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晩婚化など起きていない。起きているのは若者が結婚できない状況である

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:イメージマート)

晩婚化のせいではない

昨日、自民党の麻生副総裁が、「(少子化の)一番大きな理由は出産する時の女性の年齢が高齢化しているからです」などと発言し、少子化の最大の原因は晩婚化との見方を示したというニュースを見かけた。

「少子化は晩婚化のせいである」という言説は、一部の識者も言っているが、これは正しくはない。晩婚化など起きていないのである。

確かに平均初婚年齢の推移をみれば、皆婚時代だった1980年には夫27.8歳、妻25.2歳だったのに対して、2020年には夫31.0歳、妻29.4歳となっており、これだけ見れば、晩婚化していると思うかもしれない。しかし、それだけで晩婚化と断ずるのはあまりに短絡的である。

晩婚化としてしまうと「初婚の年齢が後ろ倒しになったので、いずれ結婚はするだろう」という安易な誤解を招く。

百歩譲って「晩婚化」はあったとしよう。しかし、「晩婚化」は少子化の直接な原因ではなく、むしろ本質的な原因によって生じた単なる表層にすぎない。

晩婚ではなく若者の婚姻減

では、実際に、ファクトを検証し、本質的な原因に迫ってみよう。

2021年の婚姻数は約50万組である。2010年はまだ約70万組もあった。この10年ちょっとの間に28%減である。出生数は2010年約107万人から2021年約81万人で減少率は24%であるから、大騒ぎしている出生減より婚姻数の絶対減の方が深刻なのである。

1980年から20年ごとの年齢別未婚人口に対する初婚達成率を男女別年齢別に比較したのが以下のグラフである。初婚達成率とは、当該年齢ごとに初婚数を未婚人口で割ったものだ。初婚達成率をわざわざ計算したのは、通常の婚姻率は分母の人口が総人口であることと、再婚を含めると昨今の離婚率の高さから、正しい指標にならないからである。

男性は25-34歳、女性は25-29歳での初婚達成率が激減しているが、かといって晩婚化しているかといえばそうでもない。実は35歳以上でみるとほぼ変化はないのだ。

女性に関しては、40年前も今も35歳以上の初婚達成率は完全に一致している。男性に至っては、むしろ1980年より2020年の方が35歳以上の初婚達成率は下がっている。これを見る限り、男女とも「晩婚化」とはいえない。

「晩婚化」というのであれば、少なくとも中高年の初婚達成率が上昇していないとおかしい。しかし、20代までの初婚達成率の低下に対して、それが決して30代以降に後ろ倒しになったわけではなく、35歳以上も40年前とたいした違いはないわけで、これは「晩婚化」ではなく、むしろ、「若者が若者のうちに結婚できなくなったから」だと解釈できる。

「共稼ぎすればいいじゃないか」というが…

「若者が若者のうちに結婚できないというが、今の若者は男女共稼ぎでいいというカップルが増えているのだから、決して夫となる男性の経済力ばかりを女性が求めているわけではない」という声もいただく。が、それはまったく実情に対して無知だというものだろう。

詳しくはこちらの過去記事(年収100万未満でも恋愛はできるが、結婚となると必要な年収はいくら?)を読んでいただきたい。この記事では、未婚の恋人同士のそれぞれの年収と結婚3年以内の子無し夫婦のそれぞれの年収を比較している。

結論からいえば、恋愛においては年収は関係ないが、こと結婚となると、望むと望まないとにかかわらず、結果として妻側の経済力上方婚(妻の年収よりや夫の年収が高い状態)になっているのである。

最近の初婚夫婦は経済力同類婚が増えている。年齢も同い年付近の結婚が増えていることはこちらの記事(「夫年上婚」が8割近くも激減しているのに「年の差婚」が減っているわけではない矛盾)でも紹介した通りだ。

仮に、夫婦ともに300万円の年収同士で結婚したとしよう。世帯年収的には600万円になる。だからって、「それだけあればなんとかなるだろう」なんて短絡的に考えてはいけない。

誰もが仕事を続けたい人ばかりではない。仕事より育児を優先したい人もいる。「会社の仕事なんて誰がやってもいい仕事。うちの子にとって親は自分たちだけ。子どもと過ごすかけがえのない時間を削ってまでやりたい仕事なんてない」と考える人もいる。人それぞれだ。

写真:アフロ

実際、0歳児をもつ母親は、以前より少なくなったとはいえ2015年国勢調査ベースでは61%が専業主婦になっている(1995年は79%)。

夫婦とも300万円同士で結婚した夫婦の場合でも、妻が専業主婦になった場合、夫だけの収入になれば、世帯収入が半分になってしまうことになるのである。

つまり、仮にほぼ同じ年収同士の若者が結婚したとしても、結婚さらにはその後の妊娠出産子育てへの移行にあたって、どうしても夫の一馬力にならざるを得ない、そんな夫婦の実情がある。

これは是非の問題ではなく、現実の話である。

未婚男性の年収の現実

そういう現実をふまえて、婚活女性は「年収400-500万円以上」という条件の中で相手を見つけているわけだが、結局実際に全国で400万円以上稼いでいるアラサー未婚男性がどれくらいいるかというと3割もいないのである(→「高望みはしません。年収500万円くらいの普通の男でいいです」という考えが、もう「普通じゃない」件

※グラフを再掲する。

未婚男性たちが満足のいく年収まで稼ぐように待っていれば、当然の帰結として未婚女性たちの結婚も後ろ倒しになる。後ろ倒しになっても結婚できるのならまだ「晩婚化」といえるだろう。が、ある程度の年齢を過ぎると、今度は、女性側に「年齢の限界点」が見えてくる。具体的に言えば、今後出産をするかどうかの分岐点である40歳という年齢だ。

そもそも、待ったとしても、未婚男性の側も30歳を超えても年収300万円にすら届かない場合も多く、額面で突破しても可処分所得は25年前より下がっているという現実もある(→結婚どころではない若者~給料が増えたように見せかけて、手取りがむしろ減らされている)。

提供:イメージマート

晩婚化ではなく結果として非婚化

このように、男も女も「まだ結婚できる経済力がない」などと遅らせているうちに、気付いたら「もう結婚できる年齢ではない」という時期になり、認知不協和を解消するために「自分はそもそも最初から結婚などするつもりはなかったのだ」と理屈付けて心の安定性を保つのである。

晩婚化ではない。結婚したい時、するべき年齢の時にできないがゆえの、結果としての非婚化なのである。生涯未婚率の急上昇はその表れだ。

何度でもいうが、少子化は「若者が若者のうちに結婚できなかった結果がゆえの諦婚化」によるものであり、それが婚姻減を発生させ、今、もうどれだけ一人の母親が多産しても追いつかないという少母化になっているのである。

政治家も、本当に知らないのか、知らないフリをしているだけなのかは不明だが、いつまでも事実をなかったことにして、できもしない耳触りのいい話で逃げるのには限度があるだろう。

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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