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「年収いくら以上」の婚活泥沼からの脱却~結婚か生涯未婚かを分ける「10%の条件緩和」

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:アフロ)

贅沢な消費となった結婚

「一人口は食えねど二人口は食える」といわれたように、かつて結婚は経済合理性のある共同体のはずだったのだが、昨今は「金がなければ結婚できない」とか「子育てには金がかかる」といわれはじめ、もはや結婚も子育ても、一定以上の経済力を持つ者だけが享受できる「贅沢な消費」となりつつある。

とはいえ、それでも初婚夫婦の中央値年齢は20代後半で、結婚する男女は20代で結婚しているということも事実である。

未婚と既婚とで、結婚に対する経済意識が違うのだろうか。

やや古い調査だが、2014年に内閣府が実施した「結婚・家族形成に関する意識調査」というものの中に、20-30代の未既婚男女に対して「結婚生活に必要な夫婦(世帯)年収はいくらか?」を聞いたものがある。

内閣府の報告書では平均値しか出していないのだが、平均値は総じて高くなりがちなので、中央値を計算して出してみた。

結婚に必要な夫婦年収

まず目に入るのが、30代未婚女性の値の高さだろう。唯一、中央値500万を超えて突出して高い。これが、いわゆる婚活系記事でよく取りざたされる「年収500万円くらいの普通の男でいい」というものになって表れるのだろう。

「高望みはしません。年収500万円くらいの普通の男でいいです」という考えが、もう「普通じゃない」件

未婚の男女を比べると、20代も30代もいずれも女性の方が高く、20代で約10万円、30代では約30万円もの開きがある。

結婚生活に必要な収入というのは、いいかえれば結婚相手に希望する相手の収入条件とも近しいものであり、この男女差が、そのまま結果として「成婚に至らない→適当な相手に巡りあえない」ということになっていくのである。

写真:イメージマート

しかし、よくよく見ていただきたいのは、未婚と既婚とを比較すると、未婚より既婚の方が金額が低い。つまり、結婚している人は、「いうほど結婚生活に必要な金額は高くない」と言っているのだ。しかも、既婚男女の場合は、男女差がほとんどない。

これに基づけば、20代で結婚するなら夫婦あわせて430万円くらいの年収、30代であれば470万円くらいの年収でなんとかなる、というより、実際の夫婦はなんとかしているということである。

ちなみに、これは全国値なので、地方と東京とでは多少違いがあり、東京含む首都圏で見た場合は、中央値502万円となる。

年収高望みの弊害

これをどう読み解くか、はいろいろ解釈が分かれる。

未婚時代は「結婚はお金がかかるものだ」と思っていたが、いざ結婚してみると、住居費や光熱費、食費など一人暮らししているより安くあがるということに気付いたという面もあるかもしれない。

また、別の解釈としては、「結婚は金がかかる」または「金がなければ結婚できない」などと金に取り憑かれた「高望みの未婚女性」だけが、いつまでも未婚のまま生涯を終えていくのだという見方もできる。同時に「高望みを要求されて、無理だと早々に結婚を諦める未婚男性」も生み出しているかもしれない。

「男の結婚には年収300万円の壁がある」とこちらの記事(→20代後半で年収300万円にも満たない若者が半分もいる経済環境では結婚できない)にも書いたが、20代で結婚した夫婦が430万円で暮らしていけるのであれば、300万円の夫と130万円の妻で十分可能な数字である。

中央値で出しているので、少なくとも20代の結婚している全国の夫婦の半分はこれでなんとかなると思っているわけである。

もちろん、収入は多いにこしたことはないが、収入が多くなければ結婚できないなんてことはなく、実際に結婚している夫婦はこんなものなのである。

写真:アフロ

10%の条件緩和

同性同士の未婚と既婚のこの金額の差を計算してみると、20代女性は既婚に対して未婚が9%高望みで、30代でも7%高い。しかし、そう計算してみると、それほど無謀な高望みをしているわけではない。むしろ、逆手にとれば、ざっくり10%ほど相手の経済条件を下げれば結婚しやすくなるという考え方もできるのではないか。

つまり、「年収400万」と言っていた女性は360万まで下げてみる。「年収500万」なら450万まで下げてみる。それだけでもしかしたら選択肢が増えるかもしれない。

一方、男性は、30代男性では未婚も既婚も大差はないが、20代男性では未婚の方が8%ほど高い。これも女性の10%の条件緩和が実現すれば解決する問題かもしれない。

…と、一見前向きに思えるようなことを書いたが、所詮数字上の話であって、実際のマッチングではそう簡単にはいかない。お金だけと結婚するわけではないからだ。

当然、食うに困るような貧困では結婚どころではないだろうが、とはいえ、一方で、45-54歳の生涯未婚対象年齢の未婚男性を見れば、確かに未婚率は高年収ほど低くなるが、実数でみれば年収500万円以上の正規雇用社員がもっとも数多く存在していたりする。女性の場合も年収400万円を超えると生涯未婚率が25%を超える。

決して、低年収だけが原因で結婚できないというわけではないところが「婚難時代」と呼ばれる所以なのだろう。

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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