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日本の男はモジモジして満足に告白もできないというが、フランスやイギリスの男もたいして違わない

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:イメージマート)

昔も今も告白できない男

前回の記事(「デート経験なし4割」で大騒ぎするが、40年前も20年前も若者男子のデート率は変わらない)はヤフーのトップトピックスでも紹介されて大勢の方に読んで頂いた。

白書が出てからの当初のニュースでは、「4割もデートしたことないなんて情けない」系の中年おじさんの街頭インタビューなどをベースに「最近の若者は…」的な論法が目立ったが、この私の記事が契機となって「実は昔も今も変わらない」という紹介の仕方に変更されていた。

フジテレビの「ワイドナショー」でもMCの田村淳さんからこの記事の内容を取り上げて頂いたし、ネット番組「ABEMA的ニュースショー」においては、コメント出演までさせて頂いた。

昔も今もずっと変わらないのは、恋人がいる割合やデート未経験の割合だけではなく、そもそも相手に能動的にアプローチできる男も昔からたいしていなかったという事実もある。

内閣府「令和2年度少子化社会に関する国際意識調査」では、20~49歳未既婚男女を対象として、恋愛に対する能動性と受動性に関する質問をしている。具体的には、「気になる相手には自分から積極的にアプローチする」か「相手からアプローチがあれば考える」か、という設問である。

それによれば、「積極的にアプローチする」日本の男性の割合は22.7%であり、これもまた私の言う「恋愛強者3割の法則」にピタリと符号する。ちなみに、女性に至っては16.6%しかいない。

反対に、「相手からアプローチがあれば」という受け身体質派は、男性34.6%、女性45.6%である。男女とも受け身なのだ。そして、5年前に行われた同じ調査でも受け身体質はほぼ変わらない

それどころか、恋愛の告白は日本においては古来より女性から行っていたと考えた方が妥当なのである。

日本初のプロポーズは女から

「古事記」の中には、日本で最初に夫婦となったイザナギとイザナミのプロポーズのシーンが描かれている。男のイザナギのほうが声をかけるのを恥ずかしがっているうちに、女のイザナミのほうが焦れて先にプロポーズしてしまったというエピソードになっている。

その後、2人は、うまく子が産まれなかったため、再度イザナギのほうから声をかけるというプロポーズのやり直しをしている。男から声をかけないとうまくいかないという教訓めいた逸話がわざわざ神話に残っているというところが、非常に興味深い。

提供:イメージマート

神話だけではない。昔話に描かれているエピソードをよくよく見ると、有名な「鶴の恩返し」なども女性に姿を変えた鶴が、男の家に押しかけて、「妻にしてください」と告白するパターンである。

「鶴の恩返し」だけではなく、昔話には、動物が女性の姿になって人間の男と結婚するという「異類婚譚」が数多くあるが、「蛙女房」「蛇女房」などそのいずれも、女のほうから押しかけ告白をしているものばかりだ。

浦島太郎の本当の話

誰もが知る「浦島太郎」だが、「助けた亀に連れられて竜宮城に行った」という流れは、後世に作り替えられたもので、もっとも最古といわれる、713~715年ごろの『丹後國風土記』の中に書かれた浦島伝説では、こうなっている。

「浦嶋子(浦島太郎のこと)は、一人舟で釣りに出て、五色の亀を釣りあげた。彼がうたた寝をしている間に亀は美女に変身し、いきなりプロポーズされて、常世(竜宮城)へと連れられる。嶋子は常世で姫と結婚し夢のような3年間を過ごす」

つまり、亀こそが乙姫であり、浦島太郎も女性からのプロポーズを受けているわけである。

提供:アフロ

「異類婚譚」だけではなく、相手が人間同士の「炭焼長者」も、金持ちだがDVの夫と離婚した妻が、炭焼きで生計を立てている貧乏な五郎の家に泊めてもらい、女から告白して夫婦となる話でもある。

むしろ昔話の中では、男から告白して結婚したという話のほうが稀なのだ。それくらい、結婚における主導権は女の側にあったといえよう。昔話とは基本的に民間庶民の口承がベースとなっている。だからこそ、庶民の生活の原風景がそこに描かれているとみていいだろう。

恋愛に対して男が能動的ではないのは、40年どころか有史以来の伝統芸であり、ある意味日本人のDNAなのかもしれない。

フランスやイギリスの男も違わない

こういう話をすると、「だから日本の男はダメなんだよ。海外では…」という出羽守(でわのかみ-なんでもかんでも「欧米では」「北欧では」と海外の話を持ち出して日本にダメだしをする人のことを指す)が登場するのであるが、実は前述した内閣府の調査は日本以外にもフランス・ドイツ・スウェーデン・イギリスなどでも調査しており、その比較ができる(但し、イギリスは2015年のデータ)。

各国の能動・受動体質は以下の通りである。

ドイツとスウェーデンは確かに男女ともに能動体質なのだが、フランスもイギリスも男女とも日本と同様「積極的にアプローチしない」のである。フランスに至っては、日本男性より少ない。

この調査は、2015年も実施していて、その時もフランス男性は日本男性より能動的ではなかった。

案外、日本人だけではないのである。

写真:イメージマート

ねるとん方式の罪

そもそも、恋愛で付き合う際に「告白は男からするもの」という考え方自体、歴史が浅い。

これが、全国的に行動形式として流布されたのは、1987年に始まったとんねるず司会の人気バラエティ番組「ねるとん紅鯨団」だと考えられている。男女のマッチングパーティーのことを「ねるとんパーティー」などと言うが、その語源になった番組である。

この番組では、男女が集団でお見合いを行い、最後に、男が女の前に手を差し出して「よろしくお願いします」と告白するのが定番の流れだった。この方式は、今でも婚活パーティーなどではよく見られる光景でもある。

これ以前のテレビの恋愛バラエティは、「プロポーズ大作戦」や「パンチDEデート」などにしても、いずれも告白は、男女同時だった。この「ねるとん」方式が、「男から女に告白する」という形を世の中に広めた1つのきっかけだったのである。

ちなみに、未婚化が深刻になったのはこの「ねるとん方式」が広まって以降である。そう考えると、もともと能動的ではない男に恋愛や結婚の主導権を任せようとしたこと自体が間違いで、任せたところで能動的になれるのは結局恋愛強者3割の男だけで、残りの7割はモジモジするばかり。「告白は男からするもの」などと言われてしまったがために、女たちは待つしかないのだが、いつまで待っても来やしないのである。結果的に、女性の受け身率があがってしまったのだ。

浦島太郎や古事記のように女性に主導権を渡さないと、この未婚化や婚姻減は解消されないのではないだろうか。そう思いたくもなるのである。

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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