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「ソロ温泉」に行ったことがある現役世代人口は推計1620万人~今後ますます拡大の予感

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:イメージマート)

成長した「ソロ旅」市場

以前、こちらの記事(→顕在化したソロ旅需要~「一人で旅行して何が楽しいの?」に対するソロ旅の利点)で、ソロ旅(一人での旅行)の市場が大きく拡大している事実を書いた。コロナ禍下の2020-2021年はさすがに落ち込んだが、それ以前の2019年には延べ市場人口約1億1370万人、年間消費金額約4兆1000億円は全国内旅行市場規模のおよそ2割を占める。

旅行といってもいろいろで、日帰り旅行もあれば、何かのイベントやフェス、スポーツの試合への遠征のために旅行する場合もあって、実はアイドルオタクや、スポーツ応援オタクにとっては、チケットなどの直接費用よりこの交通費と宿泊費という周辺消費がもっとも出費比率の高いものだったりする。

彼らは精神的に「アイドルオタク」「野球・サッカーオタク」ではあるものの、現実のお金や時間を費やしているコスト面からいえば「旅行オタク」なのだ。

「ソロ温泉」経験率は?

さて、ソロ旅の中に「ソロ温泉」というものがある。

一人で温泉旅館に泊まって、ゆっくりと骨休みをするというものである。部屋に露天風呂が備わっているような高級温泉旅館はかつてはなかなか一人客を受け入れていなかったが、現在では旅行サイトで予約する際に確認できるし、多くの旅館が一人での予約が可能となっている。

旅館側からしても、これだけ大きな規模になっているソロ客需要を無視できなくなっているからだ。

実際、男女年代別配偶関係別にどれくらい「ソロ温泉」を実施しているだろうか。

2020年の調査で、今まで「ソロ温泉を経験し、今後も行きたいと思っている」という割合で見ると未婚男性は30代51%を筆頭に全体で約4割、未婚女性でも約3割、2割程度の既婚男女と比較すれば、やはり独身者の「ソロ温泉」率が高い。

(C)ソロ経済・文化研究所 荒川和久
(C)ソロ経済・文化研究所 荒川和久

既婚男女に関しても、彼らが独身時代に行ったのか、結婚してから行ったのかまでは聞いていないが、そもそも「ソロで温泉に泊まる」ということができるようになったのが最近であることを考えれば、既婚者や家族であっても「たまにはソロ温泉に行く・行きたい」層が一定数いるということになる。

「ソロ温泉」の経験人口規模

割合だけで見てもビンとこないかもしれないが、この割合を2020年の配偶関係別人口と掛け合わせて「ソロ温泉」経験の人口規模(20-50代まで)を算出した。

これでみると、全体の「ソロ温泉」経験人口は約1620万人にのぼる。当該年代全人口の26%である。そのうち、圧倒的に未婚男性のしかも20-30代の利用が多い。ついで、40-50代の既婚男性である。

(C)ソロ経済・文化研究所 荒川和久
(C)ソロ経済・文化研究所 荒川和久

すでに「ソロ温泉」を楽しんでいる層はリピーターも多い。現状の「ソロ温泉」市場は、20-30代の独身男性によって支えられているといってもよい。

(C)ソロ経済・文化研究所 荒川和久
(C)ソロ経済・文化研究所 荒川和久

ちなみに下の写真は、私が「ソロ温泉」で宿泊した和歌山のとある温泉旅館の写真である。この露天風呂を贅沢に独り占めできるのも「ソロ温泉」の醍醐味である。

撮影 荒川和久
撮影 荒川和久

潜在顧客はもっといる

しかも、これはあくまで今まで行ったことのある人達だけである。「今後行ってみたい」という潜在需要を加えると独身者で6割、既婚者でも5割に到達する。

「行きたいと思いながらもなかなか踏ん切りがつかない」という層はまだまだ眠っているのだ。特に、今後人口が増え続ける中年未婚男性や行きたいけど行くきっかけのない女性客は狙い目である。それでなくてもいずれは独身と有配偶人口は同じになるのだから。

もし、それら潜在需要客が行くようになれば、「ソロ温泉」の市場規模は現在の約6000億円の2倍の1兆2000億円規模という大きな市場に成長する。これはオンラインゲーム市場の規模とほぼ同等である。「ソロ温泉」が増えれば自動的に現在4兆円規模のソロ旅市場も大きく増えるだろう。

このご時世、もうそんな時代遅れの人はいないと思うが、もし「ソロ客が増えても儲からないしなあ」などと考える旅館側がいるとするならばそれは大きな判断ミスである。

提供:イメージマート

ソロ旅やソロ温泉が活性化することは、単にソロエコノミーだけの話にとどまらない。「こないだ行ったあそこの旅館はよかった」と思えば、今度は友人や家族と一緒に出掛けることもあるだろう。旅行業界全体の好循環が生まれる。

そもそも、個人単位で見れば、旅というものは、独身ならばソロでしか行かないとか、家族ならば家族でしか行かないなんてことはないのである。ソロでもカップルでも家族でも団体でも、時と場合と気分によって選択肢が増えることの方がよいし、もっと気軽にソロでも行けるようになった方がよい。

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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