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「出世もお金も結婚も子を持つことすら無理だ」という若者たちの未来予想図

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:アフロ)

婚姻は間違いなく減り続ける

2021年の人口動態調査(概数値)が先頃公開されて、婚姻数が戦後最少の50万1116組に落ち込んだという報道が話題となった。

少子化の最大の要因は婚姻減であることは、当連載でも繰り返し述べていることである。婚活やマッチングアプリがどんなに流行しようとも、この婚姻減の流れを止める力はない。かつての皆婚時代を実現した時のように、婚活による結婚が結婚全体の5割を占めるなんていうことはありえないからだ。

そもそも「結婚したいが9割」なんていう論それ自体が正しくないことは以下の記事でも詳細に書いた通りである。

デマではないが正しくない。「結婚したいが9割」という説のカラクリ

もともと皆婚時代でさえ、「結婚に前向き」なのは男女とも5割程度以下なものなのであり、結婚とは個人の意志によるものではなく環境が決めることであることの証明であるのだが、「結婚したい」という意志ではなく、自分の未来予想図として「結婚しているだろう」と思い描くこととはまた別の話である。

40歳になった時どうなっているか?

そんな若者の未来予想図について、内閣府が全国の 13 歳~ 29 歳までの男女を対象として実施した令和元年「子供・若者の意識に関する調査」より見ていく。質問は「自分が40歳になったときどのようになっているか」というものだ。

自分が40歳の時に「結婚しているだろう」と未来を描けている若者はたった58%しかいないということである。結婚と子育ての割合はほぼイコールである。つまり、結婚しているだろうと予想している若者は、同時に子どもも持っているだろうと考えている。

2020年の国勢調査によれば、生涯未婚率と呼ばれる50歳時未婚率(45-54歳の未婚率平均)は、男28.3%、女17.8%であったことはこちらの記事でも書いた通りだが、このアンケートの対象年齢である40~44歳でみても、未婚率は男32%、女21%である(不詳補完値による計算式)。この調査データがそのまま20年後に反映されるとすれば、2040年40歳時点の未婚率は40%を超えるかもしれない。

出世もお金も諦める若者たち

結婚や子育ての意識より、実は注目したいのが、「出世」と「お金」に関する結果だ。40歳になった時「出世しているだろう」と予測しているのはわずか38%。「お金持ちになっているだろう」と予測しているのは35%にすぎないという点である。

10代から20代というまだまだ可能性を秘めている若者自身が、もはや自分の将来に出世も経済的裕福さも望めないと6割以上が思わざるを得ない社会とは一体なんなのだろう。というより、若者にそう思わせてしまった社会を作ったのは一体誰なのだろう。

提供:イメージマート

さらに、出世やお金や結婚や子育ての割合より、幸せの割合が若干高いことにも注目したい。

これは、「出世もしてないし、貧乏かもしれない。結婚もできてないし、子どもなど持てないかもしれないが、それでも幸せにはなっているだろう」と思う若者もいるということである。

一見、結婚や出世などしなくても幸せになる方法を模索するという前向きな姿勢ともとれるが、一方で、「分不相応な望みなど抱くことすらやめてしまおう。頑張ったところで、どうせ無理なものは無理だし、無駄なことはしても仕方ないから」という諦観の境地とも受け取れてしまうのである。

確信を持って「自分は選択的非婚なのだ」という人ならよいが、「本当は結婚したかったし、子どもも欲しかったけど、今更悔やんでも無意味なので、最初から私はそうだったと思い込もう」とする不本意未婚の理屈付けだとすれば悲しいことである。

コロナ禍で犠牲を強いられた若者

この調査は、2019年のコロナ禍前のものである。2020年4月以降2年余にわたるコロナ禍で、もっとも多くの犠牲を押し付けられたのも若者たちであった。

写真:イメージマート

外出も友達との交流も制限され、学校では運動会・文化祭・修学旅行などあらゆる思い出となる体験機会が剥奪され、大学生はせっかく入学した大学のキャンパスにすら行くことを禁止された。新たな人との出会いとなりえる飲食業などのバイト機会も喪失した。それは、交友機会や恋愛機会を喪失したに等しい。さらにいえば、10代や20代前半の多感な時期に、人とのふれあいによって生まれる「新しい自分」の創造機会すらなくなってしまったことになる。

コロナで11万組の婚姻が減ったという報道もあるが、それは違う。コロナのせいで減ったのではない。

コロナ禍の2020-2021年の2年間で結婚するカップルというのは、少なくともコロナ禍前の2019年以前にすでに出会っていたからだ。コロナによって結婚式や披露宴を延期・中止した事例はあるかもしれないが、コロナによって結婚が減ったわけではない。

それは、出生動向基本調査の「結婚した夫婦の出会い年齢と結婚年齢」から推計した「結婚する夫婦の平均交際期間」が4年以上であることからも判断できる。

つまり、コロナがあろうとなかろうと婚姻数は激減したはずであり、それをコロナ禍のせいにするのは妥当性を欠くし、大人たちの責任逃れにすぎない。むしろ、この2年間、若者の交流機会を奪ったことの弊害としての婚姻数の減少は、2024年以降に大きな影響を及ぼす可能性がある。

政府が発表したいわゆる骨太方針の中には「こども家庭庁を創設し、こども政策を推進する体制の強化を図り、常にこどもの最善の利益を第一に考え、こどもに関する取組・政策を我が国社会の真ん中に据えていく。結婚・妊娠・出産・子育てに夢や希望を感じられる社会を目指し…」などという言葉が並べ立てられてはいるが、子どもや若者自身が自分たちの未来に何の夢や希望も信じられない「今」を作ったのは誰なのか、大人たちは胸に手を当てて考えてみる必要があるのではないか。

フランクリン・ルーズベルトの名言をもじっていうのであれば、

「若者のために、大人はその未来を作れとまではいわない。が、せめて、大人たちよ。未来を作る若者たちの今を邪魔しないようにしよう」

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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