです。短時間に集中的に降るゲリラ豪雨で道路の排水が追いつかず、マンホールから水が溢れている様子をニュース映像でもよく見るようになりました。この水がわが家に浸水することも考えられます。

「うちはマンションの上階だから大丈夫」という人も、今後はわかりません。あまり想像したくありませんが、大雨やゲリラ豪雨により排水管が逆流し、トイレやお風呂から下水があふれ出る可能性もあるのです。この場合も、水災の補償対象となります。もっとも、補償されるされない以前に下水の逆流は防ぎたいですから、経験したことのないような豪雨の際は、逆流の可能性のあるトイレや排水口に「水のう(丈夫なビニール袋に適度の水を入れて作ればOK)」を置くようにしましょう。

また、マンションのベランダの排水が追いつかず、室内に流れ込むこともあり得ます。この場合も水災の補償対象となりますが、ベランダの掃除がされておらず、栽培している植物の枯れ葉が排水溝に詰まっているなど過失があると、補償が受けられなくなります。普段から水が十分に流れるよう、管理しておくことが大切です。

ファイナンシャル・プランナー(CFPⓇ・1級FP 技能士)

㈱生活設計塾クルー取締役、個人事務所リアサイト代表、東洋大学社会学部 非常勤講師。同志社大学文学部卒業後、大手証券会社、独立系FP会社を経て現職。一人ひとり・家庭ごとに合った資産設計、保障設計、リタイア前後の生活設計等のコンサルティングのほか、新聞・雑誌等への原稿執筆、セミナー講師などを行う。著書に『50代からの「確実な」お金の貯め方、増やし方教えて下さい』、『住宅・教育・老後のお金に強くなる!』、『お金はこうして殖やしなさい』(共著)など。生活を守り続けるにはマネーリテラシーを磨くことが大切。その手伝いとなる情報を発信していきたい。

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