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実質賃金が下がれば婚姻数は減る~少子化は「失われた30年」の経済問題を放置した報い

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:アフロ)

実質賃金大幅下落

厚生労働省が7日発表した1月の毎月勤労統計調査(速報)によれば、1人当たりの実質賃金は前年同月比4.1%減ったそうである。

こちらのニュースでも

と報じており、コメント欄もにぎわっている。

一方で、企業の賃上げのニュースもある中、なぜ実質賃金が下がるのか?と思う人もいるかもしれないが、賃上げ以上にインフレで物価高が進めば、実質賃金は下がってしまうのである。額面の給料があがっても、なんだかんだ差し引かれる額が多くなって可処分所得が減るのと同じことだ。

これが影響を及ぼすのは、直近の我々の生活だけの話ではない。実質賃金は向こう何十年にもわたる人口問題と直結することになるのだ。婚姻数が減り、出生数が減り、人口減少が加速する。

貧困国の出生率が高い理由

常々、私は、「少子化ではない、少母化である。少母化は婚姻の減少である」と訴えているが、その婚姻の減少を招いた一因として若者の経済問題があることは否めないだろう。

こう書くと、「金がないから結婚できないは嘘だ。じゃあ、なんで発展途上国などの貧困国の方が出生率が高いのか?」などの指摘がくるのだが、貧困国の出生率が高いからといって、決して「貧乏な方が子どもを産む」という因果にはならない。むしろ、貧困国がゆえに子どもをたくさん産まないとならない環境にあるといった方がいいだろう。

以前、「出生率は乳児死亡率が下がれば下がるほど下がる」という記事を書いた。

長寿国家の日本「平均寿命が延びれば出生率は必ず下がる」という事実

逆にいえば、出生が多い国というのは、乳児がたくさん死んでしまう国なのである。現在の日本は医療の発達などにより、乳児死亡率は1.0以下をキープしているほどとても低い。よいことである。生まれてきた子どもは死なずに成人していける国であるということだ。

世界一、乳児死亡率が高い国は、西アフリカのシエラレオネ共和国で、出生千対78.3(2021年世界銀行統計より)である。が、日本も終戦直後の1947年の乳児死亡率は76.7だった。明治時代は、それこそ153.8もあったし、江戸時代はもっと高かった。「7歳までは神のうち」と言葉や、七五三を言祝ぐのは、そうした乳幼児の死亡が多かったためだ。

出生率が高いということは、それだけ子どもが死んでしまう割合が高いことの裏返しであり、乳児死亡率が限りなくゼロに近づいた先進諸国が軒並み出生率が低下するのはそういうメカニズムによる。多くの国が「多産多死」から「少産少死」へと移行するのもそういうことである。

実質賃金と婚姻率の関係

同時に、「経済的問題があれば婚姻は減る」というものもデータの裏付けがある。

ネットニュースなどではよく、国税庁の民間給与実態調査の平均給与をベースに論じているが、平均という指標に意味はないし、額面の給料にも意味はない。その時の物価とあわせた実質賃金で見ないと正確性を欠く。

1990年以降の年実質賃金指数と婚姻率との相関をみてみよう。

驚くほど、実質賃金指数の下がり方と婚姻率の下がり方がリンクしていることがわかる。相関係数は0.8953で、強い正の相関がある。

額面の給料があがっても、税金や社会保障費がそれ以上に引かれて、ちっとも手取りが増えない。大幅に賃上げされたといわれても、それ以上のインフレが進んでいるから物が買えない。

そんな状況が、まさしく30年以上も続いているわけで、子育てどころか、恋愛や結婚など考える余裕もないというのが正直なところだろう。長らく「給料500万以上」というものが定番のように言われ続けてきたのは、それこそ30年間も給料があがっていないというデフレ状態だったからだ。

さらにいえば、こうした全体の実質賃金低下でもっとも苦境に立たされているのは、そもそもの実額給料自体が低い若者たちである。東京で大企業に勤める余裕のある若者はいいだろう。しかし、世の若者が全員キラキラ人生を送れているわけではない。

写真:イメージマート

真に求められる少子化対策

繰り返すが、少子化は、少なくとも結婚を望んでいる若者が若者のうちに結婚できずに、年を重ね、気が付いたら結婚する年齢を過ぎてしまったがゆえの非婚化によるものである。晩婚化ではないし、全員が選択的非婚でもない。真に求められている少子化対策とは経済対策である。景気の底上げである。

そうすると、また「若者の給料をあげれば結婚するようになるのか?」というくだらない揚げ足取りが出てくるのだが、そういう因果の話をしているのではない。「貧乏でも結婚する奴はいる」と言われればそれはいるだろう。しかし、こちらの記事(「金がないからイライラ?」現代夫婦の離婚事情がハードボイルド化)でも書いたように、離婚原因もまた経済問題だったりすることも事実だ。

経済問題だけではなく、そもそも社会的な結婚お膳立てシステムの崩壊など婚姻減の要因はひとつではないのは当たり前の話である。

少なくとも、この30年間のファクトをフラットに分析すれば、「若者が結婚しなくなった」のではなく「経済的に結婚できなくなった若者が増えた」という見方の方が妥当だろう。

子育て支援はそれとして別途やるべきだが、本当に少子化対策として出生数を少しでも増やしたいと思うのであれば、やるべきことは一過性のバラマキではなく、根本的な経済対策であり、少しでも若者の可処分所得が増えるような体制を整えない限り、何の効果も出ないだろう。

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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