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出生数が増えない問題は「少子化」ではなく「少母化」問題であり、解決不可能なワケ

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:milatas/イメージマート)

問題は「少子化」ではない

少子化はまるで日本のお母さんたちが出産をしていないかのように言う人がいるが、それは間違いである。

確かに、2020年の日本の合計特殊出生率は1.33で、人口置換水準(長期的に人口が増加も減少もしない出生水準)といわれる2.07には遠く及ばない。社人研による将来推計でも、楽観的な中位推計でさえ今後2100年まで1.45を超えないし、低位推計であれば1.2止まりである。私個人の予測でいえば、せいぜい1.3あたりをうろうろすることに終始すると思われる。

とはいえ、合計特殊出生率が1.33だからといって、決して世のお母さん方が、1.33人しか子どもを産んでいないわけではない。

合計特殊出生率とは、15~49歳までの全女性のそれぞれの出生率を足し合わせて算出したもので、1人の女性が一生に産む子どもの数の平均とみなされる統計上の数値である。しかし、多くの人が勘違いしているが、全女性という以上、この中には、15~49歳の未婚女性も母数に含まれる。よって、未婚率が高まればそれだけ下がることになるのだ。

こちらの記事で紹介した通り、2020年の女性の生涯未婚率は16.4%で、東京都に至っては20%を超えた。1980年代まで5%未満だったものが3倍増以上になったのだから、合計特殊出生率が下がるのは当然である。

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既婚女性は平均2人の子どもを産んでいる

実は、以前と今とで、結婚した女性が産む子どもの数にそれほど大きな違いはない。

出生動向基本調査には「完結出生児数」という指標がある。これは、結婚持続期間(結婚からの経過期間)15 ~ 19年夫婦の平均出生子ども数であり、夫婦の最終的な平均出生子ども数とみなされている(但し、初婚同士の夫婦に限られている)。

これによれば、減少基調とはいえ、最新の2015年時点でも、1.94人であり、ほぼ2人近い子どもを産んでいることになる。

何よりグラフを見れば一目瞭然なのだが、第二次ベビーブーム期である1973年以降、それほど大差なく2人前後で推移していることがわかる。つまり、第二次ベビーブーム期のお母さんと2015年のお母さんとで産む子どもの数はそれほど変化していないということだ。

人口動態統計から、1950年以降の出生順位別構成比のグラフが以下である。

1950年代までは第4子以上の比率が高いが、1960年代以降から第二次ベビーブームだった1970年代前半も含め、現在に至るまでの約60年間にわたって、第1子から第3子の構成比はほぼ変わらない。

ついでにこの構成比から、各年の平均出生数を割り出すと、第二次ベビーブーム時代の1970年の1.74人に対して、2019年は1.76と逆に上回っている。つまり、こちらのデータでも、結婚した女性が産む子どもの数は、ベビーブーム時代と変わらないことが証明できる。

問題は、「少子化」ではなく「少母化」

もちろんこれは比率なので、出産実数では減少している。しかし、それは生まれてくる子どもの数が減ったというより、お母さんの数が減ったからである。

国勢調査ベースで見ると、1985年時点では、15~39歳の女性で1人以上の子を産んだお母さんは、約1060万人存在した。それが、30年後の2015年には、同年齢で497万人まで減少。母親の数が半分以下になったということだ。

つまり、問題なのは、少子化ではなく「少母化」のほうなのである。

子育て支援偏重型の今までの少子化対策が、的外れで成果をあげられない原因はそこにある。子育て支援政策それ自体は大事であることは言うまでもないが、残念ながらそれで少子化は改善されない。少子化はそもそも婚姻数の減少によるものだからだ。

写真:アフロ

政府も最近ようやく少子化対策重点課題の4番目くらいの低い位置づけで「婚姻数の増加」を上げ始めているが、身も蓋もない話をすれば、何をやっても婚姻数は増加しないし、出生数増加も100%ありえないと断言できる。なぜか?

婚姻数も出生数も増えない理由

確かに、計算上結婚すれば、女性は平均2人の子どもを産む。しかし、出生数が減り続けているのは、そもそも子どもを産む対象である母親の絶対数が減少しているからで、その減少の始点は1990年代に起きるはずだった第三次ベビーブームが起きなかったためである。

未婚化の影響ももちろん少なくはないが、15-49歳女性総人口そのものが1990年をピークに減少し続けているわけで、文字通り母数人口が減る以上、どう転んでも出生数は減るのだ。

1990年代後半に第三次ベビーブームも婚姻増も起きなかった要因は複合的で多岐に渡る。決してひとつに絞ったり、一言で説明できるものではない。その要因については当連載の他の記事でも言及しているので関連記事を参照されたい。

しかし、どんな要因があれ、確実に減少する女性人口基調の中で少子化を解決するのは不可能である。もし本当に解決しようとするならば、「強制的に結婚をさせ、強制的に3~4人以上出産する義務を負わせる」ということになる。それは、まるで1942年の「結婚報国(結婚によって国に報いる)」思想と変わらない。現実そんな政策を実現することは不可能。つまり、出生数を増やすことは不可能という結論になるのである。

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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