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シリアで国際テロ組織アル=カーイダがイタリア・マフィアの大物ブルーノ・カルボーネ容疑者を捕らえる!

青山弘之東京外国語大学 教授
Twitter (@mhmdsankary)、2022年11月16日

国際テロリストのアル=カーイダがイタリアのマフィアの大物の身柄を拘束した。

奇妙な取り合わせの捕り物が起こったのはシリア北西部のイドリブ県だ。

「解放区」を支配するアル=カーイダ

イドリブ県は、自由と尊厳の実現、独裁体制の打破をめざす「シリア革命」の最後の牙城と目され、シリア政府の支配が及ばないことから、活動家らから「解放区」と呼ばれている。だが、同地を実効支配しているのは、シリアのアル=カーイダとして知られるシャーム解放機構(旧シャームの民のヌスラ戦線)である。

シャーム解放機構は、高い軍事力と治安維持能力をもって「解放区」の軍事・治安権限を掌握するとともに、トルコの庇護を受ける国民解放戦線(シリア国民軍)やイッザ軍といった武装集団を主導している。また、シリア救国内閣を名乗るフロント組織に自治を委託し、トルコからの越境(クロスボーダー)人道支援も事実上管理している。

「シリア革命」の担い手を装うこのシャーム解放機構の総合治安機関が11月15日、イタリアの4大マフィアの一つカモッラのメンバーで麻薬密売人のブルーノ・カルボーネ容疑者を逮捕したと発表したのだ。

カルボーネ容疑者とは?

カルボーネ容疑者は1977年2月23日生まれの45歳。身長は186センチ、国籍はイタリア、麻薬密売人、麻薬や向精神薬を違法に取引する犯罪組織への参加の罪で2013年にイタリアで懲役20年の有罪判決を受けたが、逃亡したため、EUによって国際指名手配されていた。

2021年8月にアラブ首長国連邦(UAE)のドバイで逮捕されたカモッラのメンバーで麻薬密売人のラファエル・インペリアーレ容疑者(ナポリ出身)の「右腕」と目される人物。2019年にUAEの警察当局は、ドバイ国際空港でドミニコ・アルファーノを名乗るビジネスマンを逮捕、同人物はカルボーネ容疑者だと疑われたが、2020年11月に釈放されていた。

総合治安機関のディヤー・ウマル報道官の発表によると、イタリアから逃亡したカルボーネ容疑者は、名前や国籍を偽り、賄賂や違法な方法を駆使して、多くの国に出入国を繰り返し、逃亡を続け、長らくUAEで潜伏した後、最近になり、欧州、トルコ、「解放区」を経由して、シリア政府の支配地に入ろうとしたところを、「解放区」の(国境)通行所で身柄を拘束されたという。

身柄拘束の経緯

拘束されたのは数ヵ月前。カルボーネ容疑者は捕らえられた際、スペイン語を操り、ロレックスの腕時計の偽物を取り引きする海外逃亡中のメキシコ人を装っていた。だが、総合治安機関は、入国の日付を確認できなかったために拘束した。そして、数ヵ月にわたる取り調べを経て、カルボーネ容疑者本人であることを特定、カルボーネ容疑者も麻薬密売、資金洗浄、違法送金などの国際犯罪への関与を認めたという。

ウマル報道官によると、カルボーネ容疑者は、ロシア国籍を不正に取得して、シリア政府の支配地への潜入を試み、同地を潜伏地とすることで、麻薬密売を続けようとしていたという。

一方、シリア救国内閣のムハンマド・サンカリー広報局長も15日、フェイスブックで、救国内閣内務省がこの3月に「解放区」を経由してシリア政府の支配地に入ろうとしていたカルボーネ容疑者を逮捕し、イタリアに身柄を引き渡したと発表した。

イタリアのナポリ警察も、これらの発表に呼応するかたちで、ローマ・チャンピーノ空港に移送されたブルーノ・カルボニ容疑者の身柄を引き取り、逮捕したと発表した。

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリア地震被災者支援キャンペーン「サダーカ・イニシアチブ」(https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』などがある。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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